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第3話(3) お店に行こう

「ここだよ、本日のお目当ての場所は!」

 私が二人に指し示したお店は、「グリーンリバースポーツ」という名前のスポーツ用品店です。

「スポーツ用品ってことは……もしかして竜乃の分?」

「そう! 竜乃ちゃんのシューズやスパイク、練習着とか諸々一式だよ! 何か忘れているって思っていたんだけど、やっぱり用具を揃えないと上達するものもしないからね。じゃあ、早速探しに行こう!」

 実は私も初めて来るお店なのですが、店内に入ってみると、サッカー用品を取り扱うスペースが思ったよりも大きかったです。

「へぇ……結構いい感じのお店ね。今度私も買いに来ようかしら」

聖良ちゃんも気に入ったようです。私は竜乃ちゃんに向かってこう告げます。

「じゃあ、まずはトレーニングウェアを探そうか!」

 私たちはウェア売り場に向かいました。

「う~ん迷うなぁ、聖良ちゃんはどう思う?」

「悔しいけど、何でも着こなすわねコイツ……どれも甲乙付け難いわ……」

「なぁ~もう良いだろ二人とも~もう十回は着替えてんぞ~?」

 竜乃ちゃんがウンザリした声を上げます。モデル顔負けのスタイルを持つ彼女は、聖良ちゃんの言ったように、何でも着こなしてしまいます。その為、ついつい着せ替えごっこを楽しんでしまいました。

「ごめん、ごめん。竜乃ちゃんはどれが気に入った?」

「う~ん、最初に着た青いやつで良いよ」

 トレーニングウェアは青、ハーフパンツは黒で決まりました。ソックスとレガース(すね当て)も選びました。次はいよいよシューズ選びです。

「はえ~靴が一杯だ~どれ選んだら良いんだ?」

 竜乃ちゃんが聖良ちゃんに尋ねます。

「当然、サイズが合う物が一番でしょ、アンタのサイズは……この辺じゃない?」

 聖良ちゃんが指差した棚にあるシューズを眺めながら、三人でああでもないこうでもないと言っていると、一人の女の子が話し掛けて来ました。

「いらっしゃいませ。シューズをお探しですか?」

「あ、はい、彼女の物を……」

 お店の名前が入ったエプロンを身に着けた女の子です。髪型はショートボブで、出したおでことニコニコ笑顔が印象的な方です。このお店の店員さんでしょう。私や聖良ちゃんより一回り小さい彼女は竜乃ちゃんをじっと見つめます。

「なんだよ、ジロジロ見て」

「あ、ごめんなさい。じゃあそこに座って靴を脱いで下さい、ああ、靴下も脱いで下さい」

 彼女に言われた通りにする竜乃ちゃん。

「ほいよ、これで良いのか?」

「ありがとうございます。それでは、失礼して……」

「ひゃっ⁉ な、何すんだよ!」

 私たちも驚きました。店員さんが竜乃ちゃんの脚をベタベタと触りはじめたのです。

「この感じ……強いキックが蹴れそうですね……衝撃に耐えられるようなつくりのシューズがベストでしょう……そうですね……」

 店員さんは棚をチラッと見て

「こちらは如何でしょう」

 そう言って、真っ赤なスパイクシューズを手に取り、竜乃ちゃんに手渡しました。

「そんなんで分かんのかよ?」

「こちらで試してみて下さい」

 店員さんが指し示した先には、網で覆われたスぺースがあり、芝生が敷き詰められていました。さほど広くはありませんが、軽くドリブルする位なら十分な広さです。ボールも一つ置いてあります。ここで試し蹴りができるという訳です。

 先程選んだウェアに着替えた竜乃ちゃん、スパイクも履いて、初めて芝生の上に立ちました。

「おおっ……」

 何とも言えない声を上げます。

「何よそれ、もっと具体的な感想は無いの?」

 聖良ちゃんが呆れたように聞きます。

「なんかフワフワすんな……でも歩いてみた感じは悪くねぇかな?」

「ボール蹴ってみますか?」

 いつのまにか竜乃ちゃんの傍にいた店員さんがボールを渡します。

「リフティング50回そこでやってみれば?」

 聖良ちゃんが悪戯っぽく笑います。

「お前な……まあやってみるか」

 竜乃ちゃんは何度か挑戦しますが、なかなか20回以上いきません。

「だぁ――! やっぱ上手くいかねぇ――!」

 私が声を掛けようとしたところ、ジッと見ていた店員さんが口を開きました。

「左右の足で順序良く蹴ってみて下さい、そんなに力入れなくても良いですから、ボールは常に膝位の高さをキープするイメージで」

「お、おう」

 突然のことに戸惑いながら、店員さんのアドバイスに従う竜乃ちゃん。すると、何度目かの挑戦で20回以上リフティングすることが出来ました。

「お、いい感じじゃない」

「よし! このイメージのまま……」

 すると、突然竜乃ちゃんの背中に回った店員さんが「ツツ~」と指で竜乃ちゃんの背中をなぞりました。

「ひゃん!」

 カワイイ声を出して崩れ落ちる竜乃ちゃん。

「何すんだよ⁉」

「背中が丸まっていますよ、背筋はピンと伸ばして、姿勢よく保つことを心掛けてみて下さい」

「じゃあそう言えばいいだろ……」

 ブツブツ言いながら、またリフティングを始める竜乃ちゃん。そこから更に何度目かの挑戦でついに……

「……48、49、50―!よっしゃー!」

 竜乃ちゃんがリフティング50回を成功させました。

「いや~アンタのアドバイスのおかげで出来たわ~ありがとな」

 店員さんは首を軽く振り、

「いえいえ、貴方の努力の賜物ですよ、素晴らしい集中力でした。それで……いがが致しますか、シューズの方は?」

「色も赤で気に入った。これにするぜ」

 その後、竜乃ちゃんはトレーニングシューズも店員さんに選んでもらい、用具諸々一式を購入しました。ただ、流石にシューズを2足も買うとなると予算をオーバーしてしまいました。これは何を買うかちゃんと伝えなかった私の落ち度なので、ひとまず私が立て替えました。

「ありがとうございましたー!」

 店員さんの元気なあいさつに見送られ、私たちは商店街を後にしました。

「これでアタシも立派なサッカー選手ってやつだな!」

「やっとスタートラインに立ったってとこでしょ、あんまり調子に乗らないの」

「んだよ、水を差すなよな」

「忠告してあげてんのよ」

「ねえ、二人とも!」

 私の声に二人が振り返ります。

「今日は付き合ってくれてありがとう! 明日からの練習も頑張ろうね!」

「ああ!」

「ええ! 頑張りましょう!」



 そして翌日……グラウンドに集まった私たちの前に驚きの面々が並んでいました。

「キャプテンの緑川美智(みどりかわみさと)です。怪我で合流が遅れてしまい、申し訳ありません。楽しくやっていきましょう」

(店員さん……⁉ 只者じゃないと思ったけど……)

「三年の武秋魚(たけあきな)や、家の都合でしばらく練習休ませて貰っとった。今日から宜しく頼むで~」

(アッキーナ⁉ サッカー部だったのかよ!)

「三年の池田弥凪(いけだやなぎ)でーす。私も練習休ませて貰ってましたー。えー以下同文―」

(昨日のゲームセンターの⁉)

不思議な人とおかしな人と変わった人が一斉に加わることになりました。これからどうなっていくのでしょうか。期待と不安が入り混じった日々が始まります。

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