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第二十八話 説明


 アッシュから、奴隷を引き取る。
 俺に、頭を下げてから、アッシュは部屋を出て行った。

 オイゲンは、アッシュが奴隷商だと知っている。自分を買った者だから覚えていたのだろう。俺の横には、セバスチャンが立っている。

 しかし、オイゲンの視線は、俺と奴隷の少女たちを行ったり来たりしている。
 お気に入りは、ハーフエルフなのだろうと思うが、獣人も気になる様子だ。満遍なく見てから、俺に視線を移してから、またハーフエルフに視線を戻す。忙しく、視線を動かすだけではなく、ソファーから立ち上がりかけている。

「オイゲン。座れよ」

「あぁ・・・。リン」

 ソファーに座って、俺の名前を呼ぶが、また視線は奴隷の少女たちに注がれている。
 どれだけ気に入っているのか解らないが、これでは話が進まない。

「オイゲン!」

「あぁ。すまん。リン。それで、俺が支払わなければならない金額は理解した。それで、金貨50枚を、俺に渡すと言ったが?」

 オイゲンも、大概だな。
 俺と話をしながら、チラチラと少女たちを見ている。

「そうだ。賠償金の額に比べたら、金貨50枚なんて、大きな金額ではない」

「そうだな」

 何かそわそわしている。期待しているのだろう。

「その金貨を元手に商売を始めてもいい」

「ん?でも、リンは俺にやらせたい事があるのだろう?そのために、賠償金を肩代わりしてのだと言っていたよな」

「そうだ。お前が拒否した時の保険だ」

「保険?」

「そうだ。オイゲン。その金貨50枚で、後ろの」「乗った!リン!」

 喰い気味ではない。完全に、俺の話の途中で立ち上がって、大声を上げている。

「話を全部、聞けよ」

「おっそうだな。わかった」

 視線は、既に少女たちに固定されている。

「ふぅ・・・。オイゲン。この少女たちは、俺の奴隷だ」

「え?俺に?」

「違う。違う。お前も奴隷だ。同僚とは違うな。お前に、この少女たちを、金貨50枚で貸し出す。それで、俺に協力してくれ」

「貸し出す?」

「そうだ。お前は、犯罪奴隷ではないが、奴隷だ。奴隷は、奴隷を持てない。わかるよな?」

 渋々頷くが、これは不文律で決められている。

「だから、少女たちは俺が所有する。お前に、やってもらいたい事には、人手が必要だ。奴隷のお前では、人を集めるのも苦労するだろうから、俺が準備した」

「え?」

「お前が、この少女たちが欲しければ、俺から買い取ればいい」

「わかった。金額は?」

「全員で、金貨1万枚だ。まぁ少しだけ安くして、金貨9000枚にしてやる。お前の賠償金と合わせて、金貨1万枚を払えば、お前が主人になる。それまで、触れる事も許さない。俺の奴隷に傷を付けたら、買い取り価格は倍に増えていく。お前たちも、そのつもりでいろ」

 絶望に染まるオイゲンの表情だが、少女たちは俺の説明で納得して頷いている。

「あと、オイゲン。少女たちも、自分で自分を買い取る権利を与えている」

「え?それは・・・」

「当然だろう?お前だけに、有利な契約なんてありえない。どうしても、少女たちが欲しければ、お前が誠意を見せながら、少女たちを引き止めなければ、お前の奴隷にならない」

「くっ。それは・・・。でも・・・」

「そうだ。お前が、仮の主人として、少女たちに誠意を見せつつ、しっかりと主人として振舞えば、少女たちはお前から離れない」

「わかった。リン。その話を受けよう」

 オイゲンが話を受けてくれるようだ。
 断らないとは思っていたけど、こんなに簡単に受けていいのか?何か、罠があると考えないのか?

