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 遠方には森と町、近場に見えるものは金属ばかり──かと思っていたのだが、足場の隅には登山に使われそうなナップザックと、丸められた寝袋が転がっている。まさか、ヴァージルはここで寝泊まりしていたのだろうか。

「あえて自分の痕跡を残しているんです。依頼主が疑われたら、商売あがったりなので」

 自分が疑われることこそ避けるべきなのでは、と思うものの、僕は動機という点でグレッグ・ブリュー殺しの第一容疑者になりかねない立場だ。たしかに、僕に関わりのない証拠が出てくれるととても助かる。帽子も手袋も、僕の証拠を残さないための指示だったのだろう。

 恩を仇で返す、という感覚はどうしても残ってしまうが。

「それでは、銃を」

 ヴァージルが懐から銃を取り出し、グリップをこちらに向けて差し出してきた。

 黄金色のアンティーク銃だ。ガラスケースに守られていないのが不思議なくらいの装飾は健在。改めて見ると、弾丸を込めるのも、引き金を引くのもためらわれるくらいの美しさだった。

 恐る恐る、グリップを握る。ヴァージルから僕に手渡された銃は、ずしりと重い。

「あ、込める前に、弾丸をこちらに」

 言われるまま、ヴァージルが持つ白布の上に実包を乗せる。

 おや、と彼の口からこぼれた声は、その重さに対するものだろうか。布の中で実包を揉むように拭くヴァージルが、感想を述べる。

「いい重さです。うまくいきますよ」

 言いながら実包の指紋を拭き取るヴァージルの表情は、どこまでも優しかった。

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