対面
1550系を巡る件で、新しい動きがあった。
玉城順を名乗る男性が、若旦那が通った謎の渦を経由して、『オームラ』の里を突然訪れたのだ。
玉城は『日本』のとある大手鉄道会社の社員とのことで、1550系の元持ち主を名乗った。
里の民はまたしても騒めいた。
里長のカカシはジルをすぐ呼び出し、玉城を丁重に歓迎する。
スーツ姿のさわやかなイメージのある男性、リノは興奮していた。
「『日本』という国には、ああいう姿の男の人が多いのかな?!」
群衆が注目する中、玉城は集会所へと案内された。
そこで、1550系車両が消えた経緯について詳しく話した。
「まさか、我が里に来た車両、『電車』とか言ったな。玉城殿の国では60年も前からあんな列車を保有しておったのか!」
「はい。当社はあの車両をどこかで引退させようと思っていたのですが、しかしこの里に存在していたとは・・・・・・」
ジルは興味本位で「『日本』には電気の力で動く車両があると聞きました。信じられないことですが本当ですか?」と尋ねる。
「はい、当社の車両は全車両が電気で動く『電車』車両です。あの車両は新しい制御装置の試作車でした」
玉城の冷静な返答に「おおっ」と二人は驚く。
「しかも、『新幹線』もあるようだな。時速200kmぐらいで走行するとか・・・・・・」
「はい、国内最速で時速320km運転を実現したケースもあるようです」
「320km!」
カカシはとにかく追いついていけなかった。
玉城には色々と質問をした。
『日本』の暮らし、『日本』の鉄道のことを。
信じられないことに彼ら彼女らは電気と共存した生活をしており、『家電』というツールで生活を豊かにし、鉄道の発展も電気の発展とともに高速化を実現し、安全性や快適性も『オームラ鉄道』より60年進んだ技術を導入している。
玉城の所属する大手私鉄会社も、環境に優しいクリーンエネルギーで動く鉄道システム、ただの森のような場所を街へと変貌させた歴史などについても開示した。
ジルは夢のような世界に思えてきた。
「我が社はまだ蒸気機関を利用している。『日本』という国は本当にすごい国だ」
カカシは咳払いをすると「あの車両、見てみるか?」と尋ねる。
「はい、お願いします」
ー列車に揺られて30分ー
神楽耶村の車庫まで玉城を連れてきたジルとカカシ、幹部たち。
玉城は車庫で留置されていた1550系電車を見て驚く。
「間違いありません。当社の所有していた車両です」
「やはり、この車両を返してほしいかね?」
「そうですね・・・・・・。本社に一回持ち帰らないといけませんね」
ジルは寂しそうな表情を浮かべた。
「玉城殿、この車両を譲ってもらえませんか?どんな形でも構いません。この車両、我が鉄道に導入すれば老朽化した車両を置き換えられる。すまないがどうか・・・・・・」
「まずは本社や技術部に相談させて頂けると幸いです」
玉城は冷静に回答する。
ー数日後ー
どうやら『日本』では、謎の渦を自然発生させることができる装置を開発したそうだ。
その渦は『ゲート』と呼ばれ、『オームラ』の里を行き来できるようになった。
その日、電鉄会社の営業車と日本政府の閣僚らを乗せた車が神楽耶村の車庫へと向かい、1550系の視察に来た。
閣僚や電鉄会社の役員、電鉄会社の技術課も「おおっ!」と声を上げた。
技術課の盛岡はつい笑顔を見せた。
「こいつ、こんなところで元気していたか!」
盛岡は1550系の整備を担当したこともあり、車両の状態を調査することになった彼は新人整備士たちを集めて、「よし!こいつを徹底的に調べるぞ!手を抜くことなく隅々まで調べるんだ!」と意気込んだ。
車体・車内・台車・モーター・制御装置など、隅々まで調べ上げた。
分解の際に床下の配線の艤装が必要なことが判明したこと、取り外して修繕できていない部位を複数発見した。
営業の玉城はオームラ調査チームを立ち上げ、技術部長に盛岡が加わることになった。
営業と技術の両者が、異世界に来た自社車両の状態を調査するため、連携して調査・修理することになった。
「玉城さん、とりあえず床下・内装などの修復が必要です。しかし、こんなところに飛ばされても機器の一部は無事ですよ」
盛岡の報告では、動力と内装以外はまだ状態がいいらしく、修理可能とのことだった。
この日は電鉄会社の調査チームの総力を持って、1550系電車の調査と修理を急ぐ。
夕方、『日本』と『オームラ』は初の異世界間で外交関係を樹立することが決定し、『オームラ』にとっても新しい歴史を樹立することになった。


