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ギルドマスター 2

「あー、この街の冒険者ギルドのマスターって私のじいちゃんなんだ」

「そうだったんでずか!?」

「知りませんでした」

 ムツヤとモモはビックリしてそんな声をだしたが、有名な話なので最初から知っていたユモトは特に驚きもしなかった。

「そっちの3人は、はじめましてかな。私はギルドマスターのトウヨウだ、ギルド内ではマスターと呼んでくれ」

「は、はじめましでムツヤ・バックカントリーです!」

「モモと申します」

「ヨーリィです」

 思い思いに挨拶を交わしたのを見届けてアシノは本題に入ろうとする。

「じいちゃん、単刀直入に言うとまずい事が起きたんだ」

 真面目な顔のアシノから何かを感じ取ったトウヨウも真剣な顔をした。

「どうやら長くなりそうだな。立ち話もなんだ、応接室で聞くことにする。スミー悪いがお茶を持ってきてくれ」

 「かしこまりましたと」一言行ってスミーは部屋を出る。ムツヤ達はギルドマスターの部屋の隣にある応接室に通された。

 高級そうなソファに1列に並ぶ5人。

 そして机を挟んだ向こう側にトウヨウが座る、お茶を運んでくれたスミーにトウヨウは誰も応接室に近づけないように言って部屋から退出させた。

「それで、まずい事とは何だ?」

 紅茶に少し口をつけた後トウヨウは聞く。アシノ以外は慣れない場で緊張しているのかそわそわしていた。

「今から話すことは全て事実だ。このムツヤは裏ダンジョンの近くで育った裏の住人だ。そして昨日その裏の道具をウートゴにいくつか盗まれた」

 トウヨウはまるで信じられんと目を丸くしたが、アシノがわざわざそんな笑えない冗談を言うはずが無いことは分かっていた。

「ムツヤだったか、話を疑うわけでは無いが本当に裏世界の住人なのか?」

「えぇ、まぁ、そうみたいなんです」

 ムツヤはまた自分の居た場所とこれまでの経緯を話す。昨日もアシノに話したばかりなので若干うんざりとしてしまうが仕方がない。

「なるほど、事情は分かった。キエーウに裏の世界の道具が渡ってしまった事は非常にまずいな」

 紅茶をひと口飲んでトウヨウは話し始めた。そこでアシノは提案をする。

「ムツヤの武器や防具を分けてもらって討伐部隊を組むのはどうだ?」

 とりあえずの提案に対してトウヨウは首を横に振った。

「いくら上級の冒険者と言えど、裏世界の道具を突然渡しても使いこなせるとは思えん。強すぎる道具は使用者も破滅させられてしまう」

 1つ間をおいて更にトウヨウは問題点を指摘する。

「それに裏の道具を下手に持っていれば、次はその人間が襲われて道具を取り上げられる可能性が高い」

「確かに……」

 アシノはトウヨウの言葉に納得をする。だが、もう1つ思うことがあった。

「ムツヤのカバンはどうする? ギルドの保管庫にでも隠すか?」

 その案にもトウヨウは白い眉をひそめて渋い顔をする。

「それも俺は危険だと思う、ギルドに襲撃をかけられるか盗みに入られるかしたら終わりだ」

 自分の提案を否定され続けてアシノは若干イラ立っていた、そこで逆に質問をした。

「じゃあじいちゃんはどうするのが1番安全だと思うんだ?」

 ふぅーっと息を吐いて全員を見渡した後にトウヨウは話し始める。

「国に事情を話すのが1番手っ取り早いだろうが、その場合裏の道具を使って隣国と戦争…… いや、一方的な侵略が始まるだろうな」

 確かにと皆は納得をしていたが、ムツヤだけ1人置いてけぼりを食らっていた。それを察してアシノが説明をしてやる。

「この国ギチットと隣国キラバーイは奴隷制度があった100年前ぐらいに戦争をしていた。今は国交もそこまで悪くなくなっているが今のギチットの国王が問題だ」

 そこまで話し、アシノは一息入れて続けた。

「国王は国を強かった頃へと戻すことにお熱を上げている。そんな所に大量の強力な武器と薬が詰まったカバンを持ち込んだらどうなるかは分かるだろう?」

 ムツヤは分かっているのか分かっていないのか知らないが、真剣な顔をしている。

「キエーウによる亜人の殺戮よりも、もっと大きな犠牲者が出るだろう」

「そ、そんな! そんなのはダメでずよ!!」

 ムツヤは思わず立ち上がってそう言った。そんなムツヤをたしなめる様に1つ咳払いをしてトウヨウは言葉を出す。

「俺はだ、キエーウは確実にまたムツヤのカバンを狙うはずだと考えている」

「そりゃそうだろうな、これ以上裏の道具が流出しないようにするならカバンを燃やすなり切り刻んじまうなりって手もあるが」

