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大家さんの能力。



 という訳でこれから先ずっと同行する事になって、つまりは正式なパーティーメンバーとなった大家さんなんだが。

「そういえば大家さん、嘘、ついてましたよね」

 いや別に怒って問い質してる訳じゃない。

「あー、うん、ごめんなさい」

 大家さんも素直に認めて、謝ってくれるし。

『む…、まったく悪びれた風はないような?』

 なんて無垢朗太は言うがまあ、悪意がなかった事は分かってたしな。その嘘の内容も俺にすれば他愛のない事だったし。

 彼女がついた嘘というか黙っていたのは、義介さんと同じで『どういう訳か世界がこうなる前から魔力を身に宿していた事』。

 そして、『だからチュートリアルダンジョンに入る必要もなく、既にステータスを備えていた事』についてだな。

(俺に隠してたのは…多分、その魔力をどうやって宿したのかを知られたくなかった…からだろうな)

『…それは…もしや──』

(ん?なんだ?)

『いや…なんでもない。』

 しらを切る無垢朗太だが……魂を共有する以上、俺に隠しきる事は出来ないことは分かっているはず。なのに今、明らかに隠した。

 当然、俺は違和感を感じたが……追求はせず。というか、魂がまだ本調子でなく、無垢朗太の魂を探る余裕がなかったし何より、『俺のとばっちりでシステムから睨まれ、大家さんまで【MP変換】が使えなくなった』というあの話の方が、俺にとってはずっと重要事で…肩の荷が降りた感じがして。

 つまりは嘘だったとハッキリして嬉しかった。だから無垢朗太の隠し事も『魂を共有しててもそれぐらいあっていい』と軽く受け止め、放置してしまった。


 ──後で、この時の自分を責める事になるというのに…。










「という訳で大家さん、もうステータスを覗いてもいいです?」

「勿論。均次くんなら。」

 と、一応のお断りを入れたのち、大家さんのステータスを確認したところ。 

=========ステータス=========


名前 大家香澄(おおやかすみ)

ジョブ 座敷女将LV1

MP 4777/4777


《基礎魔力》

攻(B)35
防(B)35
知(SS)50
精(M)60
速(A)40
技(A)40
運   99

《スキル》

【MPシールドLV4】【MP変換LVー】【暗算LV6】【機械操作LV6】【語学力LV6】【魔力練生LV7】【鑑定LV7】【加速LV8】【身体強化LV9】
【斬撃魔攻LV4】【刺突魔攻LV4】【打撃魔攻LV4】【衝撃魔攻LV4】
【運属性魔法LV1】

《称号》

『魔王の器』『運命の子』『武芸者』『神知者』『凶気の沙汰』『座敷御子の加護』

=========================

 
 …俺に負けず劣らず、色々とバグっていた。

(どこから突っ込んでいいのやら…)

 まず、器礎魔力から。
 俺のように神ランクなんてぶっ飛んだ成長補正はさすがになかったが、俺のように致命的な欠陥もなく。
 最低でもBランク。それも二つだけ。他は全てAランク以上。そして『精』魔力に至っては試練の助けも借りず素の状態でMランクとか…一体、どんな精神性ならこうなれるのか、どんな過酷を生きればこんな──今さらになって想像もつかないのにその上で、

(『運』魔力が、、99??これって最大値なんじゃないのか?)

 これだけじゃない。スキル構成にも驚いた。

 MPの最大値が由来となるんだから、【MPシールド】のレベルは4と既に分厚く、そのシールドの性能もBランクの『防』魔力と、Mランクの『精』魔力の影響を受けていて相当硬い。

 つまり、【光属性魔法】には『障壁』という物理と魔法両方のダメージを抑える魔法があるが、それと似たバフ効果が常にかかっているようなもの。魔法攻撃に対してはあれ以上の性能となるだろう。

 そしてMPを無駄遣いせずに【MPシールド】を保てるならって前提があるが、接近戦もいけそうだった。

 初期段階で【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】の基本魔攻が備わってる。

 見れば俺と同じ『武芸者』の称号を持っているけど、大家さんの場合はチュートリアルダンジョンの試練を受けていないんだからな。つまりこの称号は特典で得たものではない。基本魔攻を元々持ってたから後付けで付与されたに過ぎない。だって各魔攻のスキルレベルが既に上がっている。という事は…

(一体、どこでどんな修練を積んだんだ?)

 ってなる。その痕跡として【魔力練生LV7】というスキルが備わっていた。その性能は、

【魔力練生…自力で魔力に目覚め、独力で魔力を育ててきた者にのみ備わり、そのスキルレベルが上がれば上がるほど、魔力に関するすべての補正が上昇する。一日の長を象徴してそれは、スキルの成長にも波及する。現在、それらの補正は1.35倍】

 地味だがこれも相当なぶっ壊れだ。だってこれは、今の世界になってから魔力に覚醒した者には決して備わらないスキルだし、義介さんのように魔力を生まれ持った人にも決して備わらないスキルなんだからな。つまりこれを持った段階で…

(一日の長?そんなもんじゃない)

 このスキルを持てない他の大多数に対し、確たるアドバンテージをずっと維持し続ける、という事になる。

(それでか…)

 【暗算】【語学力】【機械操作】等の日本人なら最初から備わってるスキルのレベルも揃って6と非常に高い。

 そして【識別】の上位スキルである【鑑定LV7】や、【加速LV8】や【身体強化LV9】など、どれも進化待ちの状態だ。
 これらは【魔力練生】の影響下で修練を重ねた結果なのだろうが…

