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第6話(2) 茶番、再び

 場所を大講堂ホールに移して、健さんが高らかに叫びます。

「では今度は女子らしい対決と参りましょうか!」

「女子らしい~?」

「女子らしさ、即ち可愛さや美しさで競いましょう! ファッションショー対決です!」

「ファ、ファッションショーだぁ~?」

「左様ですわ。この大講堂ホールの舞台上に特設したステージの上で、簡単なウォーキング&ポージングを行います。舞台袖には多くの衣装を用意させております。ただまあ、自由過ぎるというのもアレでしょうから、特別な趣向を凝らしました」

「趣向?」

「そうです、この箱に先程クラスの皆さまに書いて頂いたキーワードが幾つか入っております。ランダムにキーワードを選出し、そのキーワードに沿ったテーマの衣装を着て、このステージ上で互いにご披露致します。どちらがより魅力的であるか……そうですわね、結果はこうしてお集まり頂いたギャラリーの皆さまによる拍手の数の多さで決めましょうか」

「何の馬鹿騒ぎよ、これは……」

 気が付くと、私の隣の席には聖良ちゃんが座っていました。いつの間にか、大講堂ホールには私たち1-C以外の生徒たちもギッシリと詰めかけていました。時間的にも昼休みですし、この大騒ぎですから、それもやむを得ないでしょう。

「それでは僭越ながらキーワードの選出と発表を行わせて頂きます!」

 マイクを持った女の子がステージ中央で叫びます。あ、同じクラスの放送部の子です。臨時で司会進行を任された様です。彼女が箱から引いた紙を広げ、キーワードを発表します。

「キーワードは……『天性』です! シンプルに漢字二文字で天性! あくまでもキーワードですから、このワードから連想したテーマの衣装を身に着けて頂きます」

「『天性』ですか、ふむ、なかなか奥が深いキーワードですわね……!」

「それでは、これからお二人には舞台袖で衣装を選んでもらい、特設更衣室で着替えてから順に、こちらのステージで御披露目して頂きます!準備はよろしいでしょうか?」

「ええ、宜しくてよ」

「ちょ、ちょっと待った!」

 竜乃ちゃんが声を上げます。

「ファッションとかさ、アタシはそーいうのにはちょっと疎いんだ、助っ人を一人呼んでも良いか? なぁ桃ちゃん、ちょっと力を貸してくれ!」

 竜乃ちゃんからの突然の呼びかけに私は困惑してしまいます。

「え、ええ……?」

「ちよっと竜乃! こんな茶番に桃ちゃんを巻き込むんじゃないわよ!」

「頼む、学食の『サバのみそ煮サンドイッチ』優先購入券譲るから……」

「竜乃ちゃん、準備して」

「桃ちゃん⁉」

「よ、よろしいんでしょうか、伊達仁さん?」

「オ~ホッホッホ! 別に構いませんわ、助っ人の一人や二人」

「で、では改めて、お二人とも準備をお願いします!」

 私は竜乃ちゃんとともに、舞台袖に向かいました。そこには、健さんの言ったように、沢山の衣装がズラリと並んでいました。

「こ、こんな大量な服をいつの間に用意したんだ……金の使い方絶対間違っているだろ……なぁビィちゃん?」

「……『天性』……持って生まれたモノ……」

「ビ、ビィちゃん……?」

 私はキーワードを思い返しながら、何度も竜乃ちゃんと衣装群を見比べます。

「……! これだ! 竜乃ちゃんこの衣装絶対似合うよ! これにしよう!」

「ええっ⁉ こ、これを着るのか⁉」

約十分後、準備を終えて、私は自分の席に戻りました。すると司会者さんが再び壇上に上がり、マイクを手に取りました。

「えー……それでは皆様お待ちかねぇ! いよいよお時間です! より魅力的に、より華麗に衣装を着こなすのはどちらか! この運命の決戦の勝敗を決するのは……そう、貴方たちです! 心の準備は出来ているか――!」

「「うおおぉぉぉ‼」」

 司会者さんも観客の皆も異常な程に盛り上がっています。ダメだこの学校……。

「まず舞台下手より登場するのは、誰が呼んだか、『金色の破壊龍』! そのスケールは無限大! 龍波竜乃の登場だ―――‼」

「「うおおぉぉぉぉ‼」」

「うぅ……ハズい……」

 これから格闘技の試合でも始まるのかという無駄に熱い前フリの後に、竜乃ちゃんがそろそろと舞台中央に進み出てきました。司会者さんのハイテンションぶりと反比例するかのようなローテンションです。それもそのはず、竜乃ちゃんにとってはとても恥ずかしい恰好だからです。私が彼女に選んだ衣装は、○ィズニー映画に出てくるプリンセスが着ていそうな水色のフリフリなワンピースドレスです。一瞬ですが、場内が静まり返ります。しかし、その後……

