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第四十一話 事情


 ユウキとマイが約束の場所で待っていると、リチャードとロレッタがいつもと変わらない雰囲気で戻ってきた。

「おかえり」

 ユウキは、リチャードとロレッタに言葉をかける。
 二人は、差し出された手を握ってから、感謝を伝える。

「ただいま」

 ロレッタは、マイに抱きついて緊張を解すかのように身体の力を抜く。大丈夫だと解っていても、緊張はしていたのだろう。リチャードがやりすぎないか心配していた度合いが大きい。

 ユウキは、リチャードの腰にあるべき物がないことに気が付いた。腰を指さしている。

「あぁ」

 リチャードもユウキが言いたいことが解る。

「そうか・・・」

 ユウキとリチャードは頷いて、何が発生したのか理解している。
 使われた結果がどうなるのか理解して、準備をしたのだ。

「自業自得」

 リチャードが少しだけ残念な表情をしているが、ロレッタは晴れやかな表情で、自業自得と言い切る。
 確かに自業自得だ。リチャードは、忠告した。ロレッタは、お願いをした。それでも、実行したのは教祖だ。片腕と片足を無くして、右目を無くしている。顔の半分は焼け爛れている。それでいて死ねない。寿命までは・・・。これから、死ぬよりも辛い時間を過ごせばいいと思っている。

「頼んでいたことは?」

「使われたタイミングで、実行した。すごい勢いで拡散されている」

「そうか・・・」

「戻るか?」

「そうだな。俺たちの家に帰ろう」

 ユウキは、近くに居るリチャードとロレッタとマイを範囲に留めて、転移を行う。

 日本の新聞に、アメリカに本拠地を構える宗教団体が崩壊したというニュースが報じられる。
 日本にも支部を持ち、政財界に信者を持つ巨大な宗教団体だ。

 本拠地の地下から、人骨だけではなく、腕や足を切り取られた子供や、鎖に繋がれた状態で死んでいる遺体が発見された。当初、警察はこの情報を隠蔽しようとしたが、警察が発表する前に情報がネットに流出した。

 警察発表は、状況を説明するには不十分だが、興味を引くだけのインパクトはあった。

 夕方に、宗教団体は敵対宗教からの襲撃を受ける。相手は、100名を越える武装集団だ。
 宗教団体は、地域住民の安全を確保するために、銃火器は使わずに武装集団の排除に乗り出した。銃火器を持った相手には抵抗が難しく、建物内への侵入を許す形になってしまった。それでも、宗教団体は100名の武装集団の排除を行った。
 教祖が陣頭指揮をとり、最終的には武装集団を無力化した。
 その過程で、教祖が片腕と片足を失い。顔と身体の半分に重度の火傷を負った。焼け爛れた顔側の目は失明に至った。頬に、何かの破片が刺さり、口の中にまで侵入し、舌を傷つけた。身体は栄養多寡な状態だが、これからの長い生を体中に管を繋がれた状態で過ごすことになる。口も聞けない。蓄えられた喜捨物は、武装集団に奪われた。

 警察は、宗教団体からの発表をそのまま流した。
 しかし、ネット上に流れる情報の真偽を巡って、動きがあったのはすぐだった。別の州にある同じ宗教団体が所有する建物から、武装集団が使ったと思われる銃火器が見つかった。それだけではなく、他の場所では違法薬物や各国の要人リスト。違法取引の帳簿が発見された。

 実際に何が行われて、どんな状況だったのか知るのは、宗教団体の関係者を除けば二人だけだ。
 ユウキも、マイも、待っていただけで、実際に何が行われて、何が合ったのか知らない。聞く必要もない。知らなくても影響はない。そして、事実を知る二人も、誰にも語る必要がないと考えている。

 復讐を終えたリチャードとロレッタは、拠点での報告を終わらせると、レナートに向かった。
 異世界で死んでしまった者たちに報告をするためだ。

 想定していたが、想定通りの自体になってしまった。

「リチャード!ロレッタ!」

「サトシ・・・。マイは・・・。後始末で、まだ戻ってきていない。セシリアは、会議か・・・」

「どうした?」

「サトシ。俺たちは」「忙しくないよな?それで、どうやったの?ユウキもマイも断片的にしか教えてくれなくて、俺にも教えてよ」

 面倒な状況だと、リチャードとロレッタはお互いの顔を見る。
 サトシは、よくいえば純粋だ。マイとセシリアが居れば、止めてくれるだろう。しかし、二人がいない状況でサトシを止めることができる唯一の人間はユウキだ。そのユウキも居ない。簡単にいえば、サトシの好奇心を満たさない限り、二人が解放されることはない。