「これで、レベル1…?」

 称号についてはさっき述べた『武芸者』以外にも5つ、合計6も所持しており、しかもその内の3つは俺の【大解析】をもってしても解析不能だった。解析出来たのは、

『魔王の器…Sランク以上の器礎魔力を複数、しかもM(魔王)ランクまで備えた者が得られる称号。MPの成長補正がMランクとなり、初期値に3330加算される。
 ただし、個体名大家香澄は既にその領域にあったためこれは適用されない。
 この称号を持つ者のステータスには禁忌事項が幾つか含まれる事が多く、それらについては解析されても正確に伝わらないようになる。』

 どうやらこの称号も後付けのようだが、そんな事より…、

(元々MPが4000もあったってことか?…あるのかそんなこと…)

 …『神知者』はともかく、『運命の子』と『凶気の沙汰』が俺でも解析出来ないのは、この『魔王の器』が原因らしい。

(つか、『M』ってミラクルじゃなく『魔王』のMだったのか)

 なお、他の解析不能な称号について大家さんに聞いてみたが、

「知らない方がいい」

 と言われた。

 どうやら大家さんは知られたくないのではなく、知った俺に危険が及ぶ事を案じているらしく…そうと分かれば

(じゃぁその当事者な大家さんにはどんな危険が迫ってるんだ…?)

 と尚更知っておきたくなった俺は、なんとか聞き出そうとしたのだが。

「言わない。まだ。」

 …大家さんは、頑として教えてくれなかった。

(とても気になるが…『まだ』って事はいつかは教えてくれる…そういう事か?そういう事に、するしかないのか…)

 あと、残す称号である『座敷御子の加護』はこんな感じだった。

『座敷御子の加護…座敷童子から座敷御子へと進化した神格者から加護を授かる事で得る称号。この称号を得た者は『運』魔力に最大の影響を受けた上で、特殊ジョブに覚醒し、座敷童子が使える権能、その一部を行使する事まで出来る。』

(大家さんのジョブが『座敷女将』とかいうのになってたのも、『運』魔力が99になってるのも、この称号の影響か)

 ちなみに称号の説明にあった『座敷童子の権能』についてだが、多分【運属性魔法】の事だと思う。

 これは俺も聞いた事はないし見た事がないスキルで、LV1なので使える技はまだ二つしかないのだが、さすがは『権能』と呼ばれるだけある。この段階で既に、ぶっ壊れだ。

「あー…この、大家さんに加護を与えてる座敷御子って、密呼ちゃんの事、なんですよね?」

「うん、彼女は凄いラッキーガール」

「いやいやいや…(そんなレベルじゃないでしょ)」

 これは、恐ろしい力だ。座敷童子って物語じゃ良心的で可愛らしい妖怪としてポピュラーな存在だけど、実際はこれ程の実力者だったんだな。進化すれば神格を得る程なんだから。

(っていうか俺!神様にちゃん付けして、しかも頭に御飯粒までくっつけて…っ!うーむ、密っちゃん…バチとか、当てないでね?)

 ていうか、妙な納得があるな。

 だって、神格者にまで上り詰めた密っちゃんだからこそ、大家さんの魂を救えたのだろうから。大家さんの言う通りだ。俺達にとってこれ以上ないラッキーガールだった。

 なんて思ってるとまた大家さんのお腹からひょこっと顔を出してにこって笑う密っちゃん……恐ろしい子っ。

(よし、なるべく、崇め奉ろう。…そして愛でよう)

『密呼は…苦労して、きたのだな…そんな事も知らず、我は狂って──情けなや』
 
 そしていい加減、無垢朗太の過去も知っておいてやりたい。

 以前、こいつの魂に触れた時は俺の方の魂が不完全だったため、最後まで見る事は出来なかった。ならばと直接聞こうとしたのだが、

『見るのを拒絶したという事はおそらく、傷ついた状態で知る事が禁忌である…と魂に判断された可能性もある。ゆえに我から告げる事も憚れる…すまぬが…オヌシの魂の傷が癒えるまで待つ方が良い、と我は思うが?』

 そう言われた。

(という事はまずは俺の魂を本調子にする必要がある…って事か)

 なんて考えていると、

「均次くん私…ジョブに就いたんだから、レベルアップ、出来るよね?」

「あ、そうですね。すぐにでもレベルアップした方がいいと思います」

 確かにレベル1としては凄まじいステータスだ。それでもやはり1は1。大家さんのレベルアップは急務だろう。

「じゃぁ、どこかレベルアップにいいダンジョンとか、知らない?均次くんも一緒なんだし、なるべくキツ目の難易度でならしたい。足手纏いになりたくないから」

「うーん、それか……逆に難易度を落とした手頃なダンジョンを完全に攻略しちゃうとかどうですかね?」

『大丈夫なのか?完全攻略となると…』

 と、無垢朗太は心配するが、このプランならさっき考えていた俺の魂の強化も出来るかもしれない。

 だって、攻略すればダンジョンコアを【吸収】出来る。

 俺の魂を補強してるのがダンジョンコアだからな、さらに強い補強となるはずだ。

(一石二鳥、いや、将来の強ダンジョン候補だからな『あそこ』は。未来の厄介事も未然に片付いて一石三鳥だ)

 いかにもな皮算用だが、

「完全攻略でも、いいよ?回帰者の均次くんが言うなら、きっと間違いない」

 こうして大家さんの快諾も得られたことだし。


(うん、まだ時間は残ってる…はずだよな ?)


 生まれ故郷に危機が迫ってるのは分かってる。出来る事ならなるべく早く駆けつけたい。

 でも…俺にとっては仲間達…特に大家さんの命が最重要事項。これは譲れない。

(本当に悪いけど……予定は一時変更だ)

 こうして俺は、大家さんのレベリングをするため、とあるダンジョンの攻略に向かう事にしたのである。
 




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