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第167話 中身の無いブリーフィング

「それでは時計あわせ、三、二、一」 

 司法局実働部隊運用艦『ふさ』、機動部隊控え室。

 その名前にもかかわらず、出港以来ほとんどの時間を医務室で過ごしていた誠はここに一度も入ったことは無かった。

 
挿絵


 第一小隊小隊長のカウラ・ベルガーが一番左に立っていた。その隣には第一小隊二番機担当の西園寺かなめの姿がある。そして『05式特戦乙型』を与えられる神前誠は直立不動の姿勢でその隣に立っていた。

 機動部隊長であり『偉大なる中佐殿』と呼ばれるクバルカ・ラン中佐がその前に立っていた。それぞれに腕時計をして、作戦時間の時計合わせをしていた。

「今回の『クーデター首謀者確保』作戦の特機運用はこのメンバーでやる。他からの支援はねーかんな!」 

 部下達を見回した後、ランはそう言い切った。

「いいぜ、そんなもんだろ?こっちの戦力は公表されてるんだ。近藤の旦那が数押しで一気に勝負を決めようってのは目に見えてる」

 まるで勝利が決まっているかのようにかなめはそう言った。誠は気が気でなかった。

「僕にも敵の戦力ぐらい教えてくださいよ」

 誠は恐る恐る手を挙げてそう言った。 

「質問は後!現在11:00(ひとひとまるまる)時。12:00(ひとふたまるまる)時にベルガー、西園寺、神前はハンガーに集合。そして別命あるまで乗機にて待機。以上質問は?」 

「ハイ!ハーイ!」 

 まるで小学生が出来た答えを発表するような勢いで誠は手を上げた。

「ちなみに神前の質問はすべて却下する!オメーの『法術』はうちの切り札だが……今、オメーにその使い方を教えても意味はねー!」 

「そんな!僕だって出撃するんですよ!」 

 誠は当たり前の抗議をした。しかし、ランは全く聞く耳を持たない。

「全部アタシが臨機応変でその場で考えて指示を出す!アタシは『人類最強』だから相手は死ぬ!だからオメーみたいな使えねーのに教える意味はねー!相手は確かに保有する戦力は圧倒的だ。近藤の旦那が乗艦する『那珂』を始め、巡洋艦五隻、駆逐艦十二隻。搭載するシュツルム・パンツァーの数は百機を超える。だが有利なのは数だけだ。シュツルム・パンツァーの性能の違いはダンチ、パイロットにはエースのアタシがいる。負ける要素がねえ!」 

 ランは無茶苦茶な叫び声をあげた。

「そんな……無茶な話ですよ……こっちには四機のシュツルム・パンツァーしか無いんですよ!いくら中佐が強くても勝てっこないじゃ無いですか!だから僕はそんな無茶な戦闘を勝つ秘策の中でどう動いたらいいか知りたいんです!それとも僕は要らない子なんですか?切り札の割にひどい扱いじゃ無いですか!」

 誠は苦笑いを浮かべつつそう言った。

「中佐の決定だ。神前は臨機応変に対応すればいい。それに甲武国の刑法の厳しさから考えてその艦載機のパイロットすべてが今回の近藤の決起に同調するとは思えない。それでも数的には敵の方が有利なのは確かだが、05式は『タイマン勝負』では無敵の機体だ。その性能を信じればいい」

 カウラの非情な言葉が誠の耳に響いた。

「神前よ。なんなら逃げてもいーぜ。アタシ等はオメーを恨まねーし、責めねーよ。それもまー人生だ。まー、人生においては『戦う』より『逃げる』ことの方が難しいんだけどな」

 ランの微笑みが誠にはまぶしすぎた。自分が役に立たないことは誠にも分かっていた。おそらく足手まといになる。でも、この『特殊な部隊』の役に立ちたい気持ちはあった。

「隊長にも同じことを言われました。でも、僕は逃げません!」

 誠はそう言い切った。彼の言葉を聞くとランは静かに頷いて周りを見回す。

「すべて搭乗後に連絡すっからな。甲武はクーデターに加担すれば一族皆殺しの国だかんな。今回の作戦は捨て石覚悟の連中の無茶なクーデターの阻止だから敵がどれくらい出てくるか正直、予想がつかねーんだ。それに現状で静観を保っている地球等の異星艦隊の動きがどうなるか読めねーしな。作戦開始時まで何箇所かある進行ルート候補の絞込みを行ってから連絡を入れる」 

 そう言うとランは誠に歩み寄ってきた。

「わかったけど……ほんと、神前に何やらせんの?」 

 かなめは誠を白い目で見ながらそうつぶやいた。

「今のところこいつの役目は補給係。背中の予備ラックに230ミリのマガジンたくさん積んで待機すっから。西園寺はあっちの主力の『甲武国』制式・シュツルム・パンツァー『火龍』程度は敵じゃねーだろ?値段で言えば『火龍』の5倍はする機体なんだぜ『05式』は。落とされたら司法局の本局の連中が発狂すんぞ」 

「ふうん。けど『アレ』な隊長と実戦経験ゼロの新入り。不測の事態って奴がな……」

 ランの言葉にかなめは不服そうにそう言った。 

「何だ、西園寺は自信が無いらしいな」 

 明らかに挑発する調子でカウラがきり返す。

「そんな訳ねえだろうが!」 

「やめろ!」 

 ランの一喝にかなめは黙り込んだ。誠は三人の女性士官の表情をうかがった。ランは相変わらず余裕の笑みを浮かべていた。

 一方、かなめは挑戦的な視線をカウラに投げた。誠はじっとしてとりあえず雷が自分に落ちないようにじっとしていた。


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