地球調査隊
パチ屋に灯りがついていたので自動ドアを開けて店内に入る。華やかな照明が生きている店内は無人で、ずらりと並んだパチスロやパチンコ台が繰り返しデモ映像を流しているだけで、軽く見渡したが客も店員も誰も見えず、しかも店内には蛍の光が流れていた。そのメロディーは無人の店内に相応しく物寂しく響いていた。
本来ならにぎやかで軽快な音楽が流れているはずなのに、そういう気分ではない誰かが最期に店の機械をいじって店内BGMを蛍の光に変えたようだ。
完全防備の宇宙服は、どんな細菌も通さない。地球調査隊の彼は、その物々しい格好でさらにパチ屋の店内を歩き回ってみるが、誰もいない。やはり、地球人は完全に滅亡したようだ。なぜそのバチンコ店に電気がついているのか調べてみたら、屋上に設置された太陽光パネルが電力を供給しているだけのようだ。よく調べてみると奥の方にひっそりと遺体が一つだけあった。パチンコ台の一つに座り、パチンコを打っている状態で死んでいた。たぶん、もうそこから動く体力がなく、大好きなパチンコの前で息絶えた様だ。これまでの調査で、致死率の高いウイルスが地球上に蔓延し、それに対抗するワクチンを作る間もなく地球人は滅んだようだ。彼は科学者として、銀河系の多くの知的生物の研究をしていた。謎の病気の蔓延で滅んだ文明の跡を調査するのは、この地球が初めてではない。この地球でさえ、地球の覇者だった恐竜が滅んで、哺乳類の人類が台頭した。銀河系全体で見れば、地球人が滅んだことは珍しいことではないのだが、助けられる機会はあった。だが、銀河系の知的生命体が集まっている銀河連合は、自分たちの星系を飛び出す力のない科学技術のレベルの低い原始的な種とは関わらないと決めていた。
自力で自分たちの星系を出て来た相手だけを知的生命体と認めるというのが連合の考え方だった。確かに、進化の途中にある生物の接触に慎重になるのは分かる。分かるのだが、我々の持っている科学力ならば、地球人類を滅亡から救えたと考えると、後味は悪い。こうして滅んだ跡を調べ上げて、地球人という種がいたということを記録して後世に残してやることしかできないのは、少し切ない。
パチンコに向って死んでいるこの遺体が、最期の瞬間何を思っていたのかは、わからない。彼に分かるのは、これらが遊びのための機械で最期まで遊びながら死にたかったのだろうという推測しかできない。地球を捜査して、地球人が、遺体や遺骨を地中に埋めて死を弔う種だということはわかっていた。だが、その遺体が多すぎて、今回の我々学術調査隊の人員だけでは、滅亡した地球人を弔いきれない。
いまは太陽光パネルが正常に機能しているが、いずれ、ここも壊れて、すべてが風化するだろう。その前に記録することだけが彼のできることだった。しかし、店内に流れている蛍の光のメロディーは異星人である彼にも切なく聞こえた。


