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オシャレしちゃいけないですか⁈ ②

 翌日の放課後。天気は絶好の晴れといったところでしょうか。約束通りに、私は美優羽さんの家を訪れることになりました。今はその途中の帰り道です。

「楓っ。どうしたの? そんなに緊張して」

 美優羽さんが優しく声を掛けてくれます。どうやら、目に見えるくらい緊張していたようです。まあ、無理もありませんか。勉強していたのもありますが、結局上手く寝付くことができなかったのですから。

 そのくらい、私は今日という日が楽しみだったのです。美優羽さんの家に上がるということが。

「そっ、そうですか? 美優羽さんの服を選ぶとなるとちょっと緊張してしまって……」

 私は半分本当、半分嘘な内容で回答しました。

「そうなのね。楓って本当に真面目ねえ。これなら真剣に選んでもらえそうだわ」

 美優羽さんは嬉しそうにしています。それだけ、真剣に選んでくれる人を渇望していのでしょう。私はなんとしてでも役立ちたいです。

 その為に、昨日いっぱい勉強したんだからきっと大丈夫なはずです。付け焼き刃ですが、少しは役に立つはずです。私はそう意気込みます。

 そうこうしているうちに、いよいよ美優羽さんの家に到着しました。

「どうぞ、上がって」

 美優羽さんに促されるように、私は家に入って行きます。

 まず、美優羽さんの家について思ったのは広いということです。私の家も、一軒家なのでそれなりに広いと思っています。ですが、美優羽さんの家はそれ以上に広いです。

 流石に迷子になる程ではありませんが、ここまで広い家は芸能人の家じゃないと無理そうです。ご両親の稼ぎがきっといいのでしょう。

 それから、隅々まで掃除が行き届いているのか、かなり綺麗です。白い壁は綺麗な白をしていますし、フローリングもピカピカです。

 ご両親は出張で滅多に家に帰ってこないということなので、掃除がおろそかになりそうですが、そういう気配がまるでありません。とても不思議です。

 あと、何故かいい匂いがします。柑橘系というかなんというか。ちょっと説明しづらいですが、とにかくいい匂いがします。これは、普段から美優羽さんがいい匂いをしているので当然のことでしょう。

「どう? 別に普通の家でしょ?」

 美優羽さんが無邪気に言います。

「いえ。私の家より広いですし、綺麗ですし、いい匂いがします」

「そ、そんなことないわよ。これが普通のはずよ。それより、私の部屋は2階だからこっちね」

 美優羽さんは少し照れくさそうにしながら、2階へと案内してくれました。

 2階も相変わらず綺麗です。2階の奥にある一室。それが、美優羽さんの部屋とのことです。

 一体どんな部屋なのでしょうか。美優羽さんのことだから、きっと華やかな部屋なのでしょう。あと、本がいっぱい置いてありそうです。ワクワクしながら、美優羽さんに導かれます。

 ガチャ。

 美優羽さんが部屋の扉を開けます。眼前に飛び込んできたのは、とてもシンプルな白一色で統一された部屋でした。

 てっきり、もっとピンクとか青とかで満たされているのかと思ってました。なので、不意打ちをもらったようになってしまいました。

 ですけど、これはこれでとても綺麗な部屋です。統一感がありますし、無駄のない洗練された印象を受けます。あと、本は予想通りいっぱい置いてあります。

「私の部屋。なんか地味でしょ?」

 美優羽さんは笑みを浮かべています。

「私はこれはこれでいい部屋だと思いますよ。統一されてて、とても綺麗ですし。確かに印象とは違いますけど」

「そういってくれると嬉しいわ。私、こうなんかカラフルにするのがあんまりすきじゃないから、これで落ち着いちゃうんだよねえ」

 美優羽さんは穏やかな表情をして言いました。これもまた、美優羽さんの一面なのでしょう。一つ知れたことで、美優羽さんに近づけた気がします。これだけで今日は満足できそうです。

 しかし、やることはまだ全然進んでいません。美優羽さんの服を選ぶことが、今日のミッションなのです。

 美優羽さんは、服の準備を始めました。私はそれを黙ってみていました。

 準備が整い、服を見ていきます。私が学んだことは主に3つ。

 まず、体型に合った服を選ぶこと。小さすぎても大きすぎてもダメだということです。それから、ウエストの位置もわかるようにしないといけません。これは、美優羽さんの服は大体の服がクリア出来ていそうです。

 それから、全体の色のバランスを考えることです。ベースとなる色が7割くらい。それをサポートする色が2割程度。残りの1割でアクセントをつけにいく。これがいいバランスだそうです。

 そうすると、ベースの色はあまり派手な色でない方が良さそうですね。美優羽さん自身が穏やかな雰囲気の人なので、激しい主張をする色と対立して服が浮いてしまいそうですから。あと、奏さんの好みもそういう感じでしょうし。

 従って、ベースの色は白とか、淡い系の色、黒もギリギリありかもしれませんね。私は、それを美優羽さんに伝えます。

「確かにそうかもね。お姉ちゃんもそういう色を好みそうだし、そっちの方がいいかもね」

 美優羽さんは納得されているようでした。これでベースの色は決まりですね。

 あと、色は多すぎてもダメなようです。多くても3、4色に収めるのがベストらしいです。確かに、色がいっぱいあったら、ごちゃごちゃした見た目になりそうですしね。そう考えると、とても納得のいく話です。

 これらのことを踏まえて、私は美優羽さんの服を選んでいきます。

「さーて、じゃあ着替えようかな」

 そう言って、美優羽さんは(おもむろ)に服を脱ぎ出しました。

 眼前には美優羽さんのスベスベのおみ足、美しくバランスの取れたボディ、そして白色の綺麗な下着が広がります。

 これは、流石に私には刺激が強すぎます。幸せな光景には違いありません。ですが、興奮しすぎて鼻血が出てきてしまいそうです。いけません。これでは服を選ぶ前に私が気絶してしまいます。

「あ、あのぉ美優羽さん。申し訳ないんですが、着替えてる間だけ外に出ていてもいいですか?」

 興奮をなんとか押さえつけて私は美優羽さんに尋ねます。

「別にいいけど。そんな同級生の着替え見るだけで何か困ることあるの?」

 美優羽さんは不思議に思っているようです。まあ、そうでしょう。普通の女の子は同級生の着替えでこんなこと言わなさそうですしね。

「わ、私、こういう感じで人と一緒に着替えるっていうのに慣れてないので」

 語尾を曇らせて、誤魔化すように私は言います。本当の理由は言えませんので、当然嘘の理由です。

「そうなの。それじゃあ無理強いさせてもダメよね。わかったわ。着替え終わったら呼ぶから、それまで外にいて頂戴(ちょうだい)。なんだか、客人を外に出してしまうのは申し訳ないけどね」

 美優羽さんはどうやらその理由で納得しているようでした。これで私は安心して洋服選びに専念できます。

 というわけで、服選びの開始です。

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