最終話 リースとアゼル
《数日前 ティアの街裏路地》
「くそがあぁ!! 仲間募集をかけてもろくなのが来ねえ! なにが雑務しかできませんだ? 薬学の知識もねえ。回復魔法も使えねえ。雑務屋しか来ねえじゃねえか?! どいつもこいつも本当に程度が低いったらあやしねえぜ! これも全部。シェリルがパーティーから抜けたせいだ!」
(ほう?……ならば、そのシェリルというのを連れ戻せばよかろう)
「あぁ?! 誰だ? 誰かいるのか?」
(俺の名前はルガルビース……かつて、『魔法の短剣』で切られ。無力の死念に堕ちたモノだ)
「あん? ルガル……なんだ?」
(力は貸してやろう。お前は俺に身体を渡せ。そうすれば、そのシェリルとか言う者は、またお前の所へと戻るだろう)
「ヒクッ!……よくわかんねえが。シェリルが俺の所に戻るなら渡してやるぜ。こんな身体……どうせハリボテ勇者の身体だからな」
(……契約は成立した。ならば行け。あの忌々しい俺を殺した《万能師》の元へと)
「あ? 万能師? なんだそりゃ……あが?!……あぁぁあ?! 身体が痛い……まるで変形してくみてえじゃねえか!!…………ルオオオォォ!!」
◇
『死ね………〖ファングル〗』
「……?! この気配は! エリシア、抱き抱えますよ!!」
「うぃ? はい。お師匠うぅ?!!」
『クソがあぁ!! 躱してんじゃねえぞ! 弱虫リース!!』
「君は……アゼルなんですか?」
「犬のバケモン?」
『あぁ、そうだとも! てめえ……やっぱり俺のシェリルと一緒に居やがったか。てめえとシェリルのせいで俺は散々だ。責任取りやがれ!! 弱虫リース!!』
紅色の肌に半人半狼の姿ですか……アゼルのこの姿はいったい。魔人化でもしたのでしょうか?
『ぼーっとしてんじゃねえぞ。てめええぇ!! 〖ポイズクロウ』
「お、お師匠!! バケモン来るよ~!」
「あ、はい。対処しますね。〖ウィンドブレイク〗」
『?! なんだ? その上級魔法並みの魔法攻撃は? てめえが何故、そんな魔法を放て……ぐおぉ?!』
あれ? 軽い初級の風魔法を放っただけなんですけどね。アゼル。体重減量でもしたんでしょうか?
「……吹き飛ばし過ぎましたかね?」
「お師匠……しゅごい」
「キャンキャン~!」
「ちょっと! リース! 大丈夫? なによ。あのバテンウルフみたいなバケモンは?」
「リース君。怪我はありませんか? 癒してあげましょうか?」
「は? ナナリー、貴女、なにを言っているのよ?」
こっちの爆発と変態したアゼルの出現に気づいた。シェリルさんとナナリーさんがやってきましたね。2人が爆発に巻き込まれなくて良かったです。
「いえ、癒しは入りませんが。戦闘には参加して下さい…来ます」
「「来る?」」
風魔法で吹き飛ばした茂みの方から、凄いスピードでアゼルが飛び出して来ましたね。
『ガルルル!! リース! てめええぇ!! 俺の身体をこんな傷付けやがって!! 殺してやぞぉ!』
飛び出して来たアゼルはなぜか身体中ボロボロでした。茂みの奥でいったいなにがあったのでしょうか?
「うわ~! 凄い傷ですね。アゼル、病院いった方がいいですよ。街にありますけど」
『ふざけてんのか。てめえはぁぁ! 昔っからそうだ。お前は力はないくせにどこか余裕がある……それを見て俺はいつもイライラしてたんだよ! 殺してやる!! 〖ソウクロス〗』
「………相変わらず。攻撃が単調で遅いですね。アゼルは……〖シャイニングランス〗」
「嘘? あれがアゼル? ただの人狼じゃない。支援魔法を皆にかけるわ。〖リフレイン〗」
「……魔に歠まれたんですかね? 〖ファイアーアロー〗」
「………えっとえっと……〖ファイアーボール〗」
シュボッ!
……最後のエリシアの攻撃。放ったと同時に消えたのは見なかった事にしましょう。
付与師のシェリルによってかけられたバフにより。僕とナナリーさんの魔法の威力が底上げされましたね。
これはどちらの攻撃もアゼルの身体へと届いて……
『グァ?! なんだこの攻撃は? これでは……分離され俺の死念体の身体が完全にこの世から……消え失せ……る……』
ドサッ!
