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第117話 特殊詐欺の被害者

「そんな事情があったとは……島田先輩がクバルカ中佐の下でしか働けない理由が分かりました。でも大変ですね、クバルカ中佐」

 誠は島田の尻拭いに奔走するランに同情するようにそう言った。

「そうだろ?まあ職場はどこでもそうかもしれないけど、特にうちは一種の『生態系』を形成しているんだ。一人欠けても機能しない。ちなみにクバルカ中佐も……」

「中佐が何を?」

 カウラの言い得て妙な言葉とランのことが気になって尋ねる誠にかなめは首をすくめた。

「ランの姐御は被害者の方、あれ……『特殊詐欺』ってあるじゃん」

 かなめの言葉で誠はとりあえずあのかわいらしい中佐殿が加害者でないことに胸をなでおろした。

「家族に成りすましたりするアレですか?誰があんなのに引っかかるんですか?お年寄りでもあるまいし」

 
挿絵


 驚きの表情を浮かべながら誠はかなめに尋ねた。

「普通はそうだな。でも、中佐のおつむは……『義理と人情の2ビットコンピュータ』だから引っかかるんだな、これが」

 かなめは皮肉めいた笑顔を浮かべながらそうつぶやいた。

「『義理と人情の2ビットコンピュータ』?なんですそれ?」

 カウラの奇妙なラン評に誠は思わず身を乗り出していた。

「電話で人情がらみの泣き落としとかされると一発で騙されるんだ。家族に成りすまして会社の金をなくしたなんて言うのは一コロだな。妊婦を車で轢いただの言う電話がかかってくるとこれもまた一発だ……自分は家族もいないのにな『現場では敵に情けをかけるな!』とかいつも抜かしてるくせに、自分のこととなると人情だけで動いて騙される」

 かなめはそう言いながら苦笑いを浮かべた。

「それって……単なる『馬鹿』ってことですよね」

 いくら社会常識の欠如した誠でも自分の上司がそんな雀並みの脳味噌の持ち主だとは思いたくなかった。

「ランの姐御に言わせると『義理』と『人情』の間で悩むのが人間なんだと。だから姐御の携帯には登録した番号以外着信拒否する設定になってんだ……他にも叔父貴が色々と手をまわして何とか特殊詐欺の被害にあわない工夫をしてるわけ。だから姐御も叔父貴の部下しか務まらねえの」

「そんなもんですか……」

 ランの意外な弱点を知って誠は彼女も人間なのだと分かってなぜかホッとしていた。

 そして島田の小指が無事に部隊に戻ってくるように切に願う誠だった。


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