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3-2:イータルモアのご懐妊


 私たちは相変わらず新型の「鋼鉄の鎧騎士」を作り上げるために色々とやっていた。



「だからっ! ミリアリア姉さんは一緒にお風呂に入ってこないでってっ!! いや、マリーもだめだってばっ!!」

 今日の分のお仕事終わって、汚れた身体を洗おうとお風呂に入っていたらミリアリア姉さんとマリーが乱入してきた。

「いいじゃないのですわ、私も汚れた身体を早く洗いたいのですわ」

「アルム様のお身体の汚れを奇麗に落とすのは私の役目、どうぞご遠慮なさらずに!」


 いやそう言う問題じゃないでしょうに!!
 ミリアリア姉さんは十八、マリーは二十七歳。
 それが十歳になる男の子と一緒にお風呂は流石にまずいでしょうに!!


「はいはいつめて詰めて」

「アルム君、私が奇麗にしてあげますよ~」

「お兄様! 私も一緒にお風呂入ります!!」

「なんニャ? みんなで一緒に入るニャ??」


 ちょっと待てぇーぃいいぃっ! 


 そこ、なにでっかいおっぱおさらしながら平然と入ってくる!?
 ここ男湯!
 確かに私専用とまではいわないけど、ほとんど私しか使ってないのを良い事に、なにみんなして裸で押し寄せてくるぅっ!?

 既に女湯と化しているこの男湯で私は盛大に突っ込みを入れるけど、みんな平然と前も隠さず私の前に立っている。


 と、はらりと腰に巻いていたタオルがほどけてしまった。


「あら、まだ生えて無かったのですわね?」

「そうなんですよ、まだパンツもガビガビになってませんから。毎回洗う時に楽しみにしてます」

「でも意外と大きいわね///////」

「アルム君のかわいぃぃ~♡」

「お、お兄様の…… ごくり///////」

「ほえぇ~まだまだニャ~ アマディアス様のはご立派にゃのににゃ~」


 慌ててタオルで隠すけど、しっかりと見られている。
 と言うか、何みんなしてじっくりと観察してるのよ!
 いくら私だって流石に恥ずかしいって!


「何恥ずかしがってるのよ? 小さい頃から裸の付き合いしてるんだから今更でしょ?」

「そう言う問題じゃないでしょうに、エシュリナーゼ姉さん! 嫁入り前の女性がはしたないでしょうに!!」

「あら、我が国では異母兄弟までは夫婦になれるって知らないの?」


「はぁっ?」


 いきなりとんでもない事言い出すエシュリナーゼ姉さん。
 いや、それって近親婚になるからダメなんじゃ……


「王族に限り異母兄弟までの婚姻を許すのは我がイザンカ王国の伝統よ? 魔術にたけた血筋を可能な限り強く残すのは我が国の伝統でもあるのだからね」

「でしたら、いとこである私の方がふさわしいですわね。血筋は勿論、私の魔力量はエシュリナーゼ姉さんを越えてますし、何よりエシュリナーゼ姉さんより年が近いですわ」

「なんですってぇっ! 処女の癖に何言ってるのよ!?」

「処女はエシュリナーゼ姉さんも同じですわ! 二十歳にもなってお嫁に行かないのはいかず後家になってしまいますわよ?」

 そう言ってにらみ合って喧嘩し始める二人。


 え、ええぇ~?
 異母兄弟まで近親婚が許されるって……
 何その変態王家!?


「くっ、何とか法律を変えてアルム君を私のモノに出来ないでしょうか……」

「お、お兄様! 私をお嫁さんにしてくれるって約束ですよ!!」

「はぁ~、みんなアルムに首ったけニャ~。まぁ、あたしはアマディアス様一筋でやっと関係がもてたニャ~♪ 後はイータルモアより先に子供が出来れば勝ちニャ!!」

 お願い、こんな所で危険な考えやそんな生々しい話やめて!
 
 女性陣がわいわい騒ぐ中、マリーが私の前まで来てその見事なプロポーションを見せつけながら言う。

「大丈夫です、私がしっかりアルム様の筆おろしにご協力致します! 私も未経験ですが、どうぞご自由に私の体をお使いください!」




「だぁああああああああぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!! いい加減にしてくれぇっ―っ!!!!」




 お風呂場で私の絶叫がこだまするのだった。


 * * * * *


「ふう、全くみんなはぁ~」


 お風呂からあがってみんなの目を盗んで一人裏庭に来ている。
 冷たい飲み物を手に空に浮かぶ薄っすらと輝く赤と青の月を眺める。

 この世界の夜空には肉体を失った古い女神様たちの魂が宿る星座が夜空に輝いている。
 そして二つの月も。
 一説にはこの二つの月が重なる時に冥界のへの扉が開かれ、さまよう魂たちがそこへ吸い込まれてゆくと言う。

 そんな神話を思い出しながら女性たちの騒がしい場所から一人静かにあずま屋へ向かう。

 と、そこには先客がいた。
 それはイータルモアだった。


「あれ? アルムですぅ」

「こんばんわ。イータルモアこんな所で何してるの?」


 一応は義理の姉になるのだけど、イータルモアは「姉さま」とかめんどくさいので公の場でない限り使わないでくれと言っていた。
 なので、私もいつも通りに彼女に話をする。


「う~ん、満月の時は竜の血が騒ぐのですぅ~。特に二つの月が満ちている時は魔力がみなぎっているので身体がうずくはずなのですぅ~ でも今はですぅ~……」

 そう言ってため息を吐く。
 私は相向かいの椅子に座ってくいっと飲み物を口に運ぶ。


「いつもならアマディアス様を襲って子作りしているのに、満月だと言うのにそんな気分にならないですぅ~」

「ぶふぅーっ!」


 おいこら。
 いきなりなに生々しい事言ってるのよ!!
 思わず飲み物吹き出しちゃったじゃないの!!
 ぎりぎり横を向いたのでイータルモアにぶっかけることにはならなかったからよかったけどさ!


