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 でも、その軽い思考は翌日、図書館で見かけた写真で吹っ飛んだ。
「えーとねぇ。……あ! これこれ! この方よ」
 ビスクがお姉ちゃんに見せてもらった、という本は運よく存在した。
 それをデスクへ持っていって、座って三人で見た。真ん中に座ったビスクがページを繰り、そして一枚の写真を指さした。
 サシャはやはり眉を寄せてしまう。写真ですら感じた。
 なんだろう、これ。知っているような、感じ?
 写真は何人かの人々が写っていた。確かに先週末に見かけた馬車でのひとたちだ。ロイヒテン様とやらと、その妹様。
 でも数年前のもののようだ。ロイヒテン様も見かけたときより若く、少年に近く見えたし、妹様はそれはもう、幼い少女にしか見えなかった。
 ほかには現国王陛下と王妃様も載っていた。家族写真、のようなものだろう。
「本当にイケメンよねぇ。王子様になるために生まれてきたみたい」
 ビスクがほうっと息をつく。ストルも「格好良い方ね」と言った。こちらはビスクほど熱情的ではなかったが。
 でもビスクはそれには構わず、続けた。
「お姉ちゃんに聞いたんだけどね、オフショット写真集なんかがあるんだって! それにはねぇ」
 そのあとビスクがきらきら輝く眼で言ったこと。
 それがすべての答えだった。
「プライベートのお写真も載ってるんですって! ロイヒテン様はいつも髪をあげてらっしゃるでしょう。それをおろした姿とかが! きゃーっ、見たいわぁ」
 髪を、おろした姿?
 想像してみて、サシャは思わず、あっと声を上げるところだった。
 その想像で気付いてしまったのだ。
 ロイヒテン様。彼がオールバックにしていた髪をおろした想像、それは身近にいる『あのひと』に非常に似ていたのだから。
 そしてそれを意識してしまえば、違和感のピースは次々に当てはまっていった。
 黒い髪。
 琥珀色の瞳。
 その顔立ち。
 すべてが。
 ……バーやカフェで会う、『シャイ』にそっくりなのだ。
 まさか、同一、人物?
 思ったものの、サシャはすぐにその思考を否定した。
 そんなはずないわ。名前だってまったく違うし、王族の方がバーやカフェにいるはずないじゃない。
 当たり前のことを考える。でもどきんどきんと胸は高鳴っていた。
 万一そんなことがあるなら。起こるはずはないけれど。
 もしかしたら親せきとか……血族なのかもしれない。それでよく似た従兄弟とかそういう関係なのかもしれない。
 それだったらありうることだろう。少なくとも本人そのままよりは。サシャはそう思った。
 そして複雑な思いを抱く。
 本人であろうはずがない。でも血族であったら高貴な方のはずだ。もしこの方が、なにかしらシャイとご縁のある方であれば、シャイだって相応のいい家のひとのはずなのだ。
「その写真集は市販されてるものじゃないみたいだし、勿論図書館にあるようなものじゃないから簡単には見られなくて、残念、……サシャ?」
 ぺらぺらと喋っていたビスクが、ふと言葉を切った。サシャがおしゃべりに乗ることなく、写真をじっと見て黙っていたのだからだろう。自分で見たいと言っておきながら、この反応だったものだから。
「見とれちゃったんでしょう。あまりにカッコいいから」
 ストルが言った。フォローしてくれるように。それにサシャは心からほっとして言った。
「そうね。ああ、直接お顔を拝見できてよかったわ」
 ビスクの興味が逸れるようなことを言っておく。ビスクはそのまま乗ってくれた。
「もーっ狡いよー! そんなこと、私も誘ってくれたらよかったのに!」
「無理よ。偶然行き当たったんだから」
「それでも狡いーっ!」
 わーっと声を上げたビスクは、寄ってきた司書に「図書館ではお静かに願います」と注意されてしまい、「す、すみません……」と縮こまったのだった。

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