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 居酒屋からヒトエまでの道程は、歩いてもまあ行ける距離で、実際出掛けの際は徒歩だったのだが、会計を済ませて外に出ると小雨が降り出していた。仕方なく駅前に待機していたタクシーを拾い、短い距離でドライバーに悪いと思いながらも家路につく。

「禅一さんは、静かに酔っ払いますね」
「……え、三杯しか飲んでないから大丈夫」

 結局あのあとハイボールやなんやらを飲んでいた。やけ酒というレベルではなかったが、少しふらついている。

「結構酒飲みなんですか?」
「普通に嗜む程度だよ……。そんな人聞きの悪い」

 ふにゃっと笑って鍵を開け、中に入るが、ヒトエの店内の椅子に腰掛けてしまい二階に上がる気配もない。

「お水どうぞ。……酔っ払ってる禅一さん、可愛すぎなんですけど……襲ってもいいですか?」
「またそんなこと言って……はっ、眼鏡は? 眼鏡忘れた! やっば」
 いきなり立ち上がって自分が眼鏡をしていないことに動揺している。本当に酔っ払っている。

「コンタクト」
「――え、ああ。そうそうコンタクト。見えてるよね」

 珠雨に言われてようやく気づき、また椅子に腰を下ろす。出してくれた水を飲んで、他に忘れ物がないか、今更ながらにチェックしている。

「あー大丈夫。焦るよねこういうの」
「店出る前に一通り席の周りは見たから、忘れ物はないはずですよ。結構おっちょこちょい野郎ですね」
 軽口を叩くと、禅一がむっとした。

「外飲みは久し振りだったから。もう寝ようかな」
「あれ……寝ちゃうんですか? 普通に一人で?」

 結論としては言いくるめられてしまったのだろうか。付き合うの決定、と一方的に決めたものの、その後は世間話的なことを食事中にぽつぽつ話しただけになってしまった。特に進展がない。
 どうせ禅一は上手いこと言って手を出す気などないのだ。もう少し女の子らしくしたら、気が変わるのだろうか。

 もしかしたら相手がこんなだから、珠雨は誘うような文句を口に出来るのかもしれない。
(実際には禅一さんに本気で来られたら、どうなるだろ……)
 考えていたら禅一がふと真剣な顔で呟いた。

「うーん……だってこんな状態で珠雨のこと抱いたら失礼……」
「え」
「しらふじゃ出来ない男みたいじゃないか」
 禅一は意味深に笑い、また立ち上がる。
「あー、風呂入りたいけどまずいかな……シャワーだけにしとこ。珠雨、先に貰っちゃってもいい?」
「え、どうぞ」

 少し危ない足元で浴室に向かい、ほどなくシャワーの音が聞こえ始めた。
「……今のは反則じゃ?」
 しらふなら考えるという意味なのだろうか。
 酒を飲んだわけでもないのに顔が熱くなってきたのに気づいて、珠雨は禅一が飲み残した水の入ったグラスを掴み、飲み干した。

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