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 ある晴れた朝っぱら、コヨーテのジョニィとアナグマのルゥは、まだスヤスヤ眠っていた。

 陽はもう高く、川や木の葉は眩しいほどに光を跳ね返していたけれど、二人は気持ちよさそうに丸くなったまま夢の中。

——ドンドン、ドンドン!

 ドアを叩く音に、ジョニィが目をこすりながら起き上がり、覗き穴を覗いた。

 そこに立っていたのは、ダチョウのハニハッシュとハリネズミのラズルダズル。二人とも目をキラキラさせて、いかにもこれから何か面白いことが始まるぞという顔をしていた。

 ドアを開けるとハニハッシュが開口一番。

「ねぇ知ってる? あの荒れ果てた裏山の頂上に宝箱が埋められてるんだって!」

「ほんとに? どんなの?」ジョニィが聞いた。

「わからないけど、昔の誰かが隠してたんだってさ。危険だから今じゃ誰も近寄らないけど、金銀財宝が入ってるって噂だぜ。おじいちゃんの弟の奥さんの親戚の娘の妹の彼氏が言ってたらしいから間違いないぜ!」

 ジョニィがハニハッシュにそっと言う。

「その話、他の誰かにした?」

「いいや、でも今から行くところ!」

「ダメダメ! 内緒にしてて!」

「内緒? まさか行くつもりじゃないよね? あの森には魔物が住んでて危険がいっぱいって噂だよ!」

「まーた噂か。じゃ、どっちの噂が本当か、確かめに行かないと」

 ジョニィの一言で、ルゥの目がぱっと輝いた。

「楽しそう。サンドイッチを作って食べよう」

「ほら来た。ハニハッシュにラズルダズル。君たちも行くだろ?」

「いいや、遠慮するよ。そんな恐ろしいところには行けないよ!」ハニハッシュは首を横にブンブン振りながら断った。

「ケガしても知らないよ!」ラズルダズルも来そうにない。

「わかったよ。じゃあ俺たちが率先して宝物を見つけてくる」

 そう言って家に戻るとすぐに二人は準備を始めた。

 水筒、サンドイッチをリュックに詰めて、一足先に玄関に来たジョニィがせかす。

「おーい早くー!」

「ちょっと待って」水筒とサンドイッチの上から、リュックがパンパンになるまでオヤツを詰めながらルゥが答える。

——ようやく準備完了、いざ出発。

 二人はワクワクしながら足取り早く山へ向かった。山のふもとまで来ると、空気がガラッと変わった気がした。二人はビクビクしながらも山に足を踏み入れた。

「ちょっと待てよ、あれはなんだ?」木の根元からデカいキノコが生えていた。

「うまそう!」そう言ってジョニィはキノコまで駆け出し、引っこ抜こうとした。

「いでででで!」キノコの正体はモグラだった。

「なにするんだよ!」

「ゲッ。モグラさんだったのか。ごめんごめん」

 ルゥはジョニィを指差しながら大笑いした。ジョニィはそれを無視して先に進んだ。

 今度はルゥが小さな花を見つけて「見てこれ! 見たことない花だよ」

 しゃがみこんで、ふわっと顔を近づけたその瞬間——ブゥンッ

 花の奥から小さな蜂が飛び出してきて、ルゥは思わずのけぞってコケた。

 ジョニィが目を丸くして、それから腹を抱えて大笑いした。

 山の中は想像以上に刺激的だった。穴に落ちたり、川を渡ったり、何度も笑い、何度も転び、何度も立ち上がった。

 やがて、ハニハッシュが宝箱が埋められてると言っていた頂上まで辿り着いた。

「ここじゃないか?!」

「こっちも怪しい!」

 夢中で掘り、堀り、掘り続けた。途中、サンドイッチやおやつを食べて休憩したりしながら。

——そしてついに土の中から古びた木箱が姿を現した。

 興奮した二人は飛び跳ね、叫び、その箱を掘り出した。

 蓋を開ける。ジョニィとルゥの顔が、パァッと輝く。

「「ヘッ?!」」

 中に入っていたのは、がらくたばかりだった。壊れたベル、色褪せた本、ひび割れたビー玉、小さなぬいぐるみ。

 二人は黙って顔を見合わせた。

「なんだぁ。箱は確かにあったけど!」

 肩を落としたふたりは、宝箱をそっと閉じ、その上に腰かけた。途端に、これまでの疲れがどっと押し寄せた。

 そして、ふと顔を上げると——目の前に広がっていたのは、見たこともないような美しい景色だった。

 空はゆっくりと色を変えながら、日が沈んだあとの淡い光を残していた。

 オレンジと群青がまじり合い、途端に見たこともない色になり、世界中が魔法にかかったみたいだった。

 その景色は二人にとって、どんなものよりも輝いて見えた。

「このがらくたも、誰かにとっての宝物だったんだ」二人とも同じことを思った。

 二人は見つけた“宝物”をリュックに詰めて、またいくつもの困難を乗り越えながら、山を下りた。

 川を越え、穴をよけ、蜂に刺され、モグラにまた怒られながら。だけど、なぜか帰りは行きよりずっと早かった。

 すっかり暗くなってしまったが、家の前では、ハニハッシュとラズルダズルが心配そうに待っていた。

「本当に行ったの?!」

「大丈夫だった?!」

「宝物はあった?!」

 二人を家に招き入れ、ジョニィが自信満々に宝物を見せる。

「これさ!」

「……これ?」

「そう。でも、気に入ってるんだ」

 そのままジョニィとルゥは、今日の話を語り始めた。モグラのこと、蜂のこと、頂上で見た景色の事。

——気づけば朝が来るまで、四人は楽しく話し続けた。

 ジョニィとルゥがこの小さな大冒険でした経験と、頂上で見たあの景色は、二人にとって何よりもかけがえのない宝物になったのだった。

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