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電気自動車おもてなし2号ただいま出動! その3

 シートを取り払うと、そこに大きな電気自動車が姿を現しました。
 大きいといいましても、電気自動車コンビニおもてなし1号よりやや大きいくらいです。
 これ、電気自動車コンビニおもてなし2号なのですが、運転席が前列しかありません。
 2列目以降がすべて荷台になっています。
 1号より大きさ的には少し大きいくらいですが、荷物積載量は段違いなわけです。
 この荷台部分は荷物を目一杯つむことも出来ますが、荷物を降ろして陳列台を設置すると、簡易型の移動販売車にもなる代物です。
 コンビニおもてなしがかつて存在していました僕が元いた世界は結構な田舎町だったんですよね。
 そこで、山間部を移動スーパーのように回ってみたらどうかなと思ってこの車を発注したのですが……なんか世の大手コンビニさんがネット注文で即配達なんてサービスを同時期にこぞって開始しちゃったもんですから、僕の構想は実現することなく、キャンセルが間に合わなかったこの車も、この倉庫の中で眠り続けていたわけです。

 軽く車内を掃除してからエンジンをかけてみました。
 すると、軽快な音とともにエンジンが無事始動してくれましたので、僕は思わず安堵のため息をもらしました。
「スア、今ちょっとこれるかな?」
「……お待たせ」
 僕が車内で声をあげると、スアが1秒も経たずに転移魔法で現れました。
「いつも素早く来てくれてありがとう。早速なんだけどさ、この車をコンビニおもてなし5号店に……」
 僕がそう言っているとですね、スアは電気自動車コンビニおもてなし2号の周囲をグルグル回りながら目を輝かせていました。
「何これ!? おもてなし1号と似た車!? 新しいカガク? すごいすごい!」
 スアは、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように、2号の周囲をグルグル回り続けていました。
 スアは、電気自動車コンビニおもてなし1号や電動バイクコンビニおもてなし君を研究するために、この倉庫の中に何度も入っていたはずなんですけど……この調子だと、シートで覆われていた電気自動車コンビニおもてなし2号は眼中に入ってなかったようです。

 一通り電気自動車コンビニおもてなし2号を見て回ったスアに再度お願いして、今度こそ電気自動車コンビニおもてなし2号をナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店前へ転移してもらいました。
「うわ!? な、なんですコンこれは!?」
 ピラミは、いきなり目の前に出現した電気自動車コンビニおもてなし2号にびっくりしていました。
 そんなピラミに、僕は
「とりあえず荷物を積み込もうか」
 そう言いました。
 僕の言葉を受けて、ピラミは慌てて荷物を2号の荷台に積み込んでいきました。
 2号の荷台はかなり大きいですからね、ピラミの荷車に乗っていた荷物を全部のせてもまだ若干余裕がありました。
 で、荷台の屋根の上にピラミの荷車をくくりつけ、どうにか荷物を全部積み込むことに成功した僕は、ピラミを助手席にのせて早速出発しました。
 なお、
「……私も、のってみたい」
 と言いながら目を輝かせたスアも、僕とピラミの間に座っています。
 やはり好奇心が勝ったようですね。
 まぁ、ピラミとスアはどちらも体のサイズがミニマムですからね、助手席に2人のっても差し支えありません。

 電気自動車コンビニおもてなし2号で城門に行くと、何度か定期魔道船の検疫作業に来てくれたことがある衛兵の方々の姿が見えました。
「へぇ、コンビニおもてなしさんには、こんな荷車もあるんですね、こんな変わった荷車始めてみましたよ」 
 衛兵の方々は、皆さん物珍しそうに2号を見て回っています。
 で、その物珍しさが幸いしてか、結構早くに検疫作業を終わらせてもらえました。
 衛兵の方々に見送られながら、電気自動車コンビニおもてなし2号はナカンコンベを出ていきました。

 森に入り、街道を南に進みます。
 その途中で
「あ、ここを左にお願いしますコン」
 ピラミの指示に従って森の奥へと入っていく2号ですが……

 街道はすべて石畳で舗装されているのですが、ピラミが指示した道はすぐに石畳の舗装がなくなり、ただの土の道になりました。
 ここをあの荷馬車を引っ張っていくのは相当大変だと思います。
 そんな道を、
「あ、ここは右コン」
「ここは左へお願いしますコン」
 そういうピラミの指示に従って運転していくのですが……

 その行く先々に小さい集落があります。
 住んでおられるのはお年寄りが数人とか、そんな小さな集落ばかりなのですが、ピラミはその1つ1つの集落で車を降りると、荷台の荷物からいくつかの品物を取り出し、
「はい、おばあちゃん。今日はこれだけ買ってくればよかったコンね?」
 そう言いながら品物を渡しています。
 で、それを受け取ったおばあさんは、
「ピラミちゃん、いつもありがとね」
 そう言い、笑顔でお礼を言っていました。

