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第二十四話 新・協力者?


 登校した。
 何も変わっていない。バイクを停めて、教室に移動する。

 生徒には、俺の情報が流れていないのか、変わった様子はない。視線は感じるが、以前と同じだ。バイクで通っている者への”やっかみ”のようだ。

 ホームルームが始まったが、教師の態度も変わっていない。

 淡々と進んでいるように思える。
 絡んでこないのは残念だ。

 誰かが絡んでくるのかと思ったのだが・・・。

 昼休みになって、吉田教諭から呼び出しが掛かった。

「吉田先生」

「ユウキ。ちょっと待ってくれ、この採点だけ終わらせる」

「わかりました。昼飯がまだなので、食べて待っています」

「お!飲み物が欲しければ、珈琲なら勝手に飲んでいいぞ」

「ありがとうございます」

 狭いと言っても、吉田教諭が一人で使うには広い部屋だ。
 テーブルの上には、乱雑に雑誌や書籍が置かれている。その場所を避けて、着席して持ってきたサンドウィッチを食べ始める。紙コップを使って、煮詰まる寸前の珈琲に砂糖を多めに入れて飲む。牛乳が冷蔵庫にあることは知っているので、ミルクの代わりに牛乳を入れる。

 食事をして待っている。
 5分くらいしたら、採点が終わったようだ。

「吉田先生も珈琲を飲みますか?」

「あぁ砂糖は無しで、牛乳を多めに頼む」

「わかりました」

 吉田教諭の要望通りに珈琲を準備して、自分用にもう一杯の珈琲を淹れる。

「すまん。呼び出しておいて、先に昼を食べていいか?」

「どうぞ」

 吉田教諭は、校内電話で誰かを呼び出してから、俺の前に座って食事を始める。
 コンビニで買ったようなおにぎりを食べるだけのようだ。

 おにぎりなら、お茶の方がいいのでは?
 関係ない事を考えながら、珈琲を口に含む。

 多少、煮詰まっているが、十分に飲める。
 そうだ、珈琲をレナートに持ち込んでみようか?マイは喜びそうだ。品種改良を行って・・・。

 珈琲の苗って買えるのかな?

 余計な事を考えていると、ドアが開けられて、一人の教師が入ってきた。

「お!早かったか?」

 たしか、体育教師だったはずだ。
 バスケ部の顧問だと思うけど、直接の繋がりがないから、よく知らない教師だ。

「はぁ・・・。前田先生。何度も言っていますが、ノックくらいしてください」

 粗暴な感じは、見た目通りなのかもしれない。
 年齢で考えれば、吉田教諭の後輩になるのか?

「先輩。細かいですよ」

 やはり、後輩になるのか?
 でも、教師としての先輩後輩以上の関係に見える。

「そうか?」

 前田教諭は、吉田教諭の隣の椅子に腰を降ろす。

「君が、新城君か?」

「はい。新城裕貴です。前田先生とは、初めましてですよね?」

「そうだな。俺は、2年生の体育が担当だ。それで、先輩。あの話は本当ですか?」

 あの話?
 吉田教諭を見ると、苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 いい話ではないようだ。

「あぁ」

 肯定するにしても・・・。

「新城。お前、”異世界帰り”というのは、本当か?」

 スキルの発動を考えた瞬間に、吉田教諭が前田教諭の頭を思いっきり叩いた。

「焦る気持ちは解るが、まずはしっかりと状況を説明しろ!学生時代から何度も、何度も、何度も、言ってきたよな。すまない。新城。まずは状況の説明をさせてくれ」

「わかりました。手短にお願いします」

 吉田教諭の説明は、教員と職員による会議の話だ。
 アインスたちに毒を食べさせようとした奴らの処分に関する事だ。

 しかし、会議では、加害者が警察に呼ばれた事や、既に罰を受けていることなどの理由で、学校は罰を与えない事に決まった。もちろん、多数決により、賛成多数で可決された。
 保護者に関しては、学校の品位を損なう行動を慎むように勧告を出す事に決まった。

 森下さん経由で聞いていた話と大きくは違っていない。

 その席上で、俺が”異世界帰りでは?”という話になったようだが、”呼び出して聞く”と主張した教諭も居たようだが、世間に流れている動画や学校に寄せられる世間の目が厳しい状況で、生徒を呼び出して尋問したと言われたら、マスコミの餌食だという意見が出て、尋問は却下された。その代わりに、俺に対する監視を強めることに決まったようだ。

