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主人公現る

 「おい、ここはお前みたいなケツの青いガキが来るところじゃ無ぇぞ!」

 その声が聞こえたのは、今日の活動を終え、依頼完了報告をするために受付とやり取りしている時だった。
 声の方を見ると厳つい男に細身ではあるがそれなりに鍛えてそうな少年が絡まれていた。なお、少年は中々のイケメンだ。まあ、僕には敵わんが。
 と言うか、

 「えっ」
 「どうされました?」
 「あ、いや」

 僕の思わず漏れてしまった声を、仕事出来る系メガネ美人の担当受付に拾われてしまった。そして、僕が見ている先を辿って訪ねてきた。

 「もしかしてお知り合いですか?」
 「いや、どちらも知らない人です」

 でも、そうじゃない。僕が思わず声を漏らしてしまったのは知り合いが絡んだり絡まれたりしていたからじゃない。
 衝撃だった。
 このギルド、こう言う新人イビリみたいなイベント発生する場所だったの?
 だって、物語の主人公が遭遇するド定番中のド定番が発生し得る場所だったなんて知らなかったんだから。

 「あんな風に絡まれなかったんだけど」

 と言うか、今現在に至るまでこのギルドで、いちゃもんつけられたり絡まれたりした事ない。

 「ああ、貴方は登録に来た時から異様な雰囲気があったので、誰も声をかけられずにいたみたいですよ」

 担当からのまさかの解答。

 「し、知らなかった」
 「まあ、わざわざ聞かれもしない事を教えたりはしませんからね」

 そう言えば、初めて冒険者ギルドに訪れた時から妙に避けられているようには感じていた。
 最初は見られてるな、と思ってそっちを見るけど目が合う前に目を逸らされるし、最近では視界に入れないようにされてる気がする。それに、僕が歩くと混んでいても何故か人が割れて道ができる。
 何というか、半径二メートルの範囲に誰も入ってこないのだ。
 でもそうか。異様な雰囲気を僕が放っていたから避けられてたのか。

 「えっ」
 「次は何ですか?」

 先ほどの定番イベントに、美人ばかりが集まった女性パーティーが割り込んでいたのだ。しかも主人公らしき少年を庇う立ち位置だ。

 「あんな色物パーティあったっけ?」

 絵に描いたような美女ばかりのパーティーとか、今まで見た事ないけど。

 「彼女達も貴方に色物と言われたく無いでしょうけれど、貴方と同じ時期くらいから活動してましたよ」

 し、知らなかった。

 「認識されてなかったんですね」

 仮面で僕の顔は見えないはずなのに、担当受付は的確に僕の心情を察して、可哀想な目で僕を見てくる。さすがは出来る受付。でもその目はやめて下さい。

 「ギルド内で一緒になる事は滅多にありませんでしたし、認識されてなくても仕方ありませんが」
 「そうなんだ」

 僕と担当が話している間にもイベントは着々と進んでいき、どうもヒートアップしていってるようだ。

 「あれって、止めなくていいの?」

 なんて担当受付に僕が聞いている間に、厳つい男は拳を振り上げていた。少年は一瞬、目を鋭くさせると、厳つい男を吹っ飛ばして返り討ちにしていた。

 「終わったみたいですね」

 そう言うと、担当受付は窓口の裏へと目配せした。
 すると、奥から元冒険者であろうギルドの職員が出て来て、騒ぎを起こしたことの注意をしていた。

 「慣れたもんだね」

 あまりもスムーズな対応に僕は素直に感心した。
 このギルドはイビリとかない穏やかな所だったから、何か意外だ。

 「こう言った事は偶にありますからね」

 し、知らなかった。
 ここも血気盛んか荒くれ者が集う冒険者ギルドだったのね。

 「スゲェ、あいつC級なのに」
 「登録すらしてない奴が簡単にノシちまった」

 おお。早速、噂されている。
 そこで僕は、ふと、思った。
 もし、この世界が物語の中だったとしたら、間違いなく彼が主人公だろう、と。
 しかも、ハーレム系チート主人公。え、何それ羨ましい。

 転生者である僕は、よくある物語の様に、自分の事をチート俺TUEEE転生主人公なのではないかと思っていた。
 だって、転生して初めて己の顔を見た時、乳幼児ながら、将来有望すぎるイケメンだったんだもの。驚く程の美乳幼児だったんだもの。
 僕の物語が始まった。
 本気でそう思ったね。
 そのことに気付いてからは、数々の転生主人公みたいに冒険者になって華々しく活躍するため修練にひたすら励んだ。三つ子の魂百までだからな。スタートダッシュ大事。
 転生ものの物語を思い出しながら、歩けるようになるまでは魔術訓練に励み、棒を振れるようになってからは剣術も始めた。
 父が元冒険者だったらしく、棒を振る僕に興味があるのかと剣術を少し教えてくれた。
 そして、準備を整えて十二歳を迎えたその日に冒険者登録をしたのだ。
 滑り出しは実に順調で、特に問題も無く、依頼をどんどん熟していき、着々とランクを上げていった。
 そう、特に問題も無く。
 絡まれイベントも一切無く、想定外の無駄に強い敵も現れず、その敵のせいで起こる問題とかも現れないから起こらず。ありとあらゆる主人公っぽいイベントは発生する影も見せず、何とも穏やかな冒険者生活を俺は送った。
 そして今日、彼を見て、この世界が物語の中だとしたら、自分は主人公ではないと言う事を悟った。

 そっか。違ったんだな。彼がこの世界の主人公だったんだ。

 主人公らしく生きようと思って今まで過ごして来たけど、これからどうしようかな。
 まさか、齢十四にして人生を考える羽目になるとは思わなかった。

 「こちらが今回の報酬です」

 周りがどんなに騒がしくても、己の仕事を冷静に全うする彼女に感服だ。
 僕は返却されたギルドカードと口座に振り込まれた金額を確認して問題ない事を彼女に告げた。

 「確かに」
 「持ち込み素材はいかが致しますか?」
 「解体結果を見て、売却物を決めてもいいかな?欲しい素材があるんだ」
 「構いませんよ。では、その様に」

 いつもの様に僕達が処理を進めていく間にも、主人公達はワイワイガヤガヤ楽しそうだ。
 主人公達が集まる辺りから少し離れた場所に僕はいる。
 この世界が物語の中なら、僕は差し詰めモブなんだろうな。
 うん。決めた。
 これからはモブとして、彼の主人公人生を彩る背景になろう。
 主人公であろう彼を横目に見ながら、僕は帰路につくのであった。

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