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第三十一話 分裂


 ハーコムレイが何も言ってこない所を見ると、既に決定事項になっているのだろう。
 領地?が増える?

 ほぼ、西側の森を、俺に渡す意味があるのか?
 よくわからない。くれると言うのなら貰うけど、統治とかあるのなら断ろう。俺には、統治や領地運営なんてできない。

「それで?」

「ん?」

 ローザスがいきなり”何を言っている”と言いたいような表情をする。
 それは、こっちのセリフだ。

「だから、俺に何をさせたい?」

「え?」「ローザス!リン=フリークスに、”お願い”の内容を伝えていない」

 ハーコムレイが、眉間にできた皺を触りながら、ローザスに俺が言いたかったことを伝えてくれた。
 この国・・・。大丈夫か?

「あっ!」

 ローザスの視線を感じるが、ハーコムレイの説明の方がわかるだろうと思っている。そのために、ハーコムレイに視線を向けているが、無視されてしまった。この件は、事情はハーコムレイも知っているが、ローザスが説明しなければならない”厄介ごと”なのだろう。

「はぁ・・・。殿下。それで?”お願い”と言うのを教えてください」

「アデレードを、神殿で預かって欲しい」

「??」

「ローザス。リン=フリークスに、アデレード殿下と言っても解らない。事情を説明しろと言ったはずだ」

「ローザス殿下は、説明が苦手なようなので、ハーコムレイ殿。アデレード殿下の説明と、事情とやらの説明をお願いします」

 俺の宣言で、ローザスは肩を落して、ハーコムレイは”やっぱり”という表情をする。
 他に、どんな対応を望まれたのか解らないが、ローザスに説明を続けさせても、全部の項目に詳細情報を求める必要が出てきそうだ。

「わかった。まずは・・・」

 ハーコムレイの説明は、的確だ。

 まず、アデレードは”殿下”を呼んでいたので、想像した通りに王族だ。第三王女で、継承権を有している。”アデレード=ベルティーニ・フォン・トリーア”という。ローザスの直系らしい。同腹の兄妹だ。

 その妹を、”神殿で預かる”理由は、想像していた中で最悪な物だ。

 俺が二人に渡した通称”ニノサ文章”で、窮地に立たされた宰相派閥が、妾腹の王子を担ぎだした。
 ローザスの廃嫡を狙って動き出している。そちらは、既に情報を握って、潰せる準備は終わっている(らしい)。妾腹の王子は、国王の子供か懐疑的な情報が出てきていて、それを利用して追い詰める(らしい)。問題は、追い詰める過程で、宰相派閥の武闘派たちが蜂起する可能性がある(らしい)。
 実際に、西側では戦闘が発生すると考えられている。そして、妾腹の弟はローザスを憎んでいる(らしい)。

 紛争が西側だけで済めばいい。しかし、本当に追い込まれた宰相派閥が、ローザスを脅す為に、アデレード殿下を人質にする可能性がある。可能性は、低いとは考えているようだが、宰相派閥との戦いが終わるまでは、アデレードを安全な場所に逃がす算段をしていた。
 最初は、ミヤナック領で療養する予定だったのだが、ミヤナック領の東側・・・。国境付近もきな臭い動きがあり、躊躇していた(らしい)。

「そうか、それで、神殿で匿って欲しいと言うのだな?」

「そうだ。あと、これはアデレード殿下の希望でもある」

「希望?」

「あぁそれは、アデレード殿下から直接、聞いてくれ」

「わかった。神殿での受け入れは、大丈夫だと思うが、侍従や侍女が居るのだろう?」

「それは、最低限にするとしか・・・」

「100人とか言われなければ大丈夫だけど、俺は神殿に常に居るわけじゃないぞ?ギルドで保護されたほうが安心じゃないのか?理由付けもできるだろう?」

「理由付け?」

「ギルドは、ローザスの後援を受けている。そうだよな?」

「正確には、僕とミヤナック家だね」

「ミヤナック家は、ルアリーナ嬢が来ている。バランスを取るために、アデレード殿下がローザスの代わりにギルドを監査する立場にすれば?どうせ、お飾りだって、貴族には解るのだろう?」

「ふむ。一考の価値はありそうだな。ローザス。どうだ?」

「僕としては、リン君の提案を受けたいと思う。アデレードにも仕事が有ったほうが受け入れやすいだろう。神殿には最初は視察目的で訪れて、一度はミヤナック領まで移動したことにして欲しい」