「すみません、このカバンって何をしても壊れないんでずよ」

 アシノの案、カバンの破壊はあっけなく廃案になってしまった。

 これでカバンを壊してしまうという手は使えず、必ずどこかに保管をしなくてはならない事が決まる。

「カバンの一番安全な保管場所は、ムツヤが持ち続ける事だと俺は思う」

「確かに、カバンをエサにチラつかせりゃ裏の道具を持ってる奴等が襲ってきて探す手間も省けるってわけだ」

 アシノが軽く笑いながら言うと、モモは身を乗り出して言葉を放つ。

「そんな、ムツヤ殿をエサになんてっ!」

「まー、ムツヤ大好きっ子のモモには少し聞こえが悪かったか」

 アシノにそう言われるとモモは赤面はしたが、今回は否定の言葉が出なかった。くうーっと下を向いた後にアシノの方を見てハッキリと伝えた。

「えぇそうです、私にとってムツヤ殿は大切な方です。なのでムツヤ殿の身に何かがあったらっ!」

「まぁまぁ、落ち着きなよ」

 紅茶を飲みながらアシノは横目でモモを見た。ハッとして各々の表情を見る。

 ムツヤと何故かユモトまで少し顔を赤らめてモジモジとしており、それを見てモモは今更になって気恥ずかしさが襲ってきた。

「裏の道具の対処法はムツヤが1番良くわかっているはずだし、それに裏の道具と戦うなら同じ裏の道具があった方が良いはずだ。そのカバンと、先程の話で聞いたムツヤの腕前があればキエーウからカバンを守れるだろう」

 トウヨウは落ち着いた声で言う。彼ほどの実力者になると体格や歩き方などで大体の実力が分かる。

 ムツヤのそれは完成された見事なものだった、部屋に入ってきた一目で只者ではない事は感じ取っていた。

 ここで1つ咳払いをしてトウヨウは立ち上がった。オールバックで固めた白髪と老いてなお健在といった風格が伝わる。

「ムツヤ、アシノ。ここに冒険者のギルドマスターとしての依頼を与える。内容は『キエーウが持つ裏ダンジョンの道具の回収。及びカバンを死守せよ』」

 野太い声でトウヨウが宣言すると、アシノはフッと笑って話し始める。

「注意事項は?」

「ムツヤの正体、それに裏の道具の存在とカバンの存在はこの部屋に居る者以外に俺の許可無く話してはならん」

「了解。で、事情を知っているキエーウの連中はどうする?」

 今度はトウヨウがため息をついた後に言葉を紡ぐ。

「キエーウはテロ組織として国で認定されている。襲いかかられたら殺してしまっても罪にはならん」

 殺すという単語が聞こえてモモとユモト、そしてムツヤも身構えた。

「自分達の命の危険を感じたら賊を殺すこともやむを得ない、これは冒険者として高みを目指すなら避けては通れない道だ」

「はい……」

 目線を左下に逸らしてムツヤは返事をする。それをモモは心配そうに見つめた。

「俺もお前達が動きやすいように裏から手は回しておく、それとモモ、ユモト、ヨーリィ、お前達の意志も確認しておきたい」

 トウヨウはモモ達を見て言った。

「これは非常に危険な依頼だ。命を落とす可能性もある」

「私はご主人様のお側を離れることが出来ません、どこまでもご主人様にお供します」

 意外にも最初に返事をしたのはヨーリィだった。それに続けてモモも答えを出す。

「私はムツヤ殿に借りがあります。それに亜人を殺し続けるキエーウはオークの私にとっても見過ごせる存在ではありません、ムツヤ殿にお供します」

 残るはユモトだけだが、ユモトの心臓はこれまで無いぐらいにドクドクと脈打ち、緊張で手先が痺れていた。

「ユモトさん、無理はしなくて良いんですよ」

 ムツヤは優しくユモトに声を掛けた、その声にハッとしてユモトは桃色の唇を開ける。

「僕は、僕の命は…… ムツヤさんが居なければ今頃は無かったものかもしれません。命の恩人のムツヤさんが困っているなら……」

「ユモトさん、前も話しまじだげど、その事で俺に負い目? って言うんでしたっけそういうの? とにかくそういった事を感じなくて良いでずよ」

「ぼ、僕は…… 僕は……」



 ユモトはムツヤの言葉に自分の中の弱さがなびいてしまいそうだった。スゥーッと息を吐いて決意する。

「命の恩人というだけじゃなくって、僕はムツヤさんの役に立ちたい、守りたい!…… です」

 ユモトの決意を確認するとトウヨウは優しく笑って「そうか」と言った。

「それと、俺から1人推薦したい人物がいる。戦力にもなるし裏の道具の研究にも役立つと思うのだが」

「わがりまじた、よろしぐお願いします」

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