「「か、かわいい――!」」

皆のリアクションが見事なまでに一致しました。思った通りの好反応に、私は左手で小さくガッツポーズを取りました。

「龍波さん、似合い過ぎてヤバいんだけど!」

「っていうか、知ってはいたけど、改めて見るとスタイル良すぎでしょ!」

「F組のあの娘とタメ張れるレベルじゃない、マジで?」

「……テーマは『天性のプリンセス』! なるほど、持って生まれた美しさをそのままお届けするということですね!」

「は、恥ずかしいことを言うんじゃねえ! 大体なんだよ、そのテーマ⁉ アタシが決めたことじゃねーし! ……ってか、あ、あんまジロジロ見るな――‼」

 そう言って竜乃ちゃんは体を隠すようにしてしゃがみ込んでしまいました。ですが、歓声はなかなか止みません。

「……悔しいけど、本当になんでも着こなすわねアイツ……」

腕組みをしながら、聖良ちゃんが呟きます。

「では龍波さん! 判定までその場でしばらくお待ち下さい~」

「でぇぇっ⁉ このまま待つのかよ! もう何でもいいから早くしてくれ~!」

「舞台上手より登場するのは、これまた誰が呼んだか『黒髪の暴風』! その奔放さは留まることを知らない! 伊達仁健の登場だ――‼」

「「うおおぉぉぉぉぉ‼ ……んん?」」

 これ以上無い程の盛り上がりぶりを見せていたホールですが、健さんの登場とともにトーンダウンしてしまいました。何故なら、颯爽と現れた彼女の姿がどうにもこうにも奇妙なものだったからです。まるで、ゲームやアニメの世界から飛び出してきたかのような、銀色の鎧に身を包んでいるのです。しかもその鎧、胸元やおへそ、太ももなどの部分が露になっており、防具としての体をまるで成していません。

「え、え―っと、伊達仁さん、そのお衣装のテーマは?」

 戸惑いつつ、司会者さんが尋ねます。健さんは鎧をガシャンガシャンいわせながら、よくぞ聞いてくれましたとばかりに答えます。

「フフフ……今回のテーマは『天性を極めたら女騎士になった件』ですわ!」

「う、うーん……すみません、もう少し具体的に教えて頂けると助かるのですが……」

「『天性』とは即ち天から授かった性質! つまりわたくしの場合は、名前の通りの健全かつ健康な肉体美! そして何物も恐れぬ勇ましさ! この二つを的確に表現できるのは、この騎士の鎧を置いて他に無い! そう判断したのです」

「そ、そうですか……皆さん分かりましたかね? で、では判定に参りましょうか。先程もご説明したとおり、良かったと思った方に拍手をお願いします。拍手の量が多かった方が勝利となります。……ではまず、龍波さんが良かったと思う方、拍手をお願い致します!」

「パチパチパチパチ……‼」

会場割れんばかりの拍手喝采です。自信満々だった健さんの表情が一変します。

「……では、伊達仁さんが良かったと思う方、拍手をお願い致します!」

「……パチ……パチ……」

申し訳ない程度のまばらな拍手です。健さんは信じられないと言った表情です。

「勝者、龍波竜乃‼」

「ち、ちょっとお待ちになって! このままでは納得がいきませんわ! 皆様方の審査基準の説明を求めます!」

「い、いや、私に聞かれても……ど、どなたかお願いできますか?」

 司会者さんが会場を見渡します。すると聖良ちゃんが手を挙げました。

「で、ではそちらのツインテールの方、お願いします」

促された聖良ちゃんはゆっくりと立ち上がり、理由を説明し始めます。

「……まず、ファッションショーに鎧というのが単純に意味不明。次に健全かつ健康な肉体美=大胆な露出になるっていう思考回路が理解不能。あと、勇ましさというよりイヤらしさのアピールになってしまっていない? 大体その恰好だと『天性を極めたら~』っていうよりも『転生したら~』って感じよね。まあとにかく、何が言いたいのかって言うと……『残念』ってことかしらね」

「ごふッ!」

「あ――っと、伊達仁さんにつうこんのいちげき!せんとうふのうか⁉」

 謎の擬音を発し、その場に崩れ落ちる健さん。流石は聖良ちゃん、ドリブルだけでなく、ツッコミもキレ味抜群です。

「わ、わたくしの負けですわ……」

 その時、予鈴が鳴りました。昼休みが間もなく終わります。皆ぞろぞろとホールを出て行きました。ステージ上にポツンと取り残された竜乃ちゃんが呟きました。

「え? い、良いんだよな? もう着替えても……?」

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