「ん?なぜ?」

「神殿とミヤナック領のどちらにアデレードが居るのか、迷うようにしておきたい」

「わかった。俺としては、ギルドが承諾すれば、アデレード殿下が神殿で過ごすのに、何か言うつもりはない。皆が使う領域とは別の場所に住む場所を用意した方がいいだろう?侍従や侍女の人数が決まったら教えてくれ、場所を用意する」

「わかった。ギルドに相談して、承諾が得られたら、連絡を入れる」

 なんか、厄介ごとを抱え込んだ感じがするが、今更だな。宰相派閥にはアゾレムも居るから、どのみち対立は避けられない。
 それなら、味方は多い方がいい。アデレード殿下が、どれほどの弾避けになるか解らないけど、ローザスとハーコムレイを潜在的な味方に引き込むくらいの役割はできると、期待しよう。

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 リンが、ローザスとハーコムレイと話をしている時に、ギルドの内部では、大きな問題が発生していた。

「ねぇ本気?タシアナ!ルナ!サリーカ!フェム!イリメリ!!」

 疑問を呈しているのは、フレットだ。ギルドは、女子8人で立ち上げた。それぞれに役割を分担した。
 特に、フレットは教会筋への調整を行った。ギルドの1/3は自分が作ったと自負していた。それが、急にリン=フリークスが来て、神殿という場所への移転を働きかけてきた。フレット(松田昴)も、リン=フリークスが”神崎凛”だと理解している。それだけではない。何もしていない、オイゲン(茂手木)まで連れてきた。

「なんで、リン=フリークスを信じられるの?」

「彼は、彼のスキルを使って隠蔽をしてくれた」

「でも、それは彼の為でしょ?私たちの為じゃない。それだけじゃない。真名が読めるようになって、奴隷契約が可能になったのよ!」

 これは、サリーカが”奴隷”を調べている時に判明した。
 奴隷契約には、真名での契約が必要になる。読めなければ奴隷契約ができない可能性が有った。

「フレットは、漢字の状態がよかったの?リン君に話をして戻してもらう?」

 この話は、既に何回も行われている。ルアリーナは、正直に言えば、面倒になってきている。自分たちの利益を最大にしようとしているは解っている。でも、その為に”出遅れた”と思っているのだ。

「それで、カルーネとアルマールも同じ?」

 二人は黙っているが、気持ちはフレットと同じだ。職人と渡りをつけたのは二人だ。後から、入ってきた”リン=フリークス”に従うのが面白くないと思っている。

「イリメリは、なんとなく解るけど・・・。ねぇ、フェムもなんで、リン=フリークスの事を信じられるの?彼がトップを取った時に、立花たちを選択する補償はないよ?イリメリも自分が死ぬかもしれないよね?」

 皆が漠然と抱えている不安だ。
 特に、イリメリは自分が死ぬのだと思っている。リンが勝ち残った場合に、立花と自分とあと一人を指名するのだろうと思っている。それだけの事を、リンにしてしまった。

 アルマールは、”神崎凛”が、立花たちから虐めを受けているのは認識している。しかし、その虐めを見ないフリをしてきたのは自分たちだと思っている。そして、実際に”死”が現実のように突き付けられている状況で、自分が生き返る事を優先して考えれば、リン=フリークスの提案には乗れないのだ。

「アルマール?」

「私は、王都に残る」「私も・・・。教会も・・・」「私は・・・。うん。アルマールと一緒に残る。王都のギルドは、使っていいよね?」

 アルマールの宣言を聞いて、オイゲンの合流と神殿への移動に反対していた3人が王都に残ると宣言した。神殿への移動だけなら、3人は消極的ながら賛成していた。しかし、オイゲンが”奴隷”になってしまったことから状況が変わった。
 自分たちも、リン=フリークスの奴隷になってしまうのではないか?
 そして、ギルドの名声も全部リン=フリークスに奪われるのではないか?そして、それに反対の意思を出してしまった者から”死ぬ”者が選ばれるのではないか?
 想像の上に妄想を加えた考えだが、3人は”神殿への合流”には反対の立場を崩さなかった。

 王都にもギルドは残さなければならない。連絡係という側面もあるが、王都に無ければ、神殿にあったとしても誰も信頼はしないだろう。
 話し合いの結果、王都のギルドはフレットとカルーネとアルマールが運営することになった。

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