22 子供たち
「あの子の笑顔なんて初めてみたかもしれないな。ローゼリア嬢にはあの子たちの共感を引き出す何かが備わっているのかもしれないね。実に興味深いな」
エヴァン様が私の肩を引き寄せながら言いました。
「ローゼリアを研究することはお断りしますよ?先輩」
「なぜ?」
「なぜかわからないあなただからです」
「なるほど。でもローゼリア嬢はあの子たちのような子供への教育に興味があるのだよね?」
私は真剣な顔をして博士に言いました。
「適切な単語が無かったので教育という言葉を使いましたが、少しニュアンスが違うような気がするのです」
「ほう?」
「それが自分の語彙力が本当に情けないのですが、なんと言えばいいのか…」
エヴァン様が笑顔で言いました。
「私にはあの表現が凄く分かり易かったよ?先輩、彼女はジョアンがジョアンのままで、もっとジョアンになればいいのにって言ったのですよ」
「ああ、完璧な回答だ。素晴らしいね、ローゼリア嬢」
「あ、ありがとうございます?」
「エヴァン君に提案なのだが、ローゼリア嬢をここのアシスタントして来させてはどうだろうか。学園からの帰りの数時間でもいいから。できればジョアン君にも来てほしいんだが」
「そうですね、毎日というわけにはいかないでしょうけれど。ジョアンのことも含めて両親に相談してみますね。ただジョアンに関しては彼の意志を最優先します」
「もちろんだ」
私たちは立ち上がりました。
ロビーに行くとエスメラルダが駆け寄ってきました。
「ローゼリア帰る?」
「ええ、そろそろ帰る時間なの」
「アレクがいる」
「アレク?」
「ドレックもいる」
「ドレック?」
私が小首を傾げていると、エスメラルダは一心に絵を描いている男の子とのところに行きました。
肩を叩くと男の子がエスメラルダを見ました。
会話を交わすことなく、目を見つめ合ったまま数秒。
男の子が私の方に向き直りました。
それを見たエスメラルダが少し微笑んで、今度は一心にノートに文字を書き込んでいる男の子のところに行き、同じ行動をとりました。
その男の子も私に向き直りました。
私の横でエヴァン様が何かを言おうとしたのですが、サリバン博士が止めました。
「エヴァン君、凄いことが起きている」
サリバン博士はそう言うと、エヴァン様を促して一歩下がりました。
エスメラルダが二人と手をつないで、私の前に来て二人を紹介してくれました。
「アレク」
絵を描いていた方の男の子がニコッと笑いました。
「はじめまして、ローゼリアといいます」
アレクと紹介された男の子は、見事な紳士の礼を披露しました。
後ろでサリバン博士が息をのんだ音がします。
「ドレック」
今度は文字を書いていた方の男の子が一歩出て、握手を求めてきました。
「は・じ・め・ま・し・て?」
「はじめまして、ローゼリアです。よろしくねドレック」
ドレックは嬉しそうな顔でアレクを見ました。
アレクは恥ずかしそうな笑顔を浮かべます。
「ローゼリア帰る?」
エスメラルダが言いました。・
「ええ、今日はそろそろ帰るわね?三人はここに居るの?」
「いる」
「そう、また来てもいいかしら?」
三人はシンクロする様に一斉に頷きました。
「「「ばいばい」」」
「ええ、ばいばい、またね」
「「「またね」」」
エヴァン様が近寄ってきました。
「ロゼ?私は紹介してくれないの?」
「ああそうですね。すみません、なんだか胸が一杯になってしまって」
私は紅潮した顔のまま三人に言いました。
「エスメラルダ、そしてアレクとドレックです」
エヴァン様が笑顔を浮かべて奇麗なお辞儀をしました。
「私はローゼリアの婚約者だよ。エヴァンというんだ。よろしくね」
「「「エヴァン」」」
三人は真面目な顔で頷きました。
私の時とは違って少しはにかんだ様な表情を浮かべています。
「私もまた来ても良いかな?」
三人はまた一斉に頷きました。
サリバン博士が近寄ってきました。
「ありがとうローゼリア」
「え?こちらこそありがとうございました。っていうか私は何もしていませんよ?」
「うん。でも彼らのこの表情は凄いことだよ。本当にありがとう。絶対にまた来てほしい。すぐに通行証を申請しておくから。できたらすぐにドイル家に伺おう。それにエヴァン君、君にも礼を言うよ。君のその美貌はローゼリア嬢を落とすために授かったんだな。納得できた」
ドアの向こうでスタッフが待っています。
私たちは手を振りあって別れました。
それから私たちは街に行って、ララに頼まれたケーキを買ってから帰りました。