「それは解りました。しかし、前田先生が俺を訪ねて来る理由は尋問ですか?それなら・・・」

 スマホを取り出して、目の前で森下弁護士の番号を表示する。

「違う。違う。弁護士を呼ぼうとするな」

「何が目的ですか?はっきり言ってください」

「新城。お前は、なんでも治せる薬を持っているのか?」

「え?」

 また、吉田教諭が前田教諭の頭を叩く。
 本当に、よくわからない人たちだ。

「新城。前田は、俺の高校の時の後輩で、こちら側の人間だ」

「はぁ」

 それは、そうだろうと思っていたけど・・・。二年生には奴らの関係者が居ないのか?

「こいつの妹が、奴らに・・・。死にそうに・・・。言葉を選ばなければ、殺されそうになった」

「え?」

「一命は取り留めたのだが・・・」

「吉田先輩。そこからは、俺が説明します」

 前田教諭は、さきほどまでの粗暴な雰囲気が消えて、俺をまっすぐに見ながら、説明を始めた。

 俺が考えている以上に、奴らの血縁者と取り巻きがクズだった。
 前田教諭の妹は、年齢が一回り以上は離れている。
 この学校の3年に在籍している。兄妹だとは教諭と親しい人間が知っている程度だ。

 前田教諭の妹は、3年生に上がって早々に就職を決めた。その企業が、血縁者が狙っていた企業だった。
 いろいろな嫌がらせを受けたが、就職を辞退しないでいた。最終的には暴行に及んだ。

 神社に呼び出して集団で暴行に及んだ。暴行も酷かったのだが、そのあとで神社の階段から突き落とした。

 警察は、事故で処理を行った。
 当時、神社を根城にしていたホームレスの証言が採用された形だ。暴行もない事になってしまった。呼び出した者たちは、学校に呼び出されて、注意を受けただけで終わった。

「わかりやすいクズですね。それで、ポーションが欲しいと?」

「そうだ」

「まず、お聞きしたいのですが、ポーションの価値はご存じですか?」

「調べた」

「そうですか・・・。多分、噂話で出ているのは、低級のポーションの価値です。前田先生のお話ですと、中級以上でないと対応が難しいと思います」

「中級?」

「はい。低級は骨折程度なら治せます。そうですね。身体の骨折や擦り傷は治せます。しかし、内臓や頭部のダメージには、効きません」

「・・・。新城。中級ポーションは?」

「あります。しかし、価値を考えると・・・」

「そうだろうな。金なら準備する。それでも足りないだろう・・・。だから・・・。俺の命を、お前に預けるではダメか?」

「先生の命ですか?魅力的なお話ですが、拒否させていただきます」

「・・・」「新城」

 吉田教諭が割り込んでくるのを、手を上げて制する。

「前田先生。三つの条件を飲んでください。その条件を対価とします」

「え?」

「完治した暁には、妹さんに記者からの取材を受けてもらいます。そこで、イジメや神社での暴行や突き落とされた事を話してもらいます。全部実名での告白を望みます」

「・・・」

「もう一つは、前田先生は学校を辞めてもらいます。知っていることを、記者に全てを話してください」

「わかった。妹は、本人の意思を確認してからでいいか?」

「構いません。しかし、先生が出来る限り説得を試みてください。しかし、さきほどの話から、泣き寝入りをするような人にも思えません」

「あぁ。もう一つは?」

「取材が終わったら、先生と妹さんには、スキルの実験台になってもらいます」

「え?スキル?」

「はい。俺の力ですね。こちらの人間に通用するのか解らないので、被験体となってもらいます。試すのは”記憶を封印する”スキルです」

「新城!それは、特定の記憶なのか?それとも・・・」

「そうですね。フィファーナ。あぁ異世界の名前ですが、フィファーナでは、例えば、”乱暴を受けた”という記憶を封印したり、”殺されそうになった”という記憶を封印したり、特定の出来事の封印に使われています。あとは、何日以降の記憶を封印するという使い方が出来ました」

「・・・。ありがとう。対価は?」

「先ほどの話が対価です。妹さんは病院ですか?自宅ですか?」

「自宅だ。病院も信用ができない」

「わかりました。明日の夜に伺います」

「・・・。わかった」

 前田教諭は、大きな身体を小さく屈めて、深々と頭を下げた。

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