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プロローグ

「なぁ、真琴!知ってるか?最近さ、このゲームにハマってるんだよ!」

そう言って病室に飛び込んでくるのは、僕の友人の御影。病気で学校にまともに行けていなかった僕の、唯一の友人だ。
いつものように、学校帰りにこっそりとゲームを忍ばせ、それを僕にいつも見せてくれている。

最近、ストーリー系のゲームにハマっているらしい。それを嬉しそうな表情で話す、御影の顔を見ると、僕まで嬉しくなる。

僕は、昔から体が弱く、病を患っていた。その為、ほとんどの時間を病院で過ごし、そしてただ病室から。窓の外を眺めているだけだった。

「御影、今日は来ないのかな……」

あの元気な声を聞くと、すぐ御影だった分かってしまうほど。毎日のように来てくれていた。
それが何より嬉しく、そして楽しい。
息苦しいこの病室での生活も。

いつかあると思ってた。

♢♢♢

そう思っていた日の夜。結局御影は来なかったが、多分。家の用事で来れないのだと思った。
明日はきっとくる。そう思いながら、病室のベットの上でそう思っていた。
もう夜なため、締め切られたカーテンを不意に見てしまう。

♢♢♢

その日の夜中。僕の病気は急変してしまった。余命宣告されていた日にちとは違い、僕の体は徐々に病に侵されてしまう。
集中治療室に運ばれる最中、両親の声が聞こえてくる。

「真琴!しっかりしなさい!!」
「真琴、まだ死んじゃダメだ!先生も言ったただろう?余命は三ヶ月だが、今の医療では治せるって!」

必死に呼びかけてくる、両親の声は徐々に聞こえなくなってくる。
視界が霞み、手に力が入らなくなってくる。

高校もまともに行けなかった僕は、このまま死んでしまうのだと。安易に想像できてしまう。子供じゃない。

(最後に、御影に会いたかったよ……)

御影に最後の最期で願ってしまう。

「真琴!犬を飼いたいんだろ!?」
「真琴!!」

(犬、そうだ。僕は、犬を飼いたい…。名前だって決めている…。だけど、もう———)

犬、犬。

御影が見せてくれた、犬。
御影がプレイしている、ゲームの中の犬。

(御影がやっている、あのゲームの犬。すごかったなぁ。いや、違うって言ってたっけ?確か、確か……)

瞼が重たくなってくる。もう、すぐ。
死んでしまうのだと。

集中治療室に行く前に、僕は———

———死んだ。

♢♢♢

真琴 17歳。
死去

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