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【世界】が開いた扉の先には、用途の読めない部屋があった。

 外壁と同様の磨かれた石が露出した部屋には、とにかくものがない。

 奥の壁にある窓に日よけの布や木の板すらなく、快適性や居住性を排したような造りになっていた。

 部屋の中央にただ一つ、円柱型の台座がある。

 入ってくる日差しの量は少なく、ほとんど窓辺しか照らされていない。どうやら昼を少しすぎたところらしかった。

「どうなってもいい部屋にしようとしたら、こんな風になってしまってね。椅子すらないけど許してほしい」

 裸足のまま歩いていく【世界】を追って、十三番は背負った大鎌が壁に当たらないように部屋へ入る。

 石の冷たさを嫌ったらしい【世界】は、日の当たる窓際まで行ってから言葉を続けた。

「台の上を見たまえ」

 体に巻いただけの布を直す【世界】を横目に、十三番は台座へ向かった。

 アルカナの安置室のものよりも底面積が狭い台座は、代わりに腹までの高さがある。

 台に置かれていたのは、一本の糸──ではなく、それよりも細い、

「金の、髪……?」

 口に出してから、十三番は既視感を覚える。

 脳裏で「手に絡んだ髪を振り払う」記憶が瞬き、十三番はほとんど反射的に目を反らした。

 その視線の先で、【世界】は窓枠に腰掛けて薄く笑んでいる。

「君の敵をここに導いたものさ。持ち主は死んだのに、どういうわけかまだ力を失っていないらしくてね」

 不思議だろう? と続ける【世界】に目を向けたまま、十三番は台座から距離をとる。

 肩に走る痒みのような感覚から、意識を反らす必要があった。

「象徴、なのか?」

「ん、私たちの言い方を使えばこれは象徴だし、彼らが使っているのは魔術だよ。彼らにそれを言うと、それこそ全力をもって否定されるけどね」

 覚えのある十三番が、数瞬だけ眉を寄せた。

【世界】は肩をすくめると、足を前後に振りながら解説を続ける。

「彼らの魔術──じゃなかったな、奇蹟は、基本的に象徴を必要としない。象徴の補助がない代わりに、複数人の意思を同調させて強化するんだ。だから、その髪の毛のようなものがあるのは珍しい。まぁ、今回の場合は使わざるを得なかったのだろうけど」

 陽光に照らされる【世界】の髪とは対照的な、薄暗い部屋の記憶が十三番の脳裏に呼び起こされた。

 振動する髪と、呼応するように揺れた空気、それに次いで現れた五人の白服。

 まるで、髪の毛が存在する場所を起点として、自分たちの向かう場所を決めたような。

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