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11話 王女で護衛対象が弟子になった

「今日からよろしくお願いします、師匠!」
「……なんだって?」

 決闘を終えた翌日。
 教室へ移動すると、すでに登校していたネコネがビシリと敬礼をして俺を迎えた。

 ついでに、訳のわからないことを言っていた。

「どうしたんだ、熱でもあるのか?」
「ち、違いますよ」

 ネコネは不服そうに頬を膨らませた。
 抗議するような視線をこちらに向けつつ、言葉を続ける。

「弟子にしてくれる、って言ったじゃないですか」
「……言ったか?」

 記憶を掘り返してみるが、そのような発言はしていないような?

「その、あの……俺の方がふさわしい、と」
「ああ」

 それなら記憶にある。
 ……ああ、それを了承と受け取ったわけか。

「……まあ、いいか」

 任務のこともある。
 身バレする可能性は高くなるが……
 師匠と弟子の関係になれば、普通のクラスメートよりは長く一緒にいることができる。

 リスクとリターン。

 それを考えて、俺は話を引き受けることにした。

「わかった。今日から俺は、レガリアさんの師匠だ」
「はい! ありがとうございます、師匠!」
「師匠はやめてくれ……」



――――――――――



「スノーフィールド君、魔法を教えてください!」

 放課後。
 話があるからと屋上に呼び出されたのだけど、開口一番、そんなことを言われた。

「というか、ちょっと性格変わっていないか?」

 おしとやかなイメージがあったのだけど……
 今は、わりとアクティブな印象だ。

「そうでしょうか? 私はいつも通りだと思っているんですが……もしかしたら、距離が近くなった影響かもしれません」
「距離?」
「はい、心の距離です。スノーフィールド君が魔法の師匠になってくれたこと。それと、その……とても優しくしてくれたこと。だから、そういうことです」

 どういうことだ?

「それで……魔法、お願いできませんか?」
「わかった。約束だからな、教えてみるが……」
「本当ですか!? ありがとうございます!」

 ネコネは笑顔になって、その勢いのまま抱きついてきて、

「す、すみません!?」

 一人で勝手に照れて、慌てて離れていた。

 これがネコネの素なのかもしれないな。

 王女という立場。
 魔法を使えない。
 それらの要素が心を縛り、それらしくあろうとして、今まで本当の自分を隠していたのかもしれない。

「とりあえず、一度、魔法を使ってみてくれないか?」
「でも、私は……」
「わかっている。どのようにして魔法を使おうとしているのか、最初からもう一度、確認しておきたい」
「……わかりました」

 静かに頷いた後、ネコネは俺から離れた。

 手の平をそっと前に差し出して、上に向ける。
 そして、目を閉じて集中。

「ふむ」

 魔力を練り始めたみたいだ。

 ただ、やはりというべきか、この時点で違和感がある。
 俺は、意識的に魔力の流れを見ることができるのだけど……
 先日の授業と同じように、ネコネの魔力の流れがおかしい。

 通常、魔力は血液のように全身を循環している。
 魔法を使う際は、その流れをコントロールして、一点に集中させる必要があるのだけど……

 よくよく見てみると、ネコネは魔力がうまく循環されていない。
 なにかに引っかかったかのように途中で止まっていた。

 結果……

「ファイア!」

 魔法を唱えようとしても、うまく魔力を引き出すことができず不発に終わる。

「……このような感じです。あの……どうでしょうか? 私でも、うまく魔法を使う術はあるでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ。そうだな……」
「え? え?」

 ネコネに近づいて、じっとその瞳を覗き込む。
 額と額が触れ合うほど近く。

「あ、あの、えと……その、その……!?」

 ネコネが急激に赤くなるけど、気にしない。
 それよりも、なぜ彼女が魔法を使えないか?
 その方が気になる。

 このような現象は初めて見た。
 一魔法使いとして、彼女の身に起きていることに興味がある。

 なので、じっと観察をする。

「あわわわ……!?」

 ネコネの目がぐるぐるとなって……

「よし」

 ある程度納得したところで、俺はネコネから離れた。

「はふぅ……ど、ドキドキしました……」
「どうしたんだ、顔が赤いぞ?」
「す、スノーフィールド君のせいですよ!」

 なぜだ?

「それはともかく……レガリアさんが魔法を使えない原因、予測できた」
「えっ、ほ、本当ですか!?」
「たぶん、呪いだな」
「呪い……!?」

 症状は違うけれど、魔力の循環が正常に行われていない人を見たことがある。
 その人は呪いに犯されていて、魔力の循環がダメになっていた。

 今回はそれとよく似ている。

「確証はないけどな」
「いえ……スノーフィールド君が言うことなので、私は信じます。でも、いったいどうして……誰がそのようなことを……」
「悪いが、犯人についてはサッパリだ」

 ネコネに親しい人の仕業か。
 あるいは、まったく関係ない人の犯行か。
 彼女の身辺を知らない俺は、それを特定することはほぼほぼ不可能だ。

 ただ……

「呪いなら話は簡単だ。解呪すればいい」
「できるんですか!?」
「問題ない」

 伊達に賢者の称号は授かっていない。
 解呪の魔法はいくつか知っている。

「じっとしててくれ」
「は、はい!」

 ぴしっと直立不動になるネコネ。
 そこまでしなくてもいいのだけど……まあいいか。

「クリア」

 俺は解呪の魔法を唱えて……

「……なに?」

 パチンという軽い音と共に、魔法が弾かれるのを感じた。

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