トランスロイド
2053年、それはAI技術・ドローン・小型ビーム兵器の実用化など、目まぐるしい変化から2・3年も間もない技術的変化の激しい年だった。
しかし人類は度重なる気候変動や環境の変化によって、絶え間ない危機を迎える。
そんな中で、イギリスでは病弱な路地裏の孤児『ストリートイレギュラーズ』にマイクロマシンやマイクロシリンダなどを埋め込み、肉体を人工的に機械化する『トランスロイド』開発試験が見事に成功し、飢餓や疫病に苦しむ人々は『トランスロイド』化を望んで、肉体改造を望み、イギリスなどの西欧諸国では、総人口の半分近くが『トランスロイド』として新しい命を得た。
結果的に経済的に苦しむ貧困層の半数近くは職に就き、誰もが豊かな暮らしを約束されるはずだった。
しかし、決して人類において『トランスロイド』は歓迎されてばかりではない。
長らく国連・西欧諸国と協調路線を締結していた南アフリカで独立運動の気運が拡大し、同時に反『トランスロイド』運動も拡大していく。
後に反『トランスロイド』のナチュラリストたちは肉体強化を忌み嫌う武装集団『ヴァイル』を結成、リーダーである南アフリカ独立運動の首謀者ハデスは、多くの反西欧テロ組織を吸収し、フランス・パリ、リヨン、イタリア・ミラノ、ノルウェー・オスロ、ドイツ・ベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、イギリスはマンチェスターなどで大規模自爆テロを引き起こす。
時代はすでに、『トランスロイド』の民と反『トランスロイド』のナチュラリストで二分化され、時代はさらに混沌を極めた。
増長した『ヴァイル』が次に牙を向けたのは、『トランスロイド』先進国であるイギリスであった。
エディンバラ周辺の海に浮かぶ人工島、物々しい研究棟が立ち並ぶ『トランスロイド研究所』が狙われるだろう。
『トランスロイド研究所』とは。
次世代の『トランスロイド』の開発を推進する国連・イギリス主導の国際的研究機関であり、主に重い怪我や病気などで満足に体を動かせない子供や老人のためのマイクロマシン強化試験や『トランスロイド』の若者のために職業訓練などもこの研究所では行い、言わば『トランスロイド』研究の頭脳が結集された場所であった。
国家機密も多く扱っているため、人工島に隔離されており、エディンバラと『トランスロイド研究所』を結ぶ高速道路、フラワーロードにはいくつかの検問所が設けられ、人の往来は厳重になされている。
しかし研究所のメンバーは『ヴァイル』に目を付けられることを恐れていた。
リーダーのハデスは『トランスロイド』の頭脳である研究所の存在に興味を持っており、すでに西欧諸国の政府に対して、『トランスロイド』関連の研究機関・企業への襲撃を予告していた。
「全人類に告ぐ。お前たちはテクノロジーに甘んじ、自然に逆らっている。自然に逆らった技術は自然における癌だ。軟弱な西欧諸国の人間たちにもうじき裁きの鉄槌が下され、惰眠をむさぼる『トランスロイド』諸君を震えさせるであろう。我々は、真に自然を愛する正義である。驕り高ぶる人類はいずれ滅びる。このハデスが、世界を一新するのだ」
このハデスの警告は、イギリスで同時多発テロを引き起こす警告でもあった。
『ヴァイル』は手始めに地方の発電所や鉄道施設を攻撃し、マンチェスターをはじめとする各地域のインフラを麻痺させ、多数の地域に大混乱をもたらした。
ハデスの警告後、世界はイギリスから一気に混乱と混沌の闇に陥り、暗い時代が続く。
そして、2054年の4月の寒い春を迎えようとしていた。


