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第43話

 ふさふさの尻尾を揺らめかせながら、大地を歩く。
 今日届いた情報を頭の中で整理しつつ、だが周囲の状況が見えなくなったりは決してせず、それでも一定の速度を保ちながら前進する。
 とはいえ事態は予測を越えて複雑になってきたようだ。
 まず、タイム・クルセイダーズの動き。当初は確かに、半月の頃奴らが大挙して押し寄せて来るという情報が来ていた。それが、前倒しに次ぐ前倒しといった形で、今となってはまるで無法地帯のごとくに『奴らだらけ』となっている。
 そしてその後──まるで後付けのように、ここ地球にて捕獲されていた『よその動物』たちが何頭かとんずらしたらしいという報せが来た。つまりそれを『再捕獲』するべく、タイム・クルセイダーズたちは大挙して、前倒しにやってきたのだろう。
 ふと、立ち止まる。竹の密生している場所だ。
 かじりつく。
 今日それは、微妙にひりつくような辛さを提供してきた。今日の竹は、辛い。
 つまり、新しい情報が受け取られたということだ。
 わしゃわしゃと噛み砕く。
 うまくはない。
 だがこの草本を噛み砕き味わうことで、不思議なことにこの世界で起きている現象事象が伝わってくるのだ。
「──レイヴンが……仲間と連絡を取った、か」咀嚼しながら呟く。「仲間を探すために、仲間と連絡を取ったんだな。それで……」さらに竹をかじる。
 さきほどと同じ、微妙な辛さを感じるが、今度はそれに加えてどこか鈍い苦味も混じってきた。再びわしゃわしゃと噛む。
 うまくはない。
「んー?」首を傾げる。「双葉の一匹が、よその動物と出くわした?」
 その時、前方から同類の者が近づいてきた。
「よう」
「おう」声を交わし、互いの真っ黒な丸い目を見つめ合う。
 後から来た者も、同様に竹をかじり取りむしゃむしゃと噛みつぶす。
「よその動物──翼を持ち鳥のように飛ぶ、と」後から来た者が咀嚼しながら呟く。「見たことないな」
「うん」先に来た者もさらに竹をかじる。「逃亡した動物なのかな」
「うーん」後から来た者も負けずにかじる。「──レイヴン?」
「ん?」
 二頭はしばらくわしゃわしゃと竹を噛み続けた。
「レイヴンの探している動物である可能性あり、と」先に来ていた者がなおも咀嚼しながら呟く。
「そして双葉が引き続きその動物に随伴し移動している、と」後から来た者も咀嚼しながら呟いた。
「動物は、アラビア半島から東方面に向かっている、と」先に来た者が噛み終わった竹を呑み込んで言った。
「──こっちに近づいて来ている、と」後から来た者も噛み終わった竹を呑み込んで言った。
 二頭はまた互いのまん丸で黒い目を見交わし合った。
 やがてどちらからともなくまた竹にかじりつき、わしゃわしゃと咀嚼した。
「これ、うまくはないよね」先に来た者が言う。
「うん。まずいよね」後から来た者が言う。
「まあ……仕方ないよね」先に来た者がさらにわしゃわしゃ噛みながら言う。
「だね……植物からの情報を解読する役目だからね」後から来た者も負けずにわしゃわしゃと噛みながら言う。
「はは」先に来た者は噛み終わった竹を呑み込んで小さく笑った。「使命だね。我らレッサーパンダの」
「ふふ」後から来た者も噛み終わった竹を呑み込んで小さく笑った。「その通り。我らレッサーパンダの」
 二頭は、互いに尻尾を持ち上げた。
 ふさふさと毛並み豊かな、美しい縞模様を持つ尻尾だ。
「レッパン部隊に誇りあれ」二頭は声を揃えた。

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