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【危】※食前食事中食後の方は読まないで※【険】


 その後の俺は、【大解析】をずっと発動していた。

『【大解析LV8】に上昇します。』

 その効果範囲で順番に地形を網羅していて、つまりはこのゴブリンエリートダンジョンをしらみ潰しに探索したのだが。

 そこまでしても進化ゴブリンはさっきの五体以外、発見出来なかった。

(どうなってんだ…?これじゃ大家さんの訓練にならないんだが…、()()()()()()があったから、いいものの…)

 本来なら敵地のど真ん中でこんな暢気な雰囲気でいていいはずがない。

 二周目知識チートを使った後は必ずしっぺ返しの如く窮地に立たされてきたのだから、尚更だ。

 なのに何でか、俺は楽勝気分がぬけないでいる。

 それが何故かはわからない。もしかしたら、大家さんが同行する事で、生まれて初めて『幸運』というものの実在を噛み締める事が出来たから──

(なんて思ったのがいけなかったのか?)

 今、俺達は五階層にいる。そして目の前には俺の身長に倍するほど巨大な扉がある。それはもういかにもってやつだ。

 きっと、この扉をくぐればボスがいる。つまりはいよいよのラストステージ…となるはずなんだが。

 何か様子がおかしい。

 というのも、その扉向こうから聞こえてくるのだ。

 悲鳴と、怒号と、肉に何かが刺さる音や、骨を何かが断つ音が。それも複数…というかたくさん。

 何故ボス部屋からそんな音がするのか。

(俺達以外にこのダンジョンを攻略しようとしてる先着パーティーでも…いや、)

 それにしては戦闘音の規模が大き過ぎる。これは大勢が入り乱れて殺し合ってる音だ。

(まあ、低級モンスターを主力とするダンジョンではボス部屋にダンジョンボスとその取り巻きが陣取ってた…なんて展開はざらにあったからな。ここもきっとその手合いなんだろ…)

 そう思って扉を少し開けて覗いてみれば──濃い血臭が鼻をついてしかめた目に映ったのは、予想と全く違う光景だった。

 殺し合っていたのは、ゴブリン達と人間ではなく。

 大勢のゴブリン同士が、敵味方関係なく闇雲に殺し合っていて…つまりこれは、


 ゴブリンのゴブリンによるゴブリンのためだけのバトルロワイヤル。


 いや、闇雲でもないようだな。殺し合っているのはノービス級の進化種だけのようだ。

 それより上位の進化種達は傍観している。

 さらに見ていると、殺し合う内に次の進化に進んだ者、つまりチーフ級になった者がその殺し合いの渦から離れていった。

 そして同じチーフ級の進化種が集まるグループに合流して、さっきまで自分が参加していた殺し合いを眺める側に──。

 やがて最後のノービス級が倒れてバトルロワイアルが幕を閉じたと思えば、、まただ。

 今度はチーフ級の進化種達が殺し合いを始めた。


 ここまで見ればさすがに分かる。

 これと全く同じ…とまではいかないが、俺も似たような事を餓鬼ダンジョンでやったからな。

つまりこれは、進化種の養殖をしているのだろう。

 この進化ゴブリン達は、同格の進化種同士で殺し合う事でさらなる進化を遂げようとしている。
 
 でも何故、モンスターの数が十分に揃っていない今の段階でこんな暴挙が許されているのか?しかもボス部屋で。

 それは多分、これをさせているのがこのダンジョン自身だからだ。

 そして、そうせざるを得なくなったのは、多分、俺達のせいだな。

 まさか、こんな初期段階でこんなバグった強さの人間がしかもコンビで、こんな僻地に訪れるなんて、このダンジョンとしても想定外に過ぎたのだろう。俺だけじゃなく大家さんの方も大概のチートだしな。

 確かに彼女はまだレベルが低い。
 でも元が違いすぎる。

 中途半端な進化体を何体ぶつけても返り討ちにされてしまう。それがこのダンジョンにも分かったのだろう。

 だからせっかく増えつつあった精鋭ゴブリン達に殺し合わせた。無理矢理な進化を促さざるを得なくなった。

 そう、これはこのダンジョン最後の悪あがき。

(…ってやつなんだろうが──そううまくいくかな?)

 と思案する俺の腕を、大家さんがつかんできた。そのままグイグイしながら、

「…これは蠱毒?──均次くん、このままだと最強種が生まれる。その前に早く──」

 と、なんだか焦っている様子。

(…えっと、こど…何?)

