第25話 明らかに殺人を目的に作られてるロボットが普通のお手伝いロボットのふりしてた
殺人ロボットに命狙われるとやばいじゃないですか。それがなんの害もなさそうな見た目だと、より怖さ増しますよね。
だから、世のマッドサイエンティストの皆さんは愛らしい見た目の殺人ロボット作った方がいいですよ……。
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めちゃくちゃ不満なんですけど、よく事件に巻き込まれるからってだけで、ある館に徘徊してるロボットがそこを訪れた人を殺してる理由を調べて欲しいって言われたんです。
なんで私がって思ったら、事件に遭遇するけど絶対に生き残ってるから、らしいです。これで私が死んだら出るとこ出ますよ。
しかも、いつもは仕事だから、休みの日にやんないといけなくなったんです。友達とサウナ行きたいねーなんで話してたから、サウナの身体になってたのにね。まあ、その友達が怪我しちゃったんでサウナの予定がなくなったからしょうがなく行くことにしたんです。
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「ようこそ、|松戸《まつど》博士ノ館ヘ」
出迎えてくれたのはこの館を守っているロボットなんですけど、見るからにやばいんですよ。だって、右手はライフル、左手はチェーンソーだからね。もう殺る気満々なの。そういう造りしてんの。
「あの、あなたが最近館に入った人を殺してるっていうロボットですか?」
「何を仰いますカ。私ハ、松戸博士によって造ラレたお手伝いロボットでございますヨ」
「……なんのお手伝いだよ。めちゃくちゃ話題になってますよ。ここは殺人の館だって」
「ハテ、何のことヤラ。ささ、お部屋に参りマショウ」
「チェーンソーでバッグ持とうとしないで」
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見れば見るほど殺人のために造られたロボットなんですよ。返り血がこびりついて赤茶色に変色してるところもあるんです。なのに、めちゃくちゃしらばっくれるんです。
「私ハ、お客様が喜ブ顔を見たいのでございますヨ。デスから、安心して下さいマセ」
「deathの発音なんだよな……。だいいち、その右手のライフルは何よ? なんのためについてんのよ?」
「アメリカは人々が銃を取り戦ったことカラ始まった国といっても過言ではアリません」
「ここ日本だから。アメリカかぶれのロボットなんて聞いたことないよ。弾丸発射するんでしょ?」
「火薬の爆発にヨッテ、金属を勢いよく飛び出させマス。ソレをお客様のお身体に触れさせているだけなのデス」
「めちゃくちゃ殺してんじゃん」
「時に、人も言葉にヨッテ、誰かを傷つけるモノでしょう?」
「言い逃れ能力だけ高すぎなるのはなんなの? でも、チェーンソーなんか危険極まりないでしょ」
「チェーンソーは、人の身体を、ジャナクテ、木を切るのに便利デス」
「人の身体をって言っちゃってるじゃん」
「ドチラか分からなくなっただけデス。言葉の綾というモノでございますヨ。私ハ、れっきとしたお手伝いロボットデス」
「人の身体が選択肢に入ってる時点で終わりなのよ。医者になる試験で間違えたら一発失格になる問題あるけど、それのお手伝いロボット試験で一発失格だよ」
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明らかに殺すためのロボットなのに、ちょっとした段差に引っかかったりするんです。持ち上げて段差越えさせようとしたら、
「背中のトコロに毒ガス発生装置があるのでお気をつけてくださいネ」
とか注意してくるんです。
「いや、なんのために毒ガス発生させんのよ? 毒ガスは殺す以外の目的ないでしょ」
「ハハハ、まあまあ、お気になさらズ。これは、ちょっとしたアレでございますヨ」
「アレってなによ?」
もう言い訳もせずに笑い飛ばすだけなんです。
「あのね、お手伝いロボットだって言いたいなら、お手伝いロボットらしい見た目じゃないとダメでしょ。あんたは見るからに殺人ロボットなのよ。隠しきれてないのよ、殺意が」
「そう申されましてモ、私ハ生まれた時からこうでございますカラ」
「身体的特徴をいじってるわけじゃないから私に罪悪感抱かそうとしないでよ」
「なんでも、松戸博士には私ヲお手伝いロボットに見せかける予算がなかったソウデス」
「もう見せかけるって言っちゃってんじゃん……」
ロボットが窓の外に身体を向けてボソッと言うんです。
「だから、私ハ、お金を稼いデ松戸博士に良い暮らしをさせてあげたいのデス」
「いや、人情噺みたいにはならないから」
でも、そういうことなのかっておもいました。皆さんも気づいてると思いますが、ロボットを造った松戸博士はいないんですよ。
数年前に亡くなったんです。
※ ※ ※
館の敷地内に博士のお墓があるんですよ。ロボットは段差があってそこに行けなかったみたいなんです。
持ち上げたりして庭の片隅にある大きな石造りのお墓の前に持ってきてあげました。お墓は結構苔むしちゃってるんです。誰も来ないからね。
ロボットがジーッとお墓を見つめるんです。で、ライフルの右手を墓石に伸ばしました。カツンって音がして、ロボットがびっくりしたようにちょっと後ずさるんです。
さっきまで減らず口叩いてたのに、お墓の前から動かなくなっちゃいまして、私もそばにいたんです。
このロボット、博士にいい暮らしをさせたいがために自分の仕事をまっとうしてたんですよ。
「ねえ、雨降ってきそうだから中に戻ろうよ」
引っ張ろうとしても動かないんです。パワーだけはあるからね。そしたら、急にチェーンソーを動かし出すんです。いきなり襲いかかってくるかと思ってたら、ずっとお墓にチェーンソー向けてんです。
「何してんのよ? お墓切るつもり?」
「武器しかない手デハ、お墓を綺麗にスルことはデキません」
お墓を掃除しようとしてたんだ。ロボットはお墓に語りかけます。
「なぜ私ニハ、武器しかないのデスか?」
「ねえ、雨に濡れたら危ないでしょ。中に戻ろうよ」
手を伸ばそうとしたら、警告音を出してきました。
「毒ガスの発生まで30秒デス。半径10メートル以内から退避してクダさい」
「ちょっと!!」
慌てて逃げると、本当に毒ガス噴射するんです。すぐに雨が降ってきて、びしょ濡れになったロボットは火花を上げて動かなくなりました。
今でも引き取り手のいない館の片隅で、あのロボットは博士のお墓のそばに寄り添っているそうです。