アゼルに取り憑いていた何かが、アゼルの身体から完全に抜け落ちましたね。良かったです。
「……アゼルが元の人間の姿に戻った? 裸で? 服着なさいよ。気持ち悪いわね」
「……勇者のくせに小さいんですね。色々と」
全裸姿で倒れたアゼルに向かって、凄い事を言っていますね。可哀想……
「キャンキャン!!」
「レッド……何を呼んでるの?」
「なんですか? エリシア。そんなに騒いで?……何か大きいモンスターが来ますね」
『ルオオオオオオオ!!!』
茂みの奥からキングレッドウルフ?!……あれ? 僕達には目もくれず。アゼルの方へと向かって行きますね。
「キャン!」
『グルルル?!』
「キャウン!」
『ワファ……ガルルル!!』
「ごべぁ?! な、なんだ?! や、止めろ! そこは俺の大事な所だぞ。シェリルとの未来の為の……引き裂くな。止めろ! 止めやがれ!! うおおぉ!! 俺は餌じゃねええ! 連れ去ろうとしてんじゃねえぞ。クソ犬がぁあ!」
『ルオオオオオオオ!!』
「ひぃ?! ごめんなさい!!」
キングレッドウルフはアゼルの身体を咥えられね立ち去ってしまいました。
「キャン~!」
「へ? アゼルが君の事を苛めたから、お母さんがアゼルをお仕置きする為に連れて行くんですか」
「キャン!」
「フムフム。不能になるまで使えなくして、全ての記憶を消して野に放つと。そうですか、色々とえげつない様な気がしますが。その方が彼の為でしょうね」
「キャンキャン!」
「はい! またどこかでお会いしましょう」
レッドウルフの子供は僕にそう話すと、茂みの奥へと消えて行きました。
「……なんだったのかしら? アゼルの奴」
「さあ? 私達の気を引く為のパフォーマンスだったんじゃないですか?」
……結構な騒ぎだった筈なんですが。シェリルさんもナナリーさんも全然気にしていませんね。流石のお二人。図太いですね。
「……! そうだ。エリシア、このまま逃げちゃいましょう。シェリルさんもナナリーさんの反応を見ていると。僕に対して色々と思惑があるみたいですからね〖エスケープ〗」
「うぇ? 逃げる?……おぉ! お師匠と私の身体が透明になってる不思議~!」
ボワワワ~ン!
「あれ? 2人が居なくなったわよ」
「これは…風魔法の移動魔法ですか?! つっ! 早く追いかけましょう。逃げられちゃいますよ」
「へ? 逃げる? わ、分かったわ!」
こうして、僕とエリシアは2人だけで、元居た草原へと戻ったのでした。
やっぱりギスギスするよりも、気ままに旅をしたいですからね。
暴走するシェリルさんが居ればナナリーさんを王都まで送ってくれると思いますし。
僕達は僕達のペースで王都へと向かうことに決めました。
「ファイアーボール」
ボッ!
「おお! お師匠が言った通り。魔力とマナ混ぜたら、ファイアーボールの威力上がった」
「それは良かったですね。エリシアの魔法の教え方もだんだん分かってきましたし。これからはどんどん腕を上げさせてあげますよ」
「ウオォ! 楽しみ過ぎる。お師匠……お?」
「? どうしましたか。エリシア」
「お師匠……奴等が来る」
「奴等?」
「うん。お師匠が巻いた奴等が来る。3人も」
「……まさか?」
「コラアァ!! リース! 今度は逃がさないわよ!」
「リース君! 君、そんな魔法まで使えるなんて聞いてませんよ!!」
「リース殿下! やっと見つけた! 今度はちゃんと護衛させて頂きますからね」
「シェリルさんにナナリーさんに……あれは? ユリネさん?……逃げましょう。エリシア! 僕達の自由気ままな2人旅の為に」
「うぃ! 了解。お師匠~!」
「「「待ちなさい~!!!」」」
どうやら僕とエリシアの旅は色々と前途多難で、これからも楽しい出会いと別れの日々になって行きそうです。
まあ、今は後ろから追いかけてくる女の子達から逃げるのが先決なんですけどね。とほほ……
〖追放された雑用薬師はスラム街孤児のエルフ少女と自由気ままに旅をします。〗1章終わり