 後で知ったんだが。蠱毒ってのは大量の毒虫を龜の中に詰め合わせて喰らい合わせ、最後に残った一匹が最強の毒を持つとかどうとか…とにかく、呪術的な何からしい。
 つまりそんな危険な儀式は今すぐ妨害して、最上位進化種の誕生を阻止しなければ──大家さんが言いたかったのはそういう事なんだろうが、


「いいえ」


 俺の見解は違う。


「このまま静観しちゃいましょう」

「ええっ、それってどういう──って、ちょ…っ、均次くん?」

「俺はゴブリンの死体に用があるんで──あ。大家さんはドアの外で待ってて下さい。絶対にそこを動かないようにっ!これは振りじゃないですからねっ!?」

「ええ…?」

 大家さんにそう釘を刺した俺は、乱闘冷めやらぬボス部屋内部へ堂々入室──おっとその前に。

「それと大家さん…これから俺がする事なんですが…その…見ない方がいいです。目の毒ですから」

「ええ…?」

 我ながら意味不明な言動だ。かえって大家さんの目を離せなくしてしまったかもしれない。でも俺の次の行動を見ればきっと、

「──あっ!」──サッ!

 ほらやっぱり。彼女は目を逸らし、扉の影へと隠れてしまった。

(だから言ったのに…)

 あの大家さんですら見るに耐えないとした俺の悪行…もしくは奇行ないし愚行とはなんであったか。

 それは普通に、魔食材を採取しただけなんだけど……いや、今回のこれは本当にひどい。

 流石の俺も内界から取り出したビニール手袋を着用してる。

 そしてその手に握った解体用サバイバルナイフでギーコギーコと…、

(切り取ったコレが、問題だよな…)

 コレというのは、アレだ。

 ゴブリンの、睾○だ。

 …そう、世間一般で○玉と呼ばれるアレ。

 いやだってしょうがないだろう!!??

 【繁殖力増強】なんて種族スキル生やしてるゴブリンさんの魔食材なんて、これに決まってんだろううう??あーもー気が変になりそうDEATH!!…あ…ちなみに『グルメモンスター』は消えたけど、モンスターを見ればどこが魔食材か分かる能力はそのまま残った。【界体進初】となった今も使える。

『おいおいおいおい均次よいっ!』

「あ?やっぱりか!文句あんのか!そりゃあるよな!でもな!なんも言うなよ無垢朗太っ?いい加減俺の苦労も理解しろっ!つか、さっきまであんな燃えてたのになんだ!情けないのはお前の方だっ!」

『いやそれとこれとは話が別過ぎであろっ!?そん、そんなモノをっ、我の棲み家(内界)に取り込むのは流石に…勘弁してもらいたいのだがっ!?切にっ!実にっっ!』

「じゃあ何か?俺にずっと握ってろって言うのか?このゴブリン共のキャン○をっ!?こんな大量にあんだぞ!?てゆーかこちとらこれを…この後…、くっ(涙)!何とかして食わなきゃなんねんだからなっ(涙)!」

『ひー!!なんと恐ろしいっ!』

 うん俺もそう思うよ。

『我はなんという異常者と合体してしもうたのか!神よおっ!いやまだ間に合う神もきっと許して下さる!だから、な!やめるのだ均次─悪霊退散─早まるでない─臨兵闘者─そんなものを食せば─皆陣列在前─我も貴様も、たま、たま、玉…魂が、穢れてしま──ぁ?ああああああ!!??』

 なんかイラっときた。

 なので無垢朗太がその支離滅裂を言いきる前に内界へ放り込んでやった。

 ゴブリンの睾○を。

 それも複数いっぺんに。

『うおおおおおおおっ!っっきゃあぁぁあああ!!オヌシ!オヌシなんとゆう事ををおおおおっ!』

 あーもー聞こえねー。

「頭ん中に直接響いてくるけど聞こえねー!」

「ぬうううう!憎い!我が相棒がこんな憎らしいヤツだったとはああっ!」

 許せ無垢朗太。俺は自分に厳しい男になると決めたんだ。

 大家さんにこうしてスパルタしてる以上、仲間を巻き込むと決めた以上、鬼怒恵村に『富村強兵』政策を敷くと決めた以上!

 それら全ての元凶たる俺が妥協していい筈、ないのではないかっ!…という今さらの格好をつけて──キリッ!

