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2.治療会の日です

 衝撃的な話を聞かされた定例会から4日後。

 危惧していた、魔物が現れることもなく、無事に治療会の日を迎えることができた。

 レーヌは前日は夕食を取らずに早めに就寝したため、いつも以上に体に魔力がみなぎっている感じがしている。
 
 顔を洗い、朝食を済ませたあとは警護団の洋服に着替える。
 警護団に関わることはすべて警護団の洋服で出席することが義務付けられているからだ。

 髪はハーフアップにして、左手首にリュカからもらったブレスレットを付けたが、なんだか人に見られたくないので袖の内側に隠すように着けた。
 外出の準備が整ったところで馬車に乗り込み、隣のイネスの屋敷へと向かった。

 馬車で走れば5分程のところにイネスの屋敷がある。
 いつ来ても、花が咲き誇り、とても美しい庭園になっている。
 その庭園を横目に見ながら、屋敷の玄関へと向かうと、すでにイネスが出てきていた。

 馬車はゆっくりと玄関に近づき、完全に止まったところでドアが開き、イネス専属の侍女にエスコートされながらイネスが馬車に乗り込む。

「ごきげんよう、レーヌ」
 馬車のドアが閉まり、静かに動き出したところでイネスが挨拶をした。
「ごぎげんよう、イネス。今日はいい天気ですね」
「ええ、この天気ですと、たくさんの人が来てくれますわね」
 イネスは嬉しそうに微笑んでいる。

 レーヌは魔物退治で魔法を使うことに抵抗を感じている。できれば魔物退治なんてしたくないと思っている。
 自分の魔法で平和を維持する、ということは、魔物の命を奪うことだ。
 軽々と命を奪うことに抵抗を感じ、早く魔物が出ない、世の中になってほしいと願っている。
 イネスもまた、同じように考えていることを前に聞いたことがある。
 なので、毎月の治療会の日は心置きなく魔法が使えることが嬉しいのだ。

 町の中心部近くの屋敷に住んでいるので、治療会の会場となる町の真ん中にある教会まではあっという間に到着する。

 少し離れたところにある、馬車置き場で2人は降りると、一緒に教会まで歩いて行く。
 もう、すでに何人か並んでいて、警護団の総リーダーのリアムが教会の入口近くで受付を始めていた。

 並んでいる人達に挨拶をしながら教会の中に入り、受け持ちについての確認を警護団魔法部隊のリーダーのアルシェと確認する。
 
 魔力は人によっても違うが、1日治療魔法をかけ続けられるだけの魔力がある人はいない。
 なので、8人いる魔法部隊を半分にわけて1時間交代で対応していく。
 
 レーヌは最初の1時間を担当し、休憩している間はイネスが担当となった。

 治療会の開始時間は11時からとなる。
 それまでは30分程時間があるので、魔法部隊女子チーム3人で集まり、たわいもない話しで盛り上がっていた。
 話していると時間を忘れてしまい、アルシェに声を掛けられるまでずっと話していた。
 リディも最初の1時間を担当するとのことで、イネスが教会の奥にある、控室に向かったところで、治療会のスタートとなる。

 レーヌが最初に担当した人は、のどがイガイガする、と言っている40代の女性だった。
 目の前に座ってもらい、受付で書いた紙を受け取る。
 その紙には名前と大まかな年齢と気になる症状が書いてある。
 レーヌはその紙を見ながら、
「のど以外に不調なところはありますか?」
「う~ん。そうね……ちょっと鼻も違和感があるのよね」
「わかりました。それでは、最初にのどに治療魔法をかけていきますね。治療魔法は初めてですか?」
「はい」
「わかりました。治療魔法をかけている箇所は少し温かな感覚を感じると思います。その感覚が苦手な方もいますので、その時は遠慮なく、声を掛けてください」
「はい。よろしくお願いします」
 女性の了承が得られたので、のどに触れるか触れないかという場所にレーヌは左手をあてる。
 治療する人に対しては最初から魔力全開ではなく、顔の表情を見て、少しずつ出力を上げていく。
 2分もしていると、魔力がきれいに流れる感覚が手を通して伝わってきた。
「はい、治療が終わりました。ご気分はいかがでしょうか?」
 レーヌは女性に尋ねると、女性は明るい表情になり、
「ええ!大丈夫です!いがいがした感じと鼻の違和感がなくなりました!」
「よかったです。また来月もここで治療会を開きますので、体調が悪かったらきてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
 女性は立ち上がり、頭を下げると、嬉しそうに帰っていった。
 その後ろ姿を見送ると、受付で記入した紙に治療内容と、治療した人の名前を書いて、騎士部隊の団員に渡す。
 それを合図にして、教会入口で座って待っている人がまたレーヌの前にくる。

 次に来たのは50代の大工をしている男性で、常連の人だった。
 症状としては腰の痛さなのだが、今日は腰ではない、と言った。
「なんだか足が痛くてな。歩けないほど右足の裏が痛いんだ」
 と話した。
「では、さっそく治療していきますね」
「頼んだ」
 後ろにいる警護団員に椅子を1客用意してもらい、その上に足をのせてもらい、治療を開始した。
 ただ、反応が返ってくるまでに時間がかかる。
 いつもなら、3分もあてれば、魔力がきれいに流れることを感じるのだが、10分程してやっとという感じだった。
「医療院に行ったほうがいいかもしれないですね……」
 レーヌはためらいながらも口に出した。
「そんなに悪い感じか?」
「はっきりと言い切れないのですが……」
「そうか……」
 男性は黙ってしまう。
 警護団員の中には医療を専門としている人がいないため、重い病気が疑われる時は医療院を進めるが治療費は安い金額ではない。
「わかった。とりあえず、医療院については考えてみるよ」
 男性はきっぱりと言った。
「今の治療だけでもだいぶ足が軽くなったからな。いつもありがとうな」
 とお礼をいうと、男性は帰って行った。
 釈然としないまま、次の希望者の治療にあたり始めた。

 治療会は団員の体調を考えて13時には終えてしまう。
 その後は、総リーダーのリアムに今日受け持った人で気になる人を引き継ぐことにしているが、レーヌは男性が気になっていたので、伝えておいた。
 リアムは、了解した、と言い、レーヌが担当した治療を受けた人の紙の束からその男性の分を抜き出した。
 
 引継ぎが終わったあとは、慰労会についての出欠を確認した。
 今のところ、団員の半分ほどは国の考えを知りたいと言って参加を希望しているそうだ。
「リディ」
 リアムはリディを呼ぶと、
「慰労会のドレスだが、この日に指定の場所に行ってほしい」
 と紙を渡した。
「今回は時間がないから、ドレスは既製品のサイズを調整してということになった」
 リディはこくんと頷いて、
「ありがとうございます」
 と伝えた。
 レーヌはリディが受け取った紙を見せてもらい、店を確認したところ、ドレスも宝飾品も王家御用達、と言われているところだった。
(ここまで徹底的にやるのか)
 レーヌは不思議に思いながら、リディに紙を返した。
 リディはただ、目を輝かせていた。

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