エンジェル・ハート

　そしたら、あの人は静かに微笑んで頷いてくれた。

　やっぱり優しい人なのかも知れない。





　輪廻を例えるとき、

　この世の人口を考えると不思議だろう？

　僕もそう思っていた。

　その問いかけに答えてくれたのは、やはり、あの人だ。

　僕の目の前に天秤を差し出すと砂丘の砂を取り出した。

　あの人は僕に答えを教える変わりに、天秤を水平に保つようにと命じた。

　手にした砂は湿りっけのない黄砂の砂だった。



　僕は砂を手に問いかけてしまう。見殺しにしてしまった浩太は僕を恨んでいないのかと強く聞きたかった。

　だけどあの人は先を促すだけで、なにも教えてはくれない。



　疑心と不安。僕は本当に死んだのだろうか？

　ここから一歩も動けない理由。

　本当の僕はまだ生きているはずだった。それを無理に頼んだのは云うまでもなく僕自身だ。



　飽き飽きするほどの単純作業のなかで、うんざりしながらも僕は天秤に砂を落とす。そうしなければ、あの人はなにも答えてはくれない気がしたから。



　どれほどの時間が過ぎているのだろう。

　愛理の張り裂けそうな想いが僕自身の痛みとなって跳ね返ってくる。

　いくら集中したって、愛理の痛みには敵わない。

　乾いた砂が、ふと湿り気を帯びたとき、あの人は一点を指差した。

　人であろう姿形が瞬く間に強風に煽られて細かい砂となって吹き上がっていった。



　あの人は言った。

　僕と同じように疎まれる命となって、あの星へと無数に散らばっていったと。





　　　　　＊







　罪を犯した数だけ、粒子が細かくなっていくのは何故？



　あの人はいつだって本当の答えを教えてはくれない。

　僕の過去、僕の過去も愛理を苦しめた人たちと同じなの？！

　だから、だから、こんなに苦しかったの？



　ねぇ、愛理はどうなるの？！

　僕はどうしたらいい？！

　

　こんなに苦しいのに、

　愛理の苦しみがこんなに届くのに、まだあなたは微笑み続けようとしている。



「どうしてなの？！　答えてよ！！　どうして――――」





　はっと我に返るように僕は目を覚ました。



　愛理はどこ？

　大きく背伸びをする目に愛理が映る。ベランダで洗濯物を干しながら愛理は僕を見た。

「おはよう、エッジ」





　起きたばかりの顔を覗くとクスクスと笑う声がある。