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第三十六話 葬送


 ユウキたちは、アメリカに渡っていた。

 皆で歩いているのは、よくある街並みだ。
 街並みを歩く子どもたちは、人種もバラバラで統一しているのは、”子供”だと思える年齢だということだ。ユウキたちを見つめる視線は存在しない。

 今回の作戦で最後に訪れる予定になっていた場所だ。

 先頭を黙って歩いているのは、リチャードとロレッタだ。
 ユウキだけは、リチャードとロレッタと一緒に来ているので、リチャードの態度は理解ができる。

「リチャード?」

 たまらず、ディドが声をかけるが、ユウキがディドだけではなく、皆を手で制する。皆もユウキの態度から、事情を察した。

 リチャードとロレッタは一度だけ後ろを振り向いたが、ユウキの視線を感じて、前を向いた。

 直接目的地に移動しなかったのは、リチャードとロレッタから頼まれたことだ。
 ユウキが事情を知っているとわかっていても、皆はユウキにもリチャードにもロレッタにも問いかけない。すでに、二人が向かっている場所がわかっている。そして、自分たちも場所は違えど、同じように思える場所が存在している。

 ユウキが手を挙げる。
 それに合わせて、後ろからついてきた者たちが立ち止まる。

 後ろがついてきていないことを不審に思った、リチャードとロレッタが振り返る。
 ユウキが、皆を足止めしているのに気がついて、軽く手を降ってから、また前を向いた。

 そこには、誰もいなくなった教会がある。
 教会の周りを覆っていただろう塀は壊されている。花々が咲き誇っていた花壇は、大きな足跡で踏み潰されている。キレイだった教会の壁には、スプレーで落書きがされている。

 廃墟と成り果てた教会に、リチャードとロレッタは入っていく、笑い声と神父の怒鳴り声が聞こえていた教会は、静まり返っている。座って祈りを捧げた椅子は、破壊されている。祭壇も破壊され、神の像は跡形もなく破壊されている。

(なぜここまでできるのか?)

 リチャードの声なき声に答える声はない。

 破壊されているのは、祭壇だけではない。

「ユウキ」

「済んだか?」

「あぁ別れは終わっている。やってくれ」

「いいのか?俺たちなら」「ありがとう。でも、やってくれ。父も母も疲れただろう。眠らせてくれ」

「わかった。マイ!」

 名前を呼ばれて、リチャードたちが居る場所まで移動する。ゆっくりとした歩調で移動する。

「いいの?」

 最後の確認を、マイが行う。やらなければならない事だと、マイも認識しているが、リチャードやロレッタの感情を考えれば、確認をしておきたい。

「あぁやってくれ」

 リチャードの宣言を聞いて、マイが、詠唱を始める。
 歌うように、しっかりとした詠唱だ。普段は、無詠唱でスキルを行使するが、今日はしっかりとした詠唱がふさわしいと考えた。ユウキにも相談をして、3つのスキルを併用する。そのために、長めに詠唱を行う必要がある。

 マイが詠唱を始めたと同時に、一緒に来ていた者たちは、各々が信じる神に祈りを捧げてから、教会の外に移動する。教会の中には、リチャードとロレッタとユウキと詠唱をしているマイだけが残った。

 マイの歌うような詠唱が終わって、スキルが発動する。

 この場で死んでしまった者たちが、現れては、リチャードとロレッタに抱きついてから消えていく、最後に神父らしき人が、リチャードとロレッタを抱きしめる。言葉は交わさなくてもわかる。
 神父は、リチャードとロレッタを抱きしめてから、ユウキに頭を軽く下げてから、マイの前で跪いた。