 と、扉の影から恐る恐る顔を覗かせていた大家さんに改めて視線を送ってみたのだが。


 ──サッ

 
 …と、扉の影に隠れる大家さん。俺のキラーパスはあっさりというかやっぱりつか割りと必死目にスルーされた。


「 …チーん、でも、うん…そうなりますよね分かります」


  ・

  ・

  ・

  ・

  ・


「ハァ、ハァ、やっと、終わった…というよりオワタ。魂的に。(玉だけに…なんて)」

 いやゲフンっ、

 さあ、

 さぁさぁさあっっ!

 とくと、御照覧あれっ!

  
 ゴブリンブレイダーの睾○。
 ゴブリンハードヒッターの○丸。
 ゴブリンランサーの睾○。
 ゴブリンスカウターの○丸。
 ゴブリンマジシャンの睾○。
 ゴブリングラップラーの○丸。 
 ゴブリンヒーラー(薬師)の睾○。
 ゴブリンヒーラー(魔法)の○丸。
 ゴブリンテイマーの睾○。
 ゴブリンブラックスミスの○丸。

 ゴブリンブレイダーチーフの睾○。
 ゴブリンハードヒッターチーフの○丸。
 ゴブリンランサーチーフの睾○。
 ゴブリンスカウターチーフの○丸。
 ゴブリンマジシャンチーフの睾○。
 ゴブリングラップラーチーフの○丸。 
 
 ゴブリンブレイダーリーダーの睾○。
 ゴブリンランサーリーダーの睾○。
 ゴブリンマジシャンリーダーの睾○。

 見たか!この、そーそーたる睾○リストをっ!

「て嫌なリストだな!」

『食うのかこれを?本当に?』

「それは、もちろん…っ、く…食うさっ!この俺が…俺が…俺は…俺…の…」

 うーっ、

「んーっ!」

 …いや、

「…俺の、内界がな」

『あ、あー』

 うん、察してくれてありがと。

『そうか。例のあれをいよいよ試すか。確か、【吸収】とか…』

「…ああ、こんなたくさんはやっぱ無理だわ。いや一つや二つなら──うーん、それも才子に調理してもらったらって前提にあるけど…いやでもさすがに、これはなー」

 これだけの睾○をズラズラ並べて『調理たのまー』とかよう言えんわ。

「頼んだ日にゃ本気で殺されかねん…というわけで道連れに…もとい、鬼怒恵村の男衆にお近づきのしるし的なお土産として…なんて事も考えたけど。流石に引くだろうし、何気に鮮度ってネックもあるしな」

 内界の中もちゃんと時間は流れてる。なのでナマモノだと普通に腐る。かといってここで食すとか無理。もう一度言うが生は無理。かといって鬼怒恵村に引き返す時間はない。いい加減俺の生まれ故郷ヤバい。

 と、いう理由からの【吸収】だ。

 べ、別に逃げた訳じゃないんだからねっ!いつかは試さなくちゃって思ってたし!良い機会と言えば良い機会だし!うん!ソーユーことにしておこう!

(でも…)

 果たして。これらの魔食材を【吸収】したとして、魔食と同等の効果が得られるのだろうか。

(…それに【界体進初】の解説文に記載されていたアレも気になる)

 アレというのは、『このスキル効果により、平均次の肉体と内界は影響し合うようになった。生物の枠を越えたその生態により、際限無く成長出来、その成長のためにありとあらゆるものを取り込み、それを体内で…いや、魂レベルでの【吸収】まで出来てしまう──』って部分だ。

 【吸収】する事で一体俺は、俺の中にある世界は、どうなってしまうのか…。

「その記念すべき初実験を、金○なんかで飾ってしまっていいものか。しかもゴブリンの○玉で…うーんっ、悩む!」

 いやホント悩む。悩んでしまう。悩んでしまって当たり前だと思う。この人生で一番悩んでるかもしれない。つかこんな事で悩みたくない。というか、

「なんかバカらしくなってきたな…こんなんで悩むの。よし、もういいわ。やってくれ無垢朗太」

『う、うむ』

 そうだ男は度胸で女は胸囲──ウソですすみません睨まないで大家さん心の中覗かないでいつそんなスキル身に付けたんですか女の勘ですかそうですか。
 
 
 という訳で。
 俺は一線を越えた。


 遂に【吸収】を試したのである。


 それも数十個にもおよぶ…、あーも、伏せ字してもダメだな。もう言いたくない。

 「ハァー…」

 まあ、この通りもう色々と限界ですんで今回はここまで。


 次回に続くっ。

 

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