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 二人はお互いの学校であった出来事や、昨夜観たドラマの感想、好きな音楽や漫画のこと、更にはこのカフェの内装についてまで、とりとめもなく話していた。

「そう言えばね、この前バスケ部の男子に告白されたんだー……ねえ沙也夏ちゃん、この人どう思う?」

 スマートフォンの中の写真を見せて、環奈が相手の反応を待っている。見せられた沙也夏は少し眉根を寄せ、シェアしたザッハトルテにフォークを突き刺す。

「ふぅん。環奈には合わなそう。脳筋な感じじゃない? やめときなよ。ちなみにそれ、誰が撮った写真?」
「んー、バスケ部の子がクラスにいて、沙也夏ちゃんに意見聞く為に転送してもらったの。わりと人気あるんだよ、|爽多《そうた》くん」
「下の名前で呼んでんのぉ? ちょっと距離感間違えてない?」

 沙也夏の視線が鋭くなる。はっとしたように環奈がぱたぱたと手を横に振った。

「あっ、周りがそう呼んでるから! 別に意味はないの」
「男はヤることばっか考えてるんだよ? 付き合うとなったら、環奈はガードが弛いから、どうなるか目に見えて心配。さっき言ったように、環奈は他人に対する距離感がおかしい時あるから」

 どこの男がリサーチ対象なのかわからないが、一緒くたにするのはどうかと珠雨は思う。勿論思うだけで、口出しするわけではない。

「ええー? 弛くないよ! 好きでもないのにそんなことするわけない」
「好きでもないなら、私に意見聞くなって」
「聞きたかったんだもん」

 不毛な会話だ。一見冷たく聞こえる沙也夏の言葉は、しかし決して相手を突き放しているわけではないようだ。しゅんとなった環奈の頭に手が伸ばされ、軽く弾むように撫でられる。

「どうせ自分の中で答えは出てるんだろ? 断りづらいなら、私が言ってあげようか」
「……いい。自分で断る」
「出来んの?」

 環奈が小さく頷いた。
 爽多くんの話はそこで終わり、また違う話題へと移り変わる。
 よく飽きずに喋るものだと、珠雨はある意味感心する。聞き耳を立てているわけではないが、そう広くもない空間、おのずと会話は聞こえてくるから仕方がなかった。

 このあと何組か来客はあったが、あとから来た方が環奈たちよりも先に帰っていった。帰り際環奈が、珠雨に視線を少しだけ止めたがすぐに通過し、「禅さん、またね」と軽く手を振った。

(禅さん……ね)
 禅一目当てなのだろうかと穿った見方をしたが、お客が来てくれるなら理由は何でも良かった。

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