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前進

目でとらえることもできない高度から振り落とされる光線をヨーレンの操る巨石は受け止め続けている。ヨーレンは巨石の向きを変え、角度を変えて光線を受け止める場所を調節し耐え続けることしかできないでいた。

 光線による攻撃が始まって黒柱の勢いは衰えたものの、なくなってしまったわけではない。ヨーレンが光線にかかりきりになってしまったため、黒柱に対する防衛力は格段に落ちていた。その穴を埋めるようにその他の全員が奮闘しているがヨーレンが抜けてしまった穴は大きく徐々に押され始めている。その光景を調査騎士団とゴブリン殲滅ギルドが見ていた。

 一連の護衛部隊の動きを見てクロノワとレイノスは遠く星の大釜の外縁で待機しているお互いを見る。そして示し合わせたかのように二人は馬上から剣を振り上げた。

 クロノワは叫ぶ。

「これより前進し、大魔獣の脚の相手を行う!全体ッ進めー!」

 レイノスも叫んだ。

「中央への黒い手による攻撃を我々で分散させるぞ!ついてこいッ!」

 二人は叫び、隊員の視線を集めると振り上げた剣を大釜の底に向け、振り落とす。両翼に陣取っていた両部隊は前進を開始し、本格的な大魔獣との戦闘に突入した。

 低く地を這うようにして回り込んで迫る黒柱がある。レナは正面にとらえると数度の突きで黒柱の勢いを弱らせながら進行方向を変えた。そしてすれ違いながら魔槍による斬撃を黒柱の側面へと何度も浴びせかけ、黒柱は黒い毛の束となり地に伏す。残った根元が引いていくがその途中でさらに力をなくして黒毛へと変わった。それを確認してレナはふぅと一息ついてあたりを見渡す。

「騎士団とギルドが前進してくれてる。これなら何とか・・・」

 レナはそうつぶやくと大釜の底で空に向かって大口を開ける大魔獣を見た。

 レナの後方で破裂音が響く。その音は上方に構えたリナの杖から発せられてた。破裂音と共に瞬いた光で打ち出された鉱石の欠片は弓なりに落ちてくる黒柱の中腹に命中する。そこでさらに光を瞬かせると黒柱は千切れ落ちた。

「レナ、できそう?」

 落ちていく黒毛を見上げながらリナは尋ねる。

「うん、やるよ」

 レナは目線を逸らすことなく短く答え、ぶつぶつと言葉を紡ぎ始めた。握る魔槍の穂先が輝き開く。脚を広げ、腰を軽く落として投擲のための構えを取った。



 護衛部隊の最前線にはディゼル、カーレン、ノエン、デイタスが揃っている。ディゼルは魔術盾で迫りくる黒柱の勢いを弱めることに専念し、デイタスは魔術剣で黒柱を切り落とすことに専念していた。魔導によって空を舞う短剣を使いこなすカーレンと二刀流を使いこなすノエンは攻守を使い分けて柔軟に対応し、ディゼルとデイタスの支援を行っている。それぞれが全力を尽くす中、ディゼルが全体を見渡しカーレンに声を掛けた。

「カーレン!」
「はい、副隊長!」
「ヨーレン殿の様子が芳しくない。支援に向かってくれ。カーレンなら力になれるはずだ」

 周囲に気を張っていたカーレンはディゼルの指示を聞いて驚くようにディゼルの方を見る。

「でもっ、副隊長。ここの守りは・・・」

 ディゼルは魔術盾を瞬間的に発動させて黒柱を弾き飛ばすと振り返り、兜の面当を上げカーレンを見た。

「騎士団とギルドが前に出てくれた。ここの圧力も弱まる。それにヨーレン殿の手助けができるのは君しかいない。向かってくれ」

 カーレンは瞬間うつむく、しかしすぐに顔を上げると、ディゼルに向けて頷いて返す。

「はい!支援に向かいます」

 そう言ってカーレンは星の大釜の坂を駆けて昇りだした。

 ディゼルは静かにカーレンの背中を見送り、前方に向き直る。

「みんな、少し苦しくなると思うが、どうか踏ん張ってくれ!」

 そう言ってあげた面当を戻した。

「おう!任せろ。工房所属なれど元は騎士、その矜持に賭けてここを守る!はっはっは」

 デイタスが愉快そうに叫び、動きの弱まった黒柱を魔術大剣で切り落とす。その後ろで細い黒柱が伸びてしなり、ディゼルの背後に向かった。

 そこへノエンが屈強な体躯に似合わぬ素早さでディゼルと背中合わせの位置に滑り込む。魔術短剣を展開させ黒柱を受け止めた。すかさずもう片方の手に持った剣によって切り落とす。

「ようやくこうしてディゼル様と共に戦える機会を得たのです。必ずこの役目を果たして見せます」

 ノエンは背中わせのディゼルへ兜越しにそう語り掛け、ディゼルは「ああ、期待している」
と返した。

 そしてノエンはディゼルから離れ、黒柱が向かってくる別の位置へと駆けていく。三人は一定の距離を保ちながら離れすぎず息を合わせ、時には連携しながら黒柱をさばいた。



「ユウト、ソロソロダ。準備ガ整ウ」
「わかった。すぐに向かう」

 脳内で伝えられるヴァルの声に答えながらユウトは続けざまに二本の黒柱を光魔剣で焼き切る。大魔剣の使用を控えたために光魔剣の間合いで戦い続けなければならなかった。鎧の各所にはよけきれなかった傷が入り、深紅のマントは端から千切れぼろぼろになっている。それでもユウト自身に負傷はなかった。それはラトムの目による危険察知と指示。そしてセブルの防御によって致命的な損傷を受けずに済んでいたためだった。

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