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ドキドキクッキン。


 毒々ダンジョンの探索を終えて鬼怒守邸に帰還したのは、日もドップリと暮れた頃だった。

 その時はヌエが門前で待っていて、

『おおキヌ無事であったかっ!こら!人妻をこんにゃ遅くまで引き摺り回しよってっ!この人間めっ!』

 って感じに、ヤツなりに手加減してくれたんだろうが、結構な威力でどつかれた。

 当然頭にきたが、

(…くそ、コイツには才子と密っちゃんを送り届けてもらったからな…)

 つまり世話になったからな。一応。

 なので『いやこんな遅くなったのはお前の嫁さんが粘ったからなんだからなっ!』ってとても言いたかったが言わないでおいた。一応として。

 それにあの毒だらけの環境でさすがの俺もかなり神経を擦り減らした。

 なのでこのくそ面倒な雷獣なんて相手する余裕なんてない。今日も今日とて疲労困憊、こんなのほっといてさっさと飯にありつきたい…のは山々だったが。

(才子のやつがうるさいからな…)

 帰りを待っててくれたみんなには『悪いが先に食っててくれ』と言い残し、俺はまずはと風呂場へと向かった。

 そして【内界】から今日取れた素材を取り出して並べて…る途中。

 鏡に写る自分を見て、

「ハァ…」

 溜め息を吐く…。

 風呂場なので素っ裸なのはいいとして、そんな格好で自然界にあるまじきものを並べゆく様は人に見せられたもんじゃない。…てのも、まあ今は置いといて。

 今回のダンジョン探索で採取出来た素材だがな。結構な数になったぞ。

『雷鳥の死骸』
『バリネズミの死骸』
『電気蛇の死骸』
『毒芋虫の死骸』
『クラゲ茸の死骸』
『彩り毒マムシの死骸』

 …等々。これらは遭遇したモンスターの死骸だな。

 他にも、

『電気苔』
『避雷樹の枝』
『吸電石』
『毒香花の花弁』
『毒ガス竹』
『酩酊草』
擬態繭(ぎたいまゆ)
黒紋歪葛(くろもんいびつかづら)

 …等々。植物や鉱石も採取出来た。後半のは毒ダンジョンで採れたやつなんだが、モンスターなのか植物なのか分からない感じだったな。

 近付くと花粉やら胞子やら毒ガスやら噴射してきたり、生き物に擬態して襲いかかってきたり、巻き付いて毒を注入してとり殺そうとしてきたり。

 でも採取してすぐに死ぬ訳でもないのに【内界】に収納出来てたから多分、モンスターではないのだろう。

 と、このように、あの毒々ダンジョンにはほとほと苦労させられた。

 キヌさんの毒に関する知識と経験とそれに基づく直感がなければ、もしかしたら死んでたかもしれないってレベルで厄介だった。

 あそこに入るなら俺でもキヌさんの同行なしじゃだめだ。それが分かっただけでも収穫と言える。他の誰かが潜るって言うなら尚更だからだ。彼女の同行なしで入場するのはかたく禁じておかないと…。

「さて、この中で魔食材となりそうなのは…」

 そう、わざわざ風呂場に来てしかも素っ裸になってこんな作業をしてるのは、これから魔食をするつもりだからだ。

 魔食材を剥ぎ取るなら、モンスターの死骸を解体しなきゃで、血で汚れるし、キツイ匂いも発生する。

 だから洗い流せて結構な広さがあって換気も簡単…っていう場所はここしかなかった。


「さて、さっさとやっつけてしまおうか──

  ・

  ・

  ・

  ・

  ・ 

 ──はぁぁあ、やっと終わった。採取は楽しいんだけど解体すんのってホント、面倒だよな…よし、次からは才子に頼もう」

 ともかく、死骸の解体作業と血抜き作業が終わったので早速、魔食材をより分けたのが。

 そのラインナップは以下の通り。 


『雷鳥の鳥冠』
『雷鳥の鳥足』

 雷鳥からはなんと、二種類もの魔食材が採れた。『小雷核』についてはレアドロって感じだけど、それを入れたら三種類か。

 あのモンスターは素材的にかなり有用であるようだな。その分他二種類のモンスターより強力だったけど。ただでさえ飛行系は厄介なのに雷撃まで飛ばしてたからな。初心者じゃまず倒せない。


『バリネズミの電針』

 これは可愛らしいあの針ネズミそのものって感じのモンスターから採れた素材だ。

 コイツらは背に生やした針に電気を貯める習性があって、アルマジロみたく丸まると猛スピードで転がりながら体当たりした瞬間に針経由で雷撃を注入してくる。

 くるぶしぐらいの位置で小さいのが群れなして転がってくるってのは、かなり厄介だった。

 初めて相手にしたけどな。俺でも手こずったぞ。一回戦った後はもう面倒だったのでヌエの雷撃で一掃してもらった。見た目の可愛らしさに騙されてはいけない典型のような奴らだったぞ。


