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第6話(4)一難去って……

                  ♢

「お、おい、アリン、お前……魔族だったのか」

「うん、ちなみに背中には……」

 アリンがローブを脱ぎ捨てると、そこにはトレイルと同じような翼が生えていた。

「お、俺たちを騙していやがったのか⁉」

「魔王に用事があるって言っただけでしょ……私の簡単な罠にも気が付かないで……」

 アリンが片手を広げ、指を適当に動かすと、アザマたちが悲鳴を上げる。

「痛っ! て、てめえ、何をしやがった⁉」

「腕や脚を中心に細い糸を巻き付けた。高い魔力を込めているから簡単には切れないよ」

「ぐっ……」

「普通は少し引っ張った時点で手足が千切れるものなんだけど……流石は転生者のパーティー、なかなかどうしてしぶといね―――!」

 アリンが握り拳を作り、グッと引っ張る。エレッツオたちが大きな悲鳴を上げる。

「ぐはっ!」

「ぎゃあ!」

「ひいぃ!」

「うん、腕や脚や指が折れたね……」

 アリンは淡々と告げる。仲間たちの悲鳴を聞き、アザマは意を決した表情で提案する。

「や、止めろ! アリン! わ、分かった! 俺たちは魔王討伐から手を引く!」

「! ふ~ん……まあ短い間だったけど、一緒に旅した仲だしね……」

 アリンはわずかばかり力を緩める。アザマがやや安堵した表情を浮かべる。

「―――なんて言うとでも思った?」

「⁉」

「あの御方からの命令は、転生者は全て始末せよとのこと、それに従うほかない」

「ぐっ……」

「ははっ、まさか本気で解放するのかと思ったぞ」

 トレイルが笑って声をかける。アリンが首を静かに振る。

「冗談……せめてもの情け……直接手は下さないであげる……おいで、ゴーレム……」

 アリンとトレイルの背後から四体の巨大なゴーレムが現れ、ゆっくりとアザマたちに近づく。尚も動けない状態であるアザマたちの顔が恐怖に歪む。アリンが感情を一切感じさせない声で告げる。

「さようなら、結構楽しかったよ……」

「! うわあああ!」

 ゴーレムの大きな手や足の攻撃によって、アザマたちは見るも無残な形に成り果てる。

「……これで終わりか、あっけないものだな」

                  ♢

「待て!」

 俺はトレイルたちに声を掛ける。トレイルは心底興味の無さそうな表情で答える。

「ああ、そう言えば、まだ貴様らが残っていたか……」

「スティラ! 彼らの回復を!」

 俺はスティラにアザマたちの回復を指示する。スティラは彼らの近くに急いで駆け寄るが、悲しそうに首を左右に振る。

「ショー様、残念ながらこの方々はもう……」

「くっ……」

 唇を噛み締める俺をトレイルが笑う。

「この勇者だったもの達よりも力が劣る貴様に何が出来る?」

「こちらはゴーレム四体を含めて六人。そちらはエルフを加えても二人だけど?」

 アリンが不思議そうに首を捻る。青みがかった短髪がわずかに揺れる。

「……頭数ならちょうど一緒よ」

「メラヌさん!」

 俺の後ろにメラヌたち四人が駆けつける。トレイルが驚く。

「馬鹿な……メガオーク二体を片付けたのか?」

「巨体の持つ力には圧倒されたが、ルドンナ殿の召喚獣のお陰でござる」

「要は戦い方ってやつよ。アンタが時間を作ってくれたお陰だけど」

「メラヌが両眼を潰してくれたから、楽に立ち回れたよ」

「貴女の戦闘センスの賜物よ、狼娘ちゃん」

 モンドとルドンナ、アパネとメラヌが互いを讃え合う。

「ち、忌々しい奴らだ!」

「落ち着いて、トレイル、ここで始末すれば良い」

「それもそうだな! かかれ、ゴーレムども!」

 ゴーレム四体が俺たちに向かってくる。巨体が群れをなして襲ってくるとそれだけでかなりの威圧感だ。しかし、時間を長引かせているわけにはいかない。もうすぐ魔王が復活してしまうのだ。俺は自分でも驚く決断を下す。

「すみませんが、一人一体任せます! 魔族二人は私が! スティラは私の援護を!」

「わ、分かりました」

「オッケー!」

「承知!」

「いや、一人で一体って……冗談!」

「ご褒美期待しちゃうわよ、勇者さん!」

 全員の返答を聞き終わる前に、俺はスティラを連れて、ゴーレムたちの足下をすり抜けることに成功した。少しは俺の身体能力も成長しているのだろうか。俺はその勢いに乗ったままトレイルに斬り掛かる。