「ふぅ・・・。サトシ。俺たちは、ユウキと計画を立てて実行した。結果は知っているだろう?」

「うん。計画もマイに教えてもらった。概要は、知っている」

「それなら、話さなくても大丈夫だろう?」

「違う。リチャード。違うよ。俺は、なんで”あんな物”が必要だったのか知りたいの?」

「あんな物?」

「そう。武器としては、欠陥品だよね?」

「そうだな」

「撃つと必ず暴発する。イターラに取り付けられる魔道具を依頼していたよな?」

「あぁわかった。わかった」

 リチャードは、サトシが気にしている内容が解った。

 マイが、この場に居ないことを含めて、ユウキに嵌められた気持ちになっている。面倒な役目を押し付けられた。

 覚悟を決めたリチャードが周りを見ると、味方であるはずのロレッタが居なくなっている。イターラに呼ばれて、移動したとサトシに教えられた。

「それで?」

 サトシが使っている執務室という部屋で、サトシに向かい合わせにして座る。
 侍女見習いが、飲み物を出してくれた。ユウキが送った、珈琲だ。本当は、炭酸飲料をサトシは求めたのだが、ユウキが却下した。ペットボトルをレナートに持ち込むのがダメだと説得していた。

「準備したのは、銃だ」

「それは知っている。暴発するようにしているよね?」

「あぁ撃つと暴発する。魔道具は、暴発を一定方向に誘導する。あと、証拠が残らないように、銃を分解して、破片を撃った者に浴びせかける」

「それが解らない。だって、銃はリチャードが持っていたのだよね?」

「そうだ。ユウキが、森田に依頼して作ってもらった物を、俺が受け取って腰に付けていた。魔道具はサイレンサーの形にしたから、違和感はなかったはずだ」

「それで、どうして教祖が負傷する?」

「それは簡単だ。俺とロレッタが、教団の施設を強襲しただろう?」

「うん」

「教祖の居場所は、最初から掴んでいたけど、全部の建物の入口と監視カメラを破壊した」

「うんうん。それで?」

「最後に、教祖たちが居る建物に正面から乗り込んで、教祖たちを追い詰めた」

「へぇ二人だけで、向こうは武装していたのだよね?」

「そうだな。殺さないようにするのが大変なだけで、簡単だったぞ。ゴブリンの上位種程度だから、コツが掴めるまで、手加減が難しかった。あぁ教祖は、オークを2倍した位に醜かった。ニコレッタ辺りが見たら発狂していたかもしれないな」

「ははは。リチャード。それは、オークが可哀そうだ。それで、殺さなかったの?」

「殺したら、アイツらと同じレベルになってしまう」

「そうか・・・。それで?」

「教祖の他にも、その場には居て、銃で武装していた」

「へぇ」

「俺たちを丸腰だと思って、取り囲んできたから、銃を取り出して、教祖に狙いを付けた」

「おっ!」

「教祖は笑って、撃てるなら撃てといったから、ロレッタが魔弾を弾いた。もちろん、銃砲と同じような音をわざと出してね」

「お!ロレッタとリチャードは、魔弾なら得意だよね。なら、銃は必要ないよね?」

「あぁ必要ない。俺とロレッタは、周りが驚いている間に、魔弾で取り囲んでいる連中の肩や足を撃ちぬいて、持っていた銃を破壊した」

「ん?あぁ教祖の周りに居た奴らの銃を破壊したの?そんなこと・・・。あぁ魔弾を当てればいいのか?」

「そうだな。サトシには無理だろうけど、ユウキなら簡単にできるだろう」

「俺だって、練習すれば、できるように、なる。可能性が、ない。わけでは、ない」

「ハハハ。そうだな。でも、サトシには、俺たちになり切り札があるだろう?」

「うん。そうだよ。あぁそれで?」

「計画通りに、一人だけ戦える状態にしておいた奴が居て、俺が銃を教祖に向けて歩き出した所で、後ろから襲わせた」

「・・・。あぁあの時と同じ作戦?」

「そうだ。相手が同程度のクズだったから、成功した」

「そうか、襲われたリチャードは、慌てて銃をそいつに向けるが、間に合わない。銃は、襲撃者の身体に当たって、教祖の前に転がる。襲撃者は横からロレッタの攻撃で意識を刈り取られる。振り向いた、リチャードとロレッタの前には、銃を拾い上げて、得意げに饒舌に話を始める教祖」

「そうだ。どこでも、クズはクズだな。自分が優位だと思うと、饒舌に話をしてくれる。恐怖を煽っているのだろう。無意味な」

「ロレッタが、”慌てて撃たないで”と、懇願する感じ?」

「あぁ前回のヒナの役割だな」

「似合わないな」

「そう思うけど、本人にはいうなよ」

「言わないよ。そのあとで、教祖は笑いながら、リチャードを撃った?」

「そうだ。それで、銃が暴発を起こした。サイレンサーに見立てていた魔道具が、銃の破片を教祖に向けて飛ばす。偶然腕と足に当たって、8割くらい切断された。そのあとで、銃に入っていた銃弾の火薬が、教祖に降りかかって、着火。オークの肉焼きの完成だ」

「リチャード。オークが可哀そうだ。体型が似ているかもしれないけど、オークは食べられるけど、そっちのオークは臭いだけで食べられない」

 リチャードは、簡単に経緯を説明した。サトシは、話が聞けて満足したのか、礼を言ってから、リチャードを解放した。

 リチャードが部屋から出ていくのを見て一言だけ漏らした。

「あとは、ユウキだけか・・・」

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