「あ、あのねイータルモア、いきなり僕に対してなんて話をするんだよ?」

「でもでも、本来なら今晩辺りはそう言う気分になるはずなんですぅ~。それが最近おかしいですぅ~。食べ物の好みも変わったり、急にお腹がすいたり、熱っぽく成ったり、あとすっぱいものが食べたくなったりとおかしいですぅ~」


「ぶふぅーっっ!!」


 再度飲み物を口にしていた私はまたまた盛大に口に入れた飲み物を噴き出していた。
 あ、勿論イータルモナにはかかってないわよ?

 しかし、今の条件って……


「イ、イータルモア…… ちょっと確認だけど体調不良の中でたまに吐きたくなるとかもあるの??」

「よくわかるですぅ。あります、あるですぅ!」


 あ、あかん。
 これ確実にあれだ。

 そりゃぁ、正式に結婚してもう二年だ。

 イータルモアは今年二十歳。
 竜族の血が濃いから出会った時のままの外観だが、卵から孵化して順調に成長はしていた。
 第一王子で王位継承権第一位の兄であるアマディアス兄さんにはイータルモアと言うとてつもない正妻が出来た。
 正直周りの国の反応はそれぞれだったけど、大国ガレント王国からも祝福の品々が送られてきたほどだ。
 それだけイータルモアの存在は我がイザンカ王国にとって大きかった。
 
 そしてそんなイータルモアが今現在口にしたような状況だと言う事は……


「ね、ねぇイータルモア。竜族はどうか知らないけど、イータルモアのお父さんって人族だったよね? そんなイータルモアに子供が出来たらやっぱり卵産むのかな?」

「それは分からないですぅ~。エマおばあちゃんたちと同じく私にも生理って来てたのでその処理は教えてもらっていたですぅ。お母様みたいに毎回生理が無いのがうらやましかったですぅ」

 うーん、となると生態は人族に近いのかもしれない。
 なので、元女性の先輩として慎重に確認をする。

「イータルモアって生理周期ってあるの?」

「はい、人族と同じですぅ。だから毎月大変なですぅ~」

 うん、確定。
 私はちょっと頭痛を覚えながら聞く。

「じゃあさ、最近生理が不安定になっていない?」

「あっ! アルム、良く知ってるですぅ!! もう半月も来ないでそっちもおかしいって思ってたですぅっ!!」

 それを聞いて私は大きなため息をついてから聞く。

「この事、お付きの使用人とか誰かに話した?」

「いえ、誰にも言ってないですぅ……」

「あ、あのさ。多分なんだけど、今までの話を総合するとイータルモアって赤ちゃんできたんじゃないかな……」

 私がそう言うと、イータルモアは暫し動かずへにゃっとした笑顔のままだんだんと赤くなって汗をかいてくる。
 そしていきなり慌てて私の両肩をガシッと掴んで揺さぶる。




「あああああああああ、あ、赤ちゃんですぅっ!?」


「あががががが! ちょ、ちょっとその強い力で揺らされたら脳みそがシェイクされちゃうって!!」




 私が慌ててそう言うと、イータルモアはばっと私を手放し、真っ赤な顔に両の手を当てながら立ち上がる右往左往している。



「あ、アマディアス様の赤ちゃんが出来たですぅ!? 本当ですうぅ!? う嬉しいですぅ///////!!」



 あ~、混乱気味だ。
 どうやら周りに全く身体の異常を相談してなかったので気付いていなかったようだ。
 しかし客観的に見てほぼ間違いないだろう、人族基準であるなら。


「イータルモアは竜族の血があるから一概におめでたとは言えないかもしれないけど、人族だとさっきイータルモアが言っていた条件がおめでたの症状だよ。間違っていなければご懐妊したって事で良いと思うよ?」

「本本当ですぅっ!? やったですぅ! とうとうアマディアス様の子供が出来たですぅ!!」

 大喜びしているけど、確か最初の六十日間が一番重要なはず。
 生理が半月遅れているなら、症状からほぼ確定だろうけどあまり激しい動きは控えるべきだ。


「あのさ、人族なら最初のふた月が重要で、あまり激しい運動や疲れる事、無理をすると流産する事もあるから安静にした方がいいよ」

「そ、そうなんですぅ? わ、分かりましたですぅ、気を付けるですぅ!!」

「はいはい、間違っていなかったらおめでとう。とりあえず宮廷医師に僕からも話しておくから、しばらくしたらその可能性をアマディアス兄さんにも伝えてあげるといいよ」


「は、はいですぅっ!」


 そう言ってイータルモアは嬉々として屋敷に戻って行った。

 私は飲み物がまだ入っている器を冷却魔法でもう一度冷やししてから空に浮かぶ月に向かってかかげる。


「ま、アマディアス兄さんは取られちゃってしまったけど、素直に祝福するよ。おめでとうイータルモア」


 そう言って冷たくなった飲み物を今度こそ飲み干す。
 生前の私には無かった女の幸せだけど、新たな命が生まれる事はやはりめでたい。



 そんな素直な気持ちで私は色々な意味で熱くなっていた体に流れ込む冷たい液体に心地よさを感じるのだった。

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