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3話 誕生日The day I was born twice

「ここは」
目を開けると俺は真っ白な空間の中で不思議な扉の前に立っていた。
扉は灰色の石とまだら模様のガスで構成されており、輪郭がぼやけている。
わずかに開いた隙間からは黒いモヤが漏れ出しては消える。
目を閉じた覚えすらないが、どうやら時間が経っていたらしい
俺の心臓から鼓動が感じられない。
だが俺の名前が沼鹿 悟士だということは覚えている。
死後の世界はこれほどまでに素っ気ないものなのか。
「アマ姉」
アマ姉は生きているのかそれが気がかりだ。
「生きていたぞ」
「!?」
扉から声がする
扉を構成している石が震えて発声している。
さらに扉のあちこちに魔法陣のような文様が浮かび上がっている。
死後の世界だけあってファンタジーだな。
「あんたは一体...」
「貴様の想像した女は80まで尼としての生涯を送った。」
「そうか。」
天寿を全う出来たんだな。
それならもう後悔はない。
いやあるが雑念だろう。
「貴様にはこちらの世界に来てもらおう。
さぁ来い。
望まれし最後の1人よ。」
「ふざけるな!
一体何を」
俺の全身が扉に引き寄せれる。
床に這いつくばるがまったく意味がない。
ずりずりと扉に引き寄せられる。
「肉体は魔素で治り
言の葉程度は分かるように施してやろう!
十分だろう!
贄よ!」
「ふざけるな!一体 何を言って 」
「世界の理だ。」
俺の体に黒いモヤがまとわりつき心臓が鼓動を取り戻す。
それと同時に頭の中に大量の情報が流れ込み
目の前が真っ白になる。
体が何かに飲み込まれる。
ドプンッと黒いモヤの中に沼鹿 悟士は飲み込まれた。
扉は閉まり、静寂が白い空間に満ちる。
―――――――――――――――

静寂を切り裂くように扉の形がぐにゃりとゆがむ。
「何だ!?」
「久しぶりだ 神よ
いや異界の門よ」
門とは違う男の声が響き、空間そのものが崩壊していく。

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