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伝令

 光の筋の先頭。光り輝く光弾は急激に速度を落とし、光の軌跡は消えた。

 そして一度強く輝き、その光をユウトは手をかざして遮る。その正体にユウトは予想がついていた。

 光は急激にしぼみながらゆっくりと下降してくる。そしてぼんやりと赤く発光したラトムが姿を現した。

「ユウトさん!ユウトさんっ!」

 ラトムは甲高くユウトの名を呼びながら翼を広げて舞い降りる。四姉妹はラトムに対してまぶしい、と不満を叫んでいるがラトムは気にする様子もなくユウトだけを見ていた。

 ユウトは自然にラトムに向かって手を差し出す。その手の指先にラトムはふわりと降り立つとせわしなく飛び跳ねて、ユウトの手から腕、肩へと飛び移った。

 ラトムはユウトの肩に乗ると頭をユウトの首筋にすり寄せる。

「心配かけたなラトム。伝令に行ってくれてありがとうな」
「ほんとっス!心配したっス!でも良かったっスー!」

 ユウトの言葉にラトムはさらに高揚してユウトへじゃれついた。

 そんな全身で喜びを表現していたラトムがぴたりと動きを止める。何かを察知し、きょろきょろとあたりを見渡し始めた。

 そしてラトムが動きを止めて見つめる先でクロネコテン達が目を光らせている。クロネコテン達は頭を下げて前傾姿勢をとり、力をためたように膨らむお尻の先で尻尾がうねっていた。

「ラトムぅ、そのくらいにしときなよぉ」

 セブルの低い声が多くのクロネコテン達を代表するかのように響く。

「わわわ、わかったっス!」

 ラトムはしゅんと身体を縮こまらせながらセブルに答えた。

 そんな緊迫した空気にユウトは割って入る。

「それでラトム。さっそくだけどマレイはなんて言ってた?」

 ユウトは自身の手を目の前にもってくるとラトムはユウトの掲げた指先に肩から戻った。

 そして気持ちを整えるようにおほん、と一度声を鳴らす。

「それでは、報告するっス。オイラは街道に沿って移動してマレイを見つけたっス。マレイはまだ中央には到着していなかったっス。それでユウトさんが目覚めた事を伝え、マレイから伝言をもらってきたっス」
「そうか。それでマレイはなんて?」

 ユウトとラトムの会話は続く。その周りでこの場の全員が聞き耳を立てていた。

 ラトムはマレイから預かった言葉を語り始める。

「まずは、無事に目覚めてなによりだ。そしていち早く体調を戻せ。それでそののち、中央へ向け出発しろ。その際にハイゴブリンは全員同行するように。中央で開かれる審議会へ出席してもらうからそのつもりで。そして・・・」

 すらすらとラトムは言葉を続けた。

 ラトムが語り続ける中、レナは隣にいるリナへ尋ねる。

「えっと、ラトムはなんて言ってるの?鳴いているようにしか聞こえなくてわからない」
「そうだったわね。訳すわ。まず・・・」

 リナはラトムの語った内容をレナとメルに端的に訳して説明し始めた。

 ラトムの語るマレイからの連絡事項は事務的な内容が色濃くなっていく。ほとんどの用意はすでにヨーレンに指示してあり準備を進めさせているだろうとの事だった。

 一通り言い終えたのか、ラトムはほっと息をつく。そんなラトムにユウトは声を掛けた。

「ご苦労様だよラトム。とても助かった」
「はいっス・・・あ、あと最後に」

 ラトムは何か考えるようにユウトへの視線を外すして斜め下を向く。

「最後に?」

 ユウトが聞き返してようやく視線を上げて語り始めた。

「今後、無茶のしどころはよくよく考えることだ。もうロードはいないのだから・・・とのことっス」
「・・・ああ、わかった」

 ユウトはマレイの最後の言伝が重くのしかかるような気がする。セブルはうつむいた。

 クロネコテン達を可能な限り全力で助けようとしたことにユウトは後悔しない。しかしあの時、より多く、一つでもたくさんの命を救いあげたいという思いから躊躇のない行動を起こししたのは確かだった。

 目の前の命以外が目に入っていなかった、とユウトは自覚し意識が遠のく。

「ユウトさんっ!マレイからの伝言は以上っス。オイラはこれからヨーレンのところへ言って同じ内容を伝えへくるっス」

 ラトムの声にユウトは意識を戻された。

「うん。わかった。ついでにヨーレンへ、オレは順調に回復してるって伝えてくれ」

 ユウトは目の前のラトムしっかりと見て話す。

「はいッ!了解っス!それでは行ってくるっスー!」

 ラトムは元気よく返事を返し、翼を広げるとほのかに身体を発光させふわりと飛び上がる。そしてそのままある程度上昇すると光が強まり赤く輝いた。

 次の瞬間、夜空に光の筋が走る。大工房の方向へ向けて光の軌跡が一瞬現れて消えた。

 ラトムを見送り、ユウトはふっと息を吐く。ユウトは慎重にその場で立ち上がった。

 全身の疲労感と筋力の衰えをユウトは改めて感じる。しかし、久々の食事で得た熱を合図に身体が内側から稼働し始めた感覚もあった。

 ユウトはその場に集まる全員を見渡す。

「みんな、オレの無茶に付き合ってくれてありがとう。ずいぶんと遅れてしまったけど、ようやく動き出せそうだ」

 ユウトの声に向けて全員が注目した。

「これから何が起こるのか予測はできない。でもあともう少しだ。だから後先考えないのはこれっきりにする。オレにもう一度、力を貸してくれ」

 ユウトは堂々と気持ちを言葉にする。今度は恥ずかしがる様子を見せず、集まる視線を受け止めた。

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