「マイ」「マイ」

 リチャードとロレッタも、神父の行動は予測していた。
 自分たちを育てた人物であり、父親だ。

「マイ。皆の下に送ってやれ」

「うん」

 マイが、先程よりも強力なスキルを発動する。
 神父は、跪いたままの姿勢で、スキルを受けて、消えるようにいなくなった。

 祈りを捧げていたリチャードとロレッタが立ち上がった。

「マイ。ありがとう」

「ううん」

 マイは、ロレッタからのハグを受けながら、リチャードの礼を受け取る。

「ユウキ。頼む」

「いいのか?」

「あぁここから始めないと・・・。皆に顔向けできない」

「わかった。持ち出すものは?」

「ない」

「そうか・・・」

 中に残っていた、4人が教会から出る。

 ユウキは、周りに居た者たちに向かって手を上げてから、一つのスキルを展開する。

 ユウキにしかできない。
 巨大な結界だ。

 教会を覆うように展開された結界の中で、皆のスキルが発動する。

 ユウキの結界が発動されたのを確認してから、皆がトリガーにしていたスキルが発動する。

 教会が徐々に破壊されていくのを、リチャードとロレッタはしっかりと目に焼き付けるように見つめている。

 建物が破壊されるまで、5分とかからなかった。

「ユウキ。頼む!」

 ユウキがスキルを発動する。
 結界と同じ要領だが、今度は意味合いが違う。

 教会の敷地内にある全ての物を異世界に転移させる。
 土を含めてだ。30メートルに渡って地下を掘り下げるように土ごと異世界に転移した。

「ユウキ!俺たちも頼む」

 フィファーナに戻る者たちだ。
 大きな質量を転移するのに、ユウキ一人では魔力が足りないのはわかっていた。そのために、フィファーナに残っていた者たちが協力したのだ。本来、魔力だけならサトシがいれば十分だが、サトシの場合には”正義感”が強すぎて、リチャードとロレッタの故郷の様子を見て、暴走しかねない。ユウキたちは、マイに相談して、サトシを除いたメンバーで作戦を遂行することを選んだ。

 リチャードとロレッタの故郷は、ハリケーンが襲った。避難できる者たちは、人づてで避難した。リチャードとロレッタは、神父の伝手で、弟や妹を連れて避難していた。

 ハリケーンが襲った街に現れたのは、アメリカで勢力を伸ばしつつあった宗教組織だ。

 宗教組織は、リチャードたちの教会を含む土地は、自分たちの物だと言い出した。
 ”神託”という曖昧な理由で、土地を譲り渡すように迫っていた。もちろん、リチャードとロレッタの父は拒否した。教会には、行き場がなくなった者たちが身を寄せていた。

 そして、教会が襲撃されて、身を寄せていた住民と一緒に皆殺しにされてしまった。
 街に残っていた者たちを含めて、誰一人として生きていなかった。襲撃した犯人たちも、街の中央でお互いを殺し合うように死んでいた。

 ニュースを聞いて、避難先から教会に戻ってきたリチャードとロレッタが見たのは、廃墟となってしまった街だ。ハリケーンでの被害も甚大だったのが、自然災害を生き抜いた街を、”誰かわからない”者が襲撃した。

 ゴーストタウンとなった街には、どこからか流れてきた者が住み着いて、スラムのような装いになっていた。
 リチャードは、ロレッタと弟と妹たちを避難場所に帰して、自分が残って、真相を調べようとした。ロレッタに反対されて、二人で残ることにして、異世界に召喚されてしまった。

 情報を得て、真実へ至る道筋を見つけたリチャードとロレッタが最初に行ったのは、街の浄化作業と、犯人と思われる宗教組織への嫌がらせだ。

 ユウキたちは、1ヶ月以上の時間をかけて、街を浄化した。宗教組織が使った薬物の浄化から始まって、魂の浄化だ。

 そして、仕上げとして教会に集まった魂の葬送を行った。
 神父は、リチャードとロレッタの父であり、街の導き手だった。

 嫌がらせは、奴らが欲しがっていた教会周辺を、更地にして、大きな穴を作成する。そして、リチャードのスキルで、穴にはトラップを仕掛けた。そして、宗教組織に自然な形で渡るように、情報を流した。

 実際には、釣れなくても、釣れても、問題はない。
 宗教組織が、教会の土地を欲した理由も判明している。

 仕上げは、まだまだ先だが、ここまでは順調に進んでいる。

 ユウキは、1ヶ月以上の作戦に協力してくれた者たちに礼を言いながら、異世界に送り届けた。
 残ったのは、作戦を遂行するユウキとリチャードとロレッタと、サポートとしてマイを含む女性陣だ。地球に残っている、フェルテ、エリク、マリウス、モデスタは、伊豆にある拠点の防御に注力している。
 リチャードたちの作戦をサポートするのは、マイとサンドラ、アリス、ヴィルマ、イスベル、テレーザ、ニコレッタ、イェデア、フェリア、イターラ、ヴェルだ。

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