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8・探偵助手(終)

 ニュートンとアサキは、バラックのいた安ホテルを後にした。
「ねえ、ニュートンさん。これでバラックさん……いえ、リントンさんは人間に戻れるかな」
「私は、魔法の専門家ではないが、たぶん大丈夫だと思うよ。時間は少しかかると思うけど金属の鱗は剥がれ落ちるさ。手紙を読んで昔の自分を思い出すごとにね」
「よかった……私、たまにバラックさんに会いにいってみる!」
 アサキの言葉にニュートンが笑う。
「……でも、結局、私自身のことはわからなかったなぁ」
「そんなことはないよ」
 ニュートンが否定した。
「え? ほんと? 何か推理できた」
「ああ、君がとても|良《い》い娘だということ。他人のために一生懸命になにかして上げられる人だ」
 ニュートンの言葉が嬉しかったのかアサキの頬が赤くなる。
「そして優しい|魔《・》|法《・》|使《・》|い《・》だという事がわかったからね」
「え? わたしは、魔法使いじゃないよ。そもそも魔法なんて使えないし」
「いや、君は、素晴らしい“魔法使い”だよ、だってリントンさんを人に戻す手助けをしたろ?」
「あれは魔法なんかじゃないよ」
「いや、あれは魔法さ。とても素敵なね」
 そう言うとニュートンは、アサキに笑ってみせた。
「あ、ありがとう。ニュートンさん」
 照れくさそうに俯くアサキ。

「ところで、君に聞いておきたい事があるんだ。僕は、まだ君について調査は続けるつもりだが2、3日で解決することでもなさそうだ」
「そうだよね……まだまともな手がかりもないし」
「君はまだ、自分の家も分かっていない。つまり“宿無し”ってことだ。聞きたいんだけど、問題が解決すつまでどこで寝泊まりするあてがあるのかい?」
「そういえば……ない」
「あのホテルも安そうだったが、君は、ほぼ文無しだしね」
「どこかで野宿でもする」
「この街の夜は、かなり寒いよ」
「そ、そうなの?」
「これは提案なんだが、解決するまで私の事務所で寝泊まりしてはどうかな」
「え?」
「実は、今、いくつかの大きな事件を抱えていてね」
 ニュートンは腕を組みながら険しい顔をしてみせる。
「いろいろと忙しいんだよ。だから助手として私を手助けしてくれないかい?」
「私が探偵の助手に?」
「賃金は大して渡せないけど、足りない分は私の事務所に下宿という事で補わしてもらう」
「でも、私なんかを助手にして大丈夫なんですか?」
「今回の君の推理や思いつきは、中々だったよ。探偵に向いているかもと思うんだ。それにさっきも言ったけど、僕は、今、大きな事件を抱えていてね。君の問題もすぐには解決してあげれそうもない。君の事について調査を事件の合間にするしかないしね。つまり、少し時間がかかってしまう。どうだろう、僕の提案は?」
 アサキは少し考えた。
「食事付きだよ」
「うん。いいよ。私、ニュートンさんの助手になる。探偵ってなんか面白そうだし」
「おいおい、事件を解決するのは意外と大変なんだよ」
「大丈夫よ。ニュートンさんは、良い探偵さんだし、これから良い助手も付くんだしね」
 アサキは、そう笑顔で言った。
「決まりだな。では改めて宜しく、探偵助手」
 ニュートンは、そう言うと右手の手袋を外し、差し出した。
「宜しく。ニュートンさん」
 アサキは、ニュートンの右手を握り握手を交わした。
 その手は、思っていたより暖かかった。


 ここは霧の街。
 全てのモノが霧で覆われている。
 家も記憶も
 美しい物も醜い物も
 そして探偵はそこから真実を掘り起こす。

 終わり

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