『電気蛇の雷腺』

 雷ダンジョンではこいつが一番弱かった。つか弱すぎた。

 地を這ってくるが、群れてはこないし、地面は苔が生えただけの平地だから隠れる草むらもなく結構目立つ。動きも他の二種に比べてトリッキーさがない。

 そして電気うなぎみたく全身から電気を発する訳でもない。噛みついて雷撃を注入しようとするんだが、その噛みつき自体に威力がない。

 なので【MPシールド】を貫通出来ず雷撃が届く前に倒せてしまう。あの雷ダンジョンで経験値稼ぎするならコイツが丁度いいんだけど…他のモンスターが強いんだよな。

 鬼怒恵村の人達をパワーレベリングするのは、他の手頃なダンジョンを見つけてツアーを組んだ方がいいかもしれない。

 ちなみに雷腺というのは、毒蛇で言うところの毒腺の位置にあった。ここで雷属性の魔力を生成してるらしい。


『毒芋虫の毒糸』

 ここからは毒ダンジョンのモンスターから採れた魔食材だな。

 これは毒々しい色をした全長1mもある芋虫から採れた素材だ。この毒芋虫には、攻撃前に糸を飛ばして絡め取ろうとする習性があって、体内に蓄えたその糸が魔食材となっていた。

 食い物って感じはしないけど、肉を食わずに済んでホント良かった。いや糸を食うのだって嫌だけどなっ、それでもましと思う、…って俺、感覚が麻痺してきてないか?我ながら重症だなこれは…ハァ…。

 あと、こいつには見た目にそぐわず妙に素早い。異様な速さで伸縮して進む姿は気持ち悪いの一言だった。

 でも悲しいかな所詮は芋虫だ。魔力覚醒者が相手では『芋虫にしては』と付く速さでしかなかった。

 そして伸縮する以上、その速さを実現するには柔軟性とある程度の軽さが必要だからか、装甲もなく柔らかい全身を晒してる。だからだろうか、【MPシールド】も脆かったな。

 気持ち悪さと糸にさえ気を付ければ経験値稼ぎになりそうなんだけど…毒々ダンジョンは環境自体が危険だからな。やっぱりパワーレベリングには向いてない。


『クラゲ茸の触手』

 これは毒々しい色合いのキノコ笠からクラゲのような触手を生やしたモンスターの素材だ。

 このモンスターは触手で絡め取ってしびれ毒を分泌して動けなくしたり、胞子を飛ばして気管支系にダメージを与えて動きを阻害してきたり、触手の根元に円状に生えたギザギザの牙で食いつき血を吸って体力を消耗させたりと、多彩な攻撃手段を持つ。

 つまりは結構強いので魔食材としても多分優秀なのだろうが、笠と同じ毒々しい色合いのしかもぶよぶよとした触手を食べるのは非常に抵抗感がある。でも仕方ない。俺はレベルアップ出来ない。みんなのように強化されるためには魔食をするしかないのだから。


『彩り毒マムシの毒腺』

 やはり毒腺か…て感じだ。魔食材というのは、そのモンスターの中で一番に魔力が通った部位、もしくは生み出される部位、または溜め込まれた部位となるからな。毒蛇の毒が分泌されるここが魔食材となるのは当然だったかもしれない。

 にしても、毒腺か。当然としてこれも食いたくない。いや結局は食うんだけどな。

 このモンスターは…いや、毒々ダンジョンのモンスターはどれも、だな。地面も壁も天井も関係なしに這い回ってる。つまりあそこでは前後左右上下満遍なく警戒しながら進まなくてはならない。ホント、油断のならないダンジョンだ。

 それと、これは新たな発見だったのだが、『毒香花の花弁』と『酩酊草』はモンスターではなく植物なのだが、魔食出来そうな感じだった。まあこれも食いたくないけど。

「食うしかない…か」

『むー、これら『食いたくない尽くし』を食らうのか?──やっぱりオヌシこそが化物──』

 と無垢朗太はドン引きだ。

「ちぇっ、相棒がいのないやつめ…つか、このままでこんなたくさん食えるかっての」

 と一応の反論をしつつ、俺は剥ぎ取ったこれら魔食材を【内界】に収納し、他の残り物をゴミ袋に集めた後、身体を軽く流して風呂場を掃除。みんなに無事、風呂場を解放した。

 そして鬼怒守邸から出てすぐ近くにある雑木林の中に分け入り適当な場所を見つけるとスコップでザクザク…掘った穴の中へゴミ袋の中身をリリースしたんだけど…ホント、面倒だ。

 ってゆーか面倒なのはここからだ。


「あいつを説得しなくちゃな…」


  ・

  ・

  ・

  ・

「という訳で才子さん。これ…モンスター素材なんすけど。なんとか調理してもらえやしませんでしょぅか…?」

 と、膝と胸がくっつく程のお辞儀をして頼んだんだけど。

「え。普通に嫌だけど?」

 という抵抗は当然予想してたので無視し。再度頼み込ませてもらった。『俺以外の誰でも食えるようにしてくれ』と更なる難題をふっかけ頼み込んでやった。それでも嫌だと言いやがりなさるので、

「ええー、ダメ?どうしても?村の人も食べるのに?……じゃぁ……しょうがないな。このままで食わすとするか…でもなーっ、老若男女問わず無理矢理に口をこじ開けてでも食わす事になるなーこのままだとー。だってこんな不味くて苦痛まで伴う食いもんみんな嫌がるだろうし、止めるだろうからなー。でも、誰も止めらんねーよな今の俺はー。あーそっか、才子もその犠牲者になる訳かー…それはそれは、ご愁傷様な事だなー♪」

 と平に平に誠心誠意心を込めて丁寧にへりくだって頼み込んだところ、

「くぅ…卑怯者っ!~~~分かったわよっ!やればいいんでしょやればっ!」

 と才子様はご機嫌麗しく快諾めされたのであった。めでたしめでたし。

 いや全然快諾じゃない超嫌々だった。でもまぁコイツのためでもあるから、いいよな?

 

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