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4.警護団が国の所属になります!

 イアサント宰相の取り調べを王城の警備部隊に任せつつ、テオドールは警護団を国の所属とするための稟議書を作成していた。

 警護団を国の所属とすることはテオドールの願いでもある。
 魔物退治は危険と隣り合わせで、いつ死者が出てもおかしくない。
 国や町を守って亡くなった者たちに国王から名誉を与えないというのはおかしなことだと思っているし、魔物からの攻撃でレーヌのように大けがを負ってしまった時に、最高の治療を受けさせることは国として当然のことだと思う。
 現状は各町で市民や貴族からの寄付金で賄っているが、国の所属となった場合、今まで以上に手厚く活動を支援できるはずなのだ。
 
 テオドールはそう思い、何度も稟議書を作り、その度にイアサント宰相と宰相に近い貴族達は支援金が出せない、とか、人員をさけない、など何かしら文句をつけて反対をしていた。
 イアサント宰相を捕縛した今なら、反対意見はそこまで大きくないだろう、と思っている。

 2日後に会議が開かれ、テオドールは警護団を国の所属とするように諮る。
 今回の反対意見のほとんどが活動資金についてなのだが、財務と確認し、今の税収入で十分に賄えると連絡があり、細かな明細を書いて届けてくれた。
 その書類を見せると反対意見はなくなり、国の所属となることが決定された。

 警護団が国の所属となったことをレーヌにも報告するために、テオドールの執務室に呼んでもらう。
 到着を待っている間にドアの近くにいるリアムが話しかけてくる。
「殿下、恐れながら」
「許す」
 その言葉に机の前に移動すると、
「それでは。レーヌ嬢とのことはどうなっているのですか?」
 レーヌが目覚めたあの日、侍女と共に外に出されてしまったので、リュカの正体を伝えたのか、偽婚約者計画がどうなったか、一切知らされていない。
 テオドールは真正面からリアムを見ると、
「プロポーズはした」
 顔を赤くして話すテオドールを優しく見ていたが、
「だが、返事はまだもらっていない」
 その言葉に、えっ、と聞き返す。
「彼女はリュカに心を寄せているのであって、僕ではない」
 噛みしめるように言うと、
「だから、これから、僕のことを好きになってもらわないといけないんだ」
 と寂しく微笑んでいる。
「リュカのことを伝えたのですね」
 テオドールは頷くと、
「リアム、これから彼女との仲が深まるように手伝ってくれないだろうか?」
 決意を秘めた目でリアムを見つめるのでその視線を受け、
「なんでしょうか?」
 と尋ねると、テオドールは少し俯き、
「1つは、前のように彼女と朝食を一緒にしたいこと。2つ目は彼女と城外でデートをしたいと思っているんだけど……」
 と上目遣いで告げる。
「朝食の件は、レーヌ嬢の準備が整ってから部屋に行くので、と伝えてみてはどうでしょうか?」
 テオドールは大人しく頷く。
「2つ目の城外デートですが、あらかじめどこに行きたいか教えてください。その上で騎士達を配備したりしますので、今すぐではなく、時間をください」
「わかった」
 テオドールは思っていることを伝えることができたのか、ほっとしたような表情をしていた。
 
 話しが終わった後に、ドアをノックする音が聞こえ、リアムが誰何すると、レーヌだと伝えられてからドアを開ける。
 レーヌは部屋に入ると、軽く膝を折り、頭を下げた。
「よく来てくれた。こちらに」
 テオドールが声を掛けると、頭を上げ、リアムの案内で部屋の中央に置いてあるソファーに座ると、真向かいにテオドールが座り、その後ろにリアムが立つ。
 話しを始める前にテオドールはレーヌの顔色を見る。
 目覚めてから5日経ち、顔色も戻り、やつれていた頬も少しふっくらとしてきたような感じを受ける。
 テオドールはその姿に安心すると優しく微笑み、
「体調はどうだろうか?」
 と問いかける。レーヌも笑顔で
「ご心配頂きありがとうございます。かなりよくなりました」
 と伝える。
「よかった。今日呼び出したのは警護団についてです」
 レーヌはその言葉に背筋を伸ばす。
「午前中の会議に掛けまして、無事に承認されました」
 テオドールが笑顔で伝えると、レーヌは嬉しさで涙が出てくるのが分かった。
「これから、詳細を詰めていく段階になりますが、まずはユルバンの警護団から国の所属となり、運営にあたっての問題点を洗い出します。問題点が解決されれば他の町の警護団も順に国の所属となります」
 レーヌは涙をぬぐいながら静かに聞いている。
「これについては、その、レーヌ嬢も手伝って頂きたいと思っております」
 テオドールの言葉に思わず怪訝な声が出る。
「私ですか?」
 テオドールは頷くと、
「そんなに難しいことではなく、ユルバンの警護団と王城側の人間の間に立って意見の調整をお願いしたいのです。レーヌ嬢は警護団に長らく所属していましたから、どういった点ならゆずれるのか、ボーダーラインを決めてほしいのです」
 レーヌはしばらく考えこんだあとにテオドールの目を見て、
「わかりました。その役目引き受けさせて頂きます」
 テオドールはほっとしたような表情を浮かべ、
「引き受けて頂きありがとうございます。また面倒なことに巻き込みますがよろしくお願いします」
「はい」
 レーヌは晴れやかな笑顔で頷いた。

「それと、お願いがありまして……」
 テオドールが遠慮がちに切り出す。レーヌは首を傾げて、
「なんでしょう?」
 と尋ねる。テオドールは俯き、少し耳が赤くなっているのが見える。
 決意を固め顔を上げると、
「また、一緒に朝食をしてもいいでしょうか?」
 レーヌは顔が赤くなるのを感じる。
「いえ、この前のように無茶なことはしません。朝の準備が整った後に呼んでいただければ……」
「ああ、そうなんですね、ええ、わかりました。大丈夫です」
 レーヌはしどろもどろになりながら返事をする。
 テオドールは満面の笑みを浮かべて、
「ありがとうございます!明日からでもいいですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
 テオドールの笑顔がさらに輝く。
「あと、それともう一つお願いがありまして……」
 先ほどの笑顔が嘘のように真面目な顔になり、
「一度、僕とデートをしていただけませんか?」
 とレーヌの顔を見つめてお願いする。レーヌもまた、テオドールを見つめて、
「はい。宜しくお願いいたします」
 とふわっと笑いかけた。

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