 俺としては、最後のピースとなる茂手木(オイゲン)が、条件付きだけど仲間に迎えられた。これで、成功の可能性が上がった。

 セバスチャンが羊皮紙を持ってきた。
 今の内容が書かれている。スキルで縛らない契約だ。

 オイゲンは、セバスチャンから羊皮紙を受け取り、契約書であると宣言されてから、内容の説明を受けた。
 もちろん、質問をしないでサインをしていた。

 軽率な行動で、現状になっていると思うと、オイゲンで大丈夫なのか考える必要があるが・・・。
 他に手はない。ベストでない可能性はあるが、ベターだと思いたい。

 セバスチャンが契約書を俺に手渡してきた。
 内容は解っているので、サインをして返す。

 セバスチャンは、契約書を持って部屋から出る。

 5分ほど経過してから、アッシュが部屋に戻ってきた。

「リン様。契約書の通りで、問題はありませんか?」

 契約書は、アッシュに預ける。

「アッシュ。頼む」

「かしこまりました」

 まずは、オイゲンを俺の借金奴隷として登録する。
 そして、少女たちをオイゲンの前で、俺の奴隷として登録する。奴隷としての制限は、通常の制限に合わせて、俺以外には”素肌を触らせてはならない”という制限を付ける。この制限を破った場合には、『触った者と話ができない』と『俺に報告をする』の条件を付与した。
 少女たちは、この条件を受け入れて、俺の奴隷となった。

「それでは、今日から俺の奴隷だ。仕事は、そこのオイゲンと話し合って決めて欲しい」

「ご主人様」

「どうした?」

「仕事とおっしゃっていますが、私たちは、何をしたらいいのでしょうか?」

 ハーフエルフの少女が、俺に質問をしてきた。
 当然の疑問だ。ハーフエルフの少女が代表で訪ねてきた感じだ。全員が同じように思っていたようだ。

「今から移動する。移動した場所で説明する。最初は、ギルドと呼ばれる、最近できた組織だ。ギルドで、準備を整えたら王都を出る。最終的には・・・」

「最終的には?」

「マガラ渓谷が目的地だ」

「え?マガラ渓谷?メロナでも、アロイでもなく?」

「そうだ、まずは、メロナに移動する。道中で、いろいろ説明をする」

「わかりました」

 ハーフエルフの少女に続いて、獣人の少女たちも、頭を下げる。
 俺の事は、”ご主人様”呼びで、オイゲンは、オイゲン様としたようだ。主人ではないが、上位者だという理由だ。

「アッシュ。いろいろ世話になった」

「いえ、私も・・・。いえ、辞めておきます」

「そうだな。それから・・・。これを渡しておく」

 魔石を詰め込んだ袋を取り出して、アッシュに渡す。

「これは?」

「これからも、奴隷市で、子供の奴隷が出るだろう?」

「・・・。はい」

「全て、買い取れ!足りなければ、追加で魔石を渡す。魔石が値崩れしたら、それも教えてくれ、数を用意する」

「わかりました。子供だけでよろしいのですか?」

「アッシュに任せる。生活に困窮した家族でも、アッシュが善性だと判断したら買ってくれ、あと・・・。いや、アッシュに全部任せる。どれだけでも、構わない。買えるだけ、買ってくれ!」

「わかりました。戦闘に使える奴隷は?」

「必要ない。弱い者や、誰かが手を差し出さなければ命の灯火が消えてしまうような者だ!怪我や病気でも構わない」

 アッシュが、綺麗に立ってから、深々と頭を下げる。

「買えた奴隷は、わかるだろう?」

「はい。メロナの事は、聞いております。セバスチャンに連絡をして届けます」

「頼む」

 アッシュに案内されて、奴隷商を出る。
 オイゲンだけではなく、少女たちも眩しそうにしている。

 俺たちを見ると、俺とセバスチャンが少女たちを連れて、奴隷となったオイゲンを買ったように見えるだろう。少女たちは、湯あみをして綺麗な服を来ているが、オイゲンはみすぼらしい姿だ。

 そういえば、アッシュの奴。
 オイゲンが奴隷になる時に、真名を見たはずだ。今度は、真名が読めたことなど、気にしないとばかりに、奴隷契約を行っていた。俺のスキルを何か解ったのかもしれないが・・・。気にしてもしょうがない。

 それに、あまり信頼はできないが、ニノサやサビニの関係者なら、ナナと同程度の信用はできるだろう。
 俺の秘密を知っても、吹聴しない程度はしてくれるだろう。ハーコムレイやローザスには報告が上がるだろうが・・・。

 まぁ気が付かなかった俺が悪いのだし、それにオイゲンに奴隷契約を行うには、俺のスキルで真名を変え(偽装し)なければ、話が進まない。簡易的な契約で、俺のスキルや今日の取引は口外しないとしているから、大丈夫だ。と、思いたい。

 俺とセバスチャンを先頭に、少女たちが続いて、最後にオイゲンが少女たちの後ろ姿を見ながらついて来ている。

 ギルドの入口が見えてきた。
 さて、次の修羅場は・・・。オイゲンをスケープゴートにすればいいだろう。

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