「喰らえ!」

「ちぃ!」

 俺の剣はトレイルの振るった剣に弾き飛ばされる。しかし、俺は諦めない、すぐさま構え直し、再び斬りかかる。トレイルが後ろに飛んでそれを躱した……かと思われたが、カンという音が響く。俺の剣が奴の鎧を掠めたのだ。イケる。数日前の実力差は感じない。不思議だ、火事場のなんとかという奴であろうか。トレイルが舌打ちする。

「アリン、援護しろ!」

「ふん、仕方が無い―――⁉」

「そうはさせません!」

 スティラがアリンと俺の間に立つ。

「お前、糸を杖に巻きつけたのか⁉」

「この杖にもそれなりの魔力が込められています。そう簡単には折れないはず……!」

「ぐっ……」

 厄介なアリンはスティラが相手をしている。俺がトレイルをなんとかすれば―――。

「勝機がある、と思っていないか?」

「何⁉」

「奴らを見てみろ」

「な⁉」

 トレイルの言葉を受け、視線を向けると、ゴーレムたちに苦戦を強いられる四人の姿が見える。やはり確実に各個撃破を狙うべきだったか……俺が苦々しい表情を浮かべるのを見て、トレイルが高らかに笑う。

「はははっ! ゴーレム共には、あの御方のお力で我々魔王軍最強を誇る『四傑』の力を宿してある。完璧にという訳ではないが、その強さはそこらのゴーレムの比ではない……貴様らには万に一つも勝ち目は無いぞ! そして貴様も僕の剣の前に屈する!」

「くっ……」

 俺はトレイルの反撃に防戦一方になる。なんとか攻撃を受けるが、このままではジリ貧だ、どうすればいい……? そこで俺は視界の端にあるものをとらえ、これだ!と思う。

「よそ見をするとは余裕だな!」

「『森々(もりもり)!』」

「なんだと⁉」

 俺は自分や皆の周辺に大きな森を生えさせる。ここに至るまで、通った広大な森の一部を模したものだ。思ったより上手く行ったので、自分でも驚いた。俺は皆に声を掛ける。

「地形を上手く使って下さい!」

「これなら体格差も気にならないよ! 『狼爪斬・四連』!」

「上出来じゃない! 来なさいシルフィちゃん! 吹き飛ばせ!」

「相手が戸惑っている内に! 奥義『爆風乱舞』!」

「隙を突く! 『退魔弾』!」

「‼」

 各自の攻撃がゴーレムを打ち砕くことに成功した。アリンが唖然とした顔を見せる。

「ば、馬鹿な……」

「今です! 『裁きの雷』!」

「しまっ―――⁉」

 スティラが杖を手放すと同時に、先程、賢者レイトゥが使っていた雷魔法を繰り出す。威力は本家ほどとはいかなかったが、直撃を喰らったアリンは気を失って倒れ込む。

「アリン! ⁉」

 俺がトレイルの隙を突いて、間合いを詰めて斬り掛かる。剣で防ごうとするが、俺は左手から蔦を発生させて、奴の剣を掠め取る。

「なに⁉」

「喰らえ!」

「ぐう! ちぃ!」

 剣は鎧の一部を砕いたに留まった、トレイルは翼を広げ上に飛ぶ。俺は追撃する。

「逃がすか! 『理想の大樹』!」

 俺の股間から生えた大木がトレイルを直撃する。

「ぐはっ……そ、そんなふざけた魔法に……」

 トレイルは力なく落下する。言い訳になるが、決してふざけているわけではない、他に生やすべき箇所が思いつかないだけだ。俺は周囲の状況を確認し、周りに声を掛ける。

「よし! 神殿内部に入り、復活の儀式を阻止しましょう!」

「その必要はない……」

「⁉」

 声のする方を見ると、そこには黒いマントを翻す一人の魔族が立っていた。決して大柄というわけではないものの、圧倒的なまでの存在感。俺たち全員が確信した。こいつが魔王ザシンだ。復活してしまったのか、いや、それを嘆いている暇はない。先手必勝だ。

「魔王ザシン! 覚悟!」

 俺は斬り掛かる。ザシンの反応は鈍い。イケる!と思った次の瞬間……

「煩わしい!」

 ザシンが少し力を込めただけで俺は派手に吹っ飛ばされる。ザシンが右手を挙げ、指先に大きな黒い球体を発生させる。爆炎魔法の一種であろうか。よく分からないが、あれをまともに喰らってしまったら、跡形もないということだけは直感的に分かった。

「消えろ……!」

 ザシンが右手を振り下ろす。メラヌが何かを叫んだのが一瞬視界に入るが、俺はもはやここまでかと思わず目を瞑ってしまう。

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