第2話 エリシアのお師匠様に
「あの? どこまで付いてくる気ですか? エルフさん」
「エルフさんじゃない。エリシアと呼んで。リース」
「……どこまで付いてくる気でか? エリシアさん」
「"さん"はいらない。エリシアで良い」
勇者パーティーから追放された後、スラム街で孤児のエルフ娘さんの傷を癒したら、懐かれてしまったのでしょうか?
僕の後ろを付いてくる様になったんですけど?
「えっとですね。エリシアさ……」
「エリシア!」
「エリシア……僕はこの街から去る所なので、僕に付いてきても意味がありませんよ。街に戻ってお仲間のエルフ族に保護してもらって下さいね」
「嫌だ。他のエルフなんて信用できない。リースに付いて行くわ」
なかなか強情ですね。このエルフ少女さんは……傷が治って包帯が取れたから分かった事ですが、エリシアはかなり顔立ちが整っていますね。そして、どこか気品があるというか―――
「それは困りましたね。僕はこれからお師匠様に会いにフォルティス王国へと向かうので、危険な旅になるのですが」
「私はこれでも結構戦えるわ。油断して人攫いに捕まったけど。シュッ!シュッ!シュッ!」
シャドーボクシーグを始めましたよ。この娘……大人しいそうな見た目に反して、やんちゃな性格なんでしょうか?
まりましたね。荷物を持った状態で、このフルスの街にずっと居ると、アゼル達に見つかってしまう可能性がありますね。
《《今》》、持っている貴重品の数々を寄越せなんて言われたら、たまったもんじゃありません。
仕方ありませんね。エリシアには途中まで同行してもらって、エルフ族の村の集落でも見つけたらそこで保護してもらいましょう。
しかし、エリシアが本当に強いのか気になる所……
「そうですか。それなら、エリシアがどれだけ強いか見極める為にモンスターと戦ってもらいましょうか。それで、そのモンスターを倒せたら一緒に旅に同行してもらっても良いですよ」
「……え? モンスターと戦う? 私が?」
何でそんなに驚いてるんでしょうかね? さっきまであんなに自慢気に戦えると自分で言っていたのに………怪しいですね。
まぁ、戦い方を見せてもらえば、エリシアがどれだけ強いか分かりますね。
◇
《ティア草原》
「……………無念」
草原に静かに横たわるエリシア。
「キュキュイ!」
エリシアを倒して勝ち誇る一角兎《ホーンラビット》。
「……弱っ!」
ついつい叫び声を上げる僕。
「…………油断したわ。次は勝つ……(グスン)」
涙目になりながら立ち上がり。一角兎《ホーンラビット》を親の仇の様に睨み付ける、エリシア。
「いやいやいやいや! ホーンラビットですよ。Eランクのモンスター……それを魔法の短剣を使って倒せないなんて。凄いですね。エリシアは」
「愛称が悪かったわ。次は勝つ」
いや。次はもうないんですけどね……やっぱり、サルスの街に戻ってエリシアをエルフ族の冒険者にでも保護してもらわないといけませんね。
「エリシア。残念ですが、貴女を旅に連れていく事はできません。流石に自分の身も守れないとなると無理がありますからね」
「む、無理じゃない! 今は調子が悪いだけ! それとリースは一角兎《ホーンラビット》倒せるの? 雑用薬師なんて聞いたことない職業《ジョブ》だし」
何故か僕の強さを疑い始めましたね。追いて行かれると思って、やけになってるんでしょうか?
「…………凄く怪しい」
「な? 何ですかその人を疑う目付きは? 良いでしょう! そんなに疑うのでしたら、僕の実力の一端を見せてあげましょう! 先ずは可燃性のあるヤコブの実の油脂が入った瓶をホーンラビットに投げつけます」
「ほうほ……う?」
パキンッ!
「キュキュウゥ?!」
おお! ちゃんと命中しましたね。良かった。
「そして、無詠唱で火魔法『ファイアーボール』を撃ちます」
「無詠唱?………無詠唱で魔法?」
ボッ!
「ギュギュイャアアア!!」
ホーンラビットにいきなり火が灯りましたね。一瞬だけ一角兎《ホーンラビット》の断末魔が聴こえました。
「…………凄い火柱が上がってる。凄い火力。凄い《《リース師匠》》!」
「リース師匠?……誰が師匠ですか?」
「貴方……私に魔法を教えて。お師匠様!」
エリシアが目を輝かして、祈りのポーズで僕を見つめていますね。
「………何でそんな急展開になるんです?」
◇
《ティアの街 フリークの店》
ここはリースがよく通っていた。世界のありとあらゆる情報が集う情報屋。そんな場所に勇者パーティーの1人、シェリルがやって来ていた。
「え? リースはスラム街の方に行くって言ってたの?」
「は、はい! 数時間前に、最後のお別れにと挨拶しに来てくれました」
「そう! 助かったわ。ありがとう!!」
「シェ、シェリルさん? どちらに行かれるのですか? リースさんがお別れをしに来てくれたのは、数時間前の事ですよ。もうこの街には、リースさんは居ないと思いますが……」
「それでも追いかけるわ。だってリースが居なかったら、あんなハリボテの勇者パーティーなんて、直ぐに崩壊してしまうもの」
「……崩壊ですか?」
「ええ、だってあの勇者パーティーの要は、リースだったんだから」
リースが居なくなった後、勇者パーティーを1人抜け出して街に出たシェリルは、スラム街の方向へと走り出した。
◇
《再びティア草原》
「お師匠様。これからよろしく。魔法とか雑用教えて。お師匠様とのこれからの旅、楽しみ」
「目をランランと輝かせて……何でこんな事になるんですか?」
こうして僕にエルフ少女の弟子ができ、一緒に旅をする事になりました。


