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6話

自宅に戻ってから、まず購入してきた物を整理した。
生鮮食品はカットしたり小分けにしたりして使いやすいように手を加える。食品関係は冷蔵庫や棚に仕舞い、雑貨類もそれぞれ使いやすい所へ置いたり、ストック分は仕舞ったり。
種や苗はまだ植えれないのでタブレットに入れたままにしておく。

片付けが終わったのは、帰ってきたのも早かったからかまだ日が暮れるまでには時間が有りそうだった。

「あ、そうだ」

さて何をして時間を潰そうと考えてから、農業センターで思い付いたことを思い出した。

「ねぇみんな、昨日とってきてくれた果物って、この中にあるの?」

ココロの作業をずっと見ていた妖精達に尋ねる。
リンゴやぶどう、初めて見る果物もあったが、アレ等はまだどこにあるか知らない。

「あるよー」
「みどりがつくつったのー」
「え、みどりさんが!?」

まさかの新情報。しかし彼女が居なくなったのは随分昔のはずだが、手入れする者がいないのに今まで残っていたというのだろうか。

「そこ、連れてってもらえる?」
「いいよー」
「こっちこっち~」

心得た!と言わんばかりに、手を引っ張ったり背中を押したり、各々誘導しようとしてくれる。誘導と言っても、グリが草を刈って道を作ってくれたので、その通りに進んでいるだけだが。

家を挟んで反対方向に進んで行く。宙に浮いている妖精達は、それでもココロの歩調に合わせてくれているので、周りをゆっくり見る事が出来る。
周りは正直言っても言わなくても、草しか無い。昨日刈った所は一部分だけで、草に覆われている所が殆だ。
少し遠くに目を向ければ、数本の木が目に入ってきた。

少し歩くとその遠くに見えていた木々の側までたどり着く。
奥にも木の幹が見える。それもたくさん。
手前の木から2,3mぐらいか、草がパタリと途絶える。全く生えていないわけではない。周りに比べると背丈の小さな草が、ポツリポツリと見える程度だ。

「このなかにあるー」
「え、中に?」

背丈のある木々の中に足を踏み入れる。
少し薄暗くなるが、ソラが辺りを明るくしてくれた。
少し奥へ入ると、それは見えてくる。

「あ、りんご。それに…えぇ!?」

最初に目に入ったのはりんごの木だった。枝にはいくつものりんごが実を生している。
この辺りはりんごの木なのかと思い辺りを見回すと、驚くべきものが目に入ってきた。

「え、なんかすごい事になってない!?」

驚きすぎてそれ以外言葉にならない。
言葉にするならたった一言。『果物王国』だろうか。
色んな果物が生っているのだ。りんごに始まり、ぶどうにみかん、さくらんぼやもも、マンゴーにバナナ等、果物と言えばコレ!というのは揃っていた。温暖な所で採れるものと、寒冷地で採れるものが混在しているのが、1番驚くべき点だろう。

まだあるよー、と言う妖精達に導かれて移動すれば、コーヒーの木だったりカカオの木だったり、葉っぱだけの木があるなと思ってよくよく見るとカエデの木だったり、他にも名前のわからない果物等も沢山あった。

「これ、全部みどりさんがそだててたの?」
「うんんー。みどりがつくったのー」
「へ?」

何が違うと言うのだろうか。いやそもそも、果樹を『作った』という言い方は、些か違和感がある。

「えっと…どういう事?」
「えっとねー」

少しまとまりの無い妖精達の話をまとめると、こういう事らしい。
「みどりさんが『欲しい』『食べたい』と思ったり口にしたりすると、いつの間にかこの場所に木が生えていた」
…元々不明瞭なみどりさん像が、さらに訳のわからないものになったのは言うまでもない。

「えーと…ここにあるのは、自由に取っていい、って事でいいのかな?」

じゃなきゃここに案内はしないだろうと思いつつも尋ねる。
いーよー、と口々に応える妖精達を尻目に、目の端に何かを捉えた。

「ん?なんだろ」

それはもう少し奥に行ったところだ。気になってそちらに足を向ける。正体はすぐに分かった。

「わっ、キレイ…!」

然程大きくはないが泉がそこにはあった。
そこだけぽっかりと空間が出来ており、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
透明度も高く、底まで見る事が出来る程だ。種類は分からないが、魚が数匹泳いでいるのが見える。

無意識に、何かに導かれるように泉の中に手を浸す。
冷たくもなく暖かくもなく、かと言ってぬるいわけでもない不思議な水温。
サラサラとしているのに何かが集まってきているような不思議な感覚。
両手で掬って、躊躇うことなく口を付けた。

「あ…」

フワリと、不思議な感覚を覚えた。頭の中はフワフワとしているが、体中がポカポカと温かい。
気がつけば、頭の中に何かの映像が流れてくる。場所はこの木々の中だろうか。けれどどの木も実を付けていない。
朝と夜を繰り返しているのか、明るくなったり暗くなったり、早送り状態だ。時々水が跳ねて木々を濡らしている。
暫くすると何も見をつけていなかった木が1つ、けれど大きな実を付け、地面へ落とす。落とした木は枯れていくが、落とされた実がやがて芽を出し木へと成長していく。
タイミングはバラバラだが、どの木も同じだった。

最後には一斉に実を付けて、嬉しそうな顔した妖精達が取りに来る所で映像は終わった。

「そっか。誰かがまた来るのを、そうやってずっと待ってたんだね」

木々も泉も、妖精達も…。
彼らはココロを受け入れてくれた。それが何だか嬉しくて、小さく笑みがこぼれた。

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