第6話(4)逆転の一手
次の瞬間、ビリビリっとした衝撃がコックピット内の大洋の体に走った。
「な、こ、これは……鞭か⁉」
「そう、しかも電磁を帯びた特製のね」
インフィニ1号機の右手には長い鞭状の武器が握られていた。それを近づこうとした光の肩部に思い切り打ち付けたのである。不意打ちを喰らって、大洋は光の動きを停止させてしまった。それを見て海江田がニヤりと笑う。
「まさか本気で武装がライフルだけだと思ったかい? お兄さん、流石に考えが甘いよ~」
「くっ……」
「海江田……」
「はいよ!」
水狩田の呟きを受け、海江田は鞭を巧みに操り、光の胴体を巻き付ける。
「しまった! 動きを止められた!」
「はい、おしまい」
「‼」
水狩田はインフィニ2号機を前進させて、一気に光との間合いを詰め、右腕を思い切り振りかざした。その先には鋭い爪状の武器が光る。
「大洋!」
「どわっ!」
「うおっ!」
「!」
光は仰向けに倒れ込み、爪による斬撃を辛くも躱した。勢い余って機体のバランスを崩しかけた水狩田は体勢を立て直し、海江田の方に向き直って文句を言う。
「海江田、しっかり止めといてよ……」
「い、いや、悪い。あの嬢ちゃんが……」
「?」
水狩田は投げたブーメランを受け取る石火の姿を確認し、事態を把握した。
「ブーメランをこちらじゃなく、味方の脚に当て、わざと体勢バランスを崩させたのか。成程ね、それは予想外だ」
「余所見をしていて良いのか!」
大洋は光を鞭に縛られた状態から抜け出させて、すぐさまインフィニ2号機に向かって剣で斬りかかった。
「⁉」
「……相手の虚を突く戦い方は悪くない。だけどそれだけじゃ……」
水狩田はインフィニ2号機の機体を横に向けた状態のまま、右手の爪で光の繰り出す斬撃を受け止めてみせた。
「実力差は如何ともし難い!」
次の瞬間、インフィニ2号機の左手の爪が光の右わき腹の部分に突き立てられた。
「くっ!」
「意外と固いね、装甲……」
「大洋! ぬおっ⁉」
「おおっと、戦闘中は油断しちゃ駄目だよ、お嬢ちゃん?」
隼子が驚きの声を上げる。石火の左肩部に対し、インフィニ1号機が電磁鞭を叩き付けたのだ。この攻撃によって、石火の肩のキャノンが一門潰されてしまった。
「くっ……思たよりもずっと鞭のリーチが長い!」
隼子は若干石火を後退させて、状況を理解しようとした。
「光が縛りを上手く抜け出したんやない……ワザと緩めて、そして返す刀の要領でウチのことを狙ったんか⁉」
一見それぞれが自由気ままに動いている様に見えて、しっかりと連携の取れた相手に隼子は戦慄した。そこに回線をオープンにした海江田の声が聞こえてくる。
「どうやら馬鹿じゃないようだから聞くけど、どうする? まだ続ける? 彼我の力量差は理解したと思うけど?」
「! その聞き方が馬鹿にしとるやろ!」
「その強気な回答は……続けるってことで良いのかな?」
「そうや!」
「こう言っちゃなんだけど、もうそちらは死に体の様に見えるけど?」
「ぐっ……」
「まだだ!」
「⁉」
大洋が叫んで、光の脚でインフィニ2号機を蹴っ飛ばし、距離を取った。
「大洋……」
「……まだ俺たちの闘志は死んでいない!」
「ぶはっ! 何を言い出すのかと思ったら精神論かい?」
「うざ……」
大洋の言葉に海江田は噴き出し、水狩田は心底ウンザリしたような声を上げる。海江田は鞭をゆっくりと振り回しながら、大洋たちに尋ねる。
「それで……どうするのかな? 自慢じゃないが、アタシは鞭の使い方にはちょっと自信があるんだ。容易に距離は詰めさせない。例え運良く懐に入っても、水狩田の爪がアンタたちを切り裂く。そして……お嬢ちゃん」
「な、何や……」
「肩のキャノンは一つ潰した。残った方だけで果たしてどれだけダメージを与えられるのかな? ブーメランも来ると分かっていれば叩き落とすのは簡単だ」
「ぐぬぬ……」
「まあ、命中率には多少自信があるようだけどね」
「おい、あまり買いかぶるなよ」
大洋が突然割って入る。
「隼子の命中率の低さは伊達じゃないぞ、さっきのブーメランで俺の機体の脚を払ったのも機転を利かした様に見えて実はたまたまだ。大方、鞭かそっちの青白を狙って投げたのが、こっちに当たって上手いこといっただけだ」
「っておおい⁉ 何でアンタがディスってくんねん!」
「事実誤認があったようだからな」
「言わなきゃ分からへんねん!」
「あ、そ、そうなの……?」
「海江田、そんなのどっちでも良い」
「そ、そうだね、じゃあそろそろ終わりにしようか?」
そう言って海江田は機体に鞭を構えさせ、水狩田は機体に両手の爪を立てさせる。
「! ……来る!」
これまでに感じたことの無い只ならぬ気配を感じ取り、隼子は体を強張らせる。次の瞬間、インフィニ1号機の鋭く振り下ろした鞭が石火に迫り、インフィニ2号機が両手の爪で光に襲い掛かった。そのスピードに隼子も大洋も反応しきれず、二人とも体を固まらせてしまった。するとそこに一瞬の閃光が走る。その場にいた全員が眩しさに思わず目を閉じた。海江田がゆっくりと目を開けてモニターを確認すると、そこには金銀銅三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が映し出されていた。
「な、何?」
「合体した……?」
「……せーの、『三機合体!電光石火‼』……って、あれ、どうしたのさ、二人とも? そこはこう、ハモってくれないとカッコつかないでしょ~?」
「い、いや、ちょい待ちオーセン、合体は隠しとくんやなかったんか⁉」
「だって負けたら元も子も無いし……予定変更だよ」
「変更って……」
「大洋もOK?」
閃の問いに大洋がフッと笑う。
「ああ、反撃開始だ‼」