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 男は怖じ気づきながら前に出てきた。そんな彼の怯えた顔色を伺いながら、リオファーレは凛とした口調で話した。

「お前か?」

 リオファーレの質問に男は一言返事を返した。

「はい、わたしです……!」

 そう答えるとリオファーレは彼の服を両手で掴み、自分の方へとグッといきなり引き寄せた。鋭い眼光を目の前に男は一瞬、その場で怯んだ。怯む男に彼は話しかけた。

「――その話は本当か?」

「はい、本当です……! 彼が拷問部屋に連行されるところを見ました! そして中からは、彼の悲鳴が聞こえました!」

 男がそう話すとリオファーレは瞳を鋭くさせながら呟いた。

「ギレイタス様にこのことを報告しなければ……」

 リオファーレは吹雪の中でそう呟いたのだった。

 彼が掴んだ服を離すと、中から出てきた看守の男は命拾いしたと安堵の表情を見せた。そんな男にリオファーレは凛とした口調で尋ねた。

「彼を拷問にかけているのは誰だ?」

 リオファーレの質問に男は唇を震わせながら答えた。

「えっと、クロビス様とギュータス様とジャントゥーユ様と、ケイバー様になります……!」

 男は意を決してその事実をリオファーレに伝えたのだった。リオファーレは、下を向くと何やら考え事をして呟いた。

「なるほど、私だけ蚊帳の外と言うわけか……」

 彼はそう呟くとツンとした顔で鼻をフンと言わせた。オーチスの安否を気にかけていた看守達がリオファーレの下に駆け寄ると、なんとか彼を助けられないのかと嘆願したのだった。その一方、違う意見を持つ看守達はその必要はない! オーチスは我々の裏切り者だ! と決めつけると当然の報いだと騒ぎたった。雪吹雪が舞う薄暗い雲の下で男達の意見はそこで真っ二つにわかれた。捜索を中断して話し合っているうちに外の景色も徐々に暗闇へと染まっていく。リオファーレは騒ぎたつ看守達の前で一言告げた。

「私は今から真実を確かめに行く、各自はこのまま捜索を続けろ! 草の根を分けても見つけ出せ!」

 リオファーレは顔をキリッとさせると、凛とした口調で彼らに命令した。堂々とした立ち振舞いと高貴な雰囲気が漂う彼を前に一同は思わず息を呑み込んだ。そして、その美しい顔立ちと彼の存在感に全員圧倒されたのだった。リオファーレは中から出てきた男に声をかけると、どの部屋かを案内しろと言った。そして、彼はその男を引き連れるとタルタロスの中に入って行ったのだった。彼らがその場から立ち去ると、外に居る男達は吹き荒れる吹雪の中をタイマツを片手に捜索を続けた――。

 
 一方その頃ギュータスは、クロビスに言われたとおりに逃げた囚人の男が居た塔へと、ジャントゥーユと共に向かった。向かう途中で渡り廊下で年老いた看守のジュノーとすれ違った。ギュータスは、すれ違った際にジュノーに声をかけたのだった。しかし、ジュノーは聞いていないのか、そのまますれ違うとスタスタと何処かに消えて行ったのだった。感じの悪いジュノーに対してギュータスは軽く悪口を言った。

「ちっ、なんだあのジジイ……! こっちから声をかけてやったのにシカトしやがったぜ、くそ生意気なジジイだ!」

 ギュータスがそのことを言うと、ジャントゥーユはボソボソと話した。

「ジュノーは老いたせいで耳がほとんど聞こえない……だからアイツ周りに悪口言われても耳が遠いから聞こえない……アイツいつも皆に馬鹿にされている……」

 ジャントゥーユがそのことを話すと、隣でギュータスは馬鹿笑いをした。

「そーだった! そーだった! 確かあのジーサンは耳つんぼだったな!?」

 ギュータスはそう言ってバカ笑いをすると、うしろを向いておちゃらけながら彼に向かって小バカにしたのだった。そして、前を向いて再び歩くと不意にそこで気がついた。

「ん、ちょっとまてよ……? 何でジュノーが俺達が来た塔に行くんだ……? あいつは確か、東の塔に配属されてたよな……? 東の塔からめったに出てこないジーサンが、一体何しに西の塔に行くんだ……?」
 
 ギュータスはそこで不意に疑問に思い、首を軽くかしげると「まぁいいか」と言ってジャントゥーユと共に逃げた囚人が居た塔へと向かったのだった。2人は逃げた囚人がいた塔に向かうと、牢屋の中に入って手荒いかんじで紙切れを探した。ギュータスは手当たり次第に怪しい所を探し始めた。

「ちっ、紙切れはどこだ!? 全然見つからねぇ、一体何処に隠しやがった!」

 ギュータスはそう言うと牢屋の中にあった備品を壊して、愚痴をたれた。

「チェスターの野郎~! あの言葉がデマだったら、俺がアイツをなぶり殺してやる!」

 ギュータスは血に飢えた言葉を言うと、狂気に満ちた顔で笑いを浮かべた。殺気だつ彼の近くでは、ジャントゥーユが牢屋の前で何かをやっていた。今だ紙切れを探さない彼にギュータスは苛立った感じで声をかけた。

「おい、お前もサボってないで探せ!」

 ギュータスが声をかけると、ジャントゥーユは聞いてないかのように何処かをジッと見ていた。

「てめぇ、探せって言ってんのが聞こえねーのか!?」

 気の短い彼は牢屋の中でキレ気味になりながら怒鳴りつけた。イラつくギュータスとは打って変わって、ジャントゥーユはあくまでも冷静な様子で何かを調べていた。苛立った彼は牢屋の中から出てくるとジャントゥーユに再び声をかけた。

「おい、そこの醜い化物! さっきから人の話を聞いてるのか!? ボーッとしてないでお前も一緒に探せ!」

 ギュータスはそう言い放つとジャントゥーユの肩を右手で強く掴んだ。すると彼は後ろを黙って振り向くなり、ギュータスの腹部に鋭くとがった銀色のナイフをいきなり突きつけた。


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