 そんな事を何カ所かで行っていきまして、最後にようやくピラミの住んでいるフク集落に到着しました。
 そこは、森の奥の更に奥。
 うっそうと茂った木々に覆われている、日当たりがあまりよくない場所にありました。
 奥に沼があるのですが、そのせいか少しじめっとしていますね。
 ただ、ここは集落といっても大きな家が1軒しかありません。
 あとは倉庫や、畑が広がっています。

 ピラミが
「みんな、ただいまコン」
 そう声をあげると、家の中から子供達が大挙して現れました。
 その子供達は、
「ピラミお姉ちゃんおかえり!」
「今日はすごく早かったね」
「お腹すいたよぉ」
 そんな声をあげながら、ピラミに笑顔で抱きついています。

 その様子を見ていて、僕はかなりの違和感を感じていました。
 この集落からは子供達しか出てこないんですよ。
 子供達の保護者の姿がまったく見えないんです。
 
 その後、みんなで荷物を降ろしていきました。
 途中の集落で結構荷物を降ろしていますので、最初に積み込んだ荷物の半分くらいになっています。
 その荷物をピラミを中心に、子供達が笑顔で倉庫に運びこんでいます。
 で、僕もそれを手伝いました。
 すると、子供達は
「おじさんすごいね」
「いっぱい持ってる!」
 目を輝かせながら声をかけてくれました。
 僕は、そんな声を前にしまして、
「見てろよ、おじさんもっと持てるんだから」
 そう言いながら、ついつい張り切ってしまいまして……さ、さすがに腰にきますね、この作業は……

 で、その作業の途中にピラミから聞いたのですが……

 この集落では、親のいない子供達が集まって暮らしているんだそうです。
 ナカンコンベは、いわゆる商業都市です。
 様々な商売を行う人達が集っています。
 商売が大成功して大もうけする人もいます。
 大もうけといかなくても、順調に商売を続けている人もいます。
 そして……中には夢破れて無一文になってしまった方もいるわけです。

 ピラミの集落で暮らしている子供達は、商売に失敗した人達がナカンコンベに残していった子供達なんだそうです。
 失敗した人達がどこにいったのかはわからないそうです。
 ナカンコンベに残された子供達は、以前は街の中の保護施設で暮らしていたそうです。
 ですが、その施設には受け入れ期限があるそうでして、その期限を過ぎたら施設を出て行かないといけないそうなんです。
 ピラミは、自分と同じ時期に施設を出ることになった子供達を集めて、この集落に住み着いたんだそうです。
 ここは昔人が住んでいたそうですが、ピラミ達が来た時には無人で朽ち果てていたそうでして、それをみんなで修理して住んでいるそうです。
 で、子供達は週に1度商店街組合から支援金をもらえるそうでして、ピラミはその支援金をまとめて受け取りに行き、そのお金で食べ物を買って帰ってきていたそうなんですよ。

 ちなみに、途中の小集落で暮らしていたお年寄り達は、ピラミの集落の保護者達同様に、ナカンコンベで夢破れた皆さんなんだそうです。
 ナカンコンベの都市内で暮らせるほどのお金がないため、都市の近くの森の中で暮らしながらピラミ達同様に支援金をもらって暮らしているんだとか。
 で、そんなお年寄り達がピラミの事を知って、自分達の支援金の受け取りと食料の買い付け・配達をお願いしているそうです。
 その代わり、支援金の半分はピラミ達にくれているそうです。
「私達はそんなに食べなくても大丈夫だから」
 お年寄りの皆さんはそう言われているそうです。
 最初は「もらいすぎコン」と言っていたピラミだそうですが、子供達の旺盛な食欲を満たすには支援金だけでは全然足りないため、今ではその援助をありがたく受けているそうです。

 で、おそらくそんな子供達の食糧事情を少しでも改善するために畑を作っているようなのですが……日当たりが悪いせいでしょうね、あまり育っていない感じです。

 そんな畑を眺めていると、荷物の運び込みが終わったピラミが僕のところへ駆けてきました。
「今日はありがとうございましたコン、おかげでとっても助かりましたコン」
 そう言うと、ピラミは深々と頭を下げました。
「いえいえ、これぐらい大したことないけどさ……ところでピラミ、この畑は……」
 僕がそう言うと、ピラミは恥ずかしそうに頭をかきました。
「あぁ、これコン……見よう見まねでやっているコンけど、なかなかうまくいかなくて……」
「誰か指導してくれる人はいないのかい?」
「森のお年寄りの皆さんは元商売人の方々ばかりコン、農業には詳しくないコン」
 そう言って苦笑するピラミを見つめながら、僕は考えを巡らせていきました。

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