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「よし、分かりやすいように言ってやる。天才魔術師である私は、魔術を使うのもおぼつかない、生まれたての仔馬のような輩に守られる必要など、これっぽちもない。宣言する。根に持つぞ。ずっと覚えておいてやる。そして許さない」

「おい──待て、話が繋がっているようで繋がってな──というか傷に触るのをやめ」

 傷を小突き続けていた【世界】は、最後に再び脇腹を掴んでわずかに力を入れた。

 回避も防御もままならない体を内心で呪いながら、十三番は【世界】へ目を向ける。いずれ痛みをもって止められる言葉を返すよりは、【世界】の真意を読み解いた方がよさそうだった。

 最初は穏やかで、次に自信満々だった表情は、いまや不満げに歪んでいる。

 言いたいことが伝わらない子どものようにも見えたが、【世界】と子どもの間には決定的な差がある。

 子どもは言葉を尽くして伝えようとするが、【世界】はまだ言葉を選んでいる。

 それで伝わらないと不満を抱いているのだから、いっそ子どもよりも我がままだった。

 仔馬はどっちだ、などと言えば、またいらない怒りを買いかねないが。

「許さないぞ」

 手の力を緩めた【世界】が、十三番の体に額を押しあてる。

 言葉を発した頭が揺れるたび、十三番の脇腹に弱い痛みが走る。耐えられないほどではないが、【世界】に責められているようにも思えた。

「君はもう、簡単に死なない体になっているが──それでもあえて言う。死ぬなど許さん。【死神】が選ぶ人間は、【死神】を持つ私の弟子は、十三番、君が、最後だ」

「────」

 魔術師【世界】が、自分とその弟子のために作った魔術とその象徴。

 アルカナの一つである【死神】にも、例外なく「かつての持ち主」がいて、【世界】はその弟子の死に際を看取っているはずだった。

 それどころか、弟子たちの死を見届けて以降、【世界】は神殿に不変を望み──それを打ち砕いたのが【死神】と十三番ではなかったか。

 その気付きに引きずられて、十三番は違和感の正体に思い至る。

 背後から名を呼ばれたときからまとわりついていたそれは、【世界】に名前を呼ばれたことそのものに起因していた。

 ──最初に名付けたとき以来、【世界】は十三番の名を頑なに呼ばなかった。

 弟子のために作った魔術を勝手に使い、望んで維持し続けた不変を崩した相手を受け入れたくない気持ちが、昨日までどこかにあったのだろうか。

「……【世界】」

【世界】は長いため息を吐き、十三番の体から身を離す。

「なにを言われても許さんぞ」

 まるで子どものような返しだった。

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