食べ放題の約束
たった一日そこいら離れてただけなのに、なんかすごく遠出してたような感じすらある。
旅から帰ってくるのってこんな気分なのかな……とか。誰かにようやく再会できるとか。
でかい門が見えてくると、歓迎してくれてるのだろうか……なにやらたくさんの人がわいわい騒ぎ立ててるようにも見えるし。
ただもう中で戦いが起きてたりとか内乱とか勃発やってるのだけは勘弁してもらいたい。俺の方はようやく身体を起こせられるようになったんだから。
ちなみに、俺が倒れてるところを発見した時は、身体中がものすごい熱を帯びていたそうだ。普通の病気の熱とかじゃない、俺の身体に具の入った鍋を乗せたら、あっという間にシチューができてしまうくらいだったとか。
……ちょっとオーバーすぎねえか? それ。
でも分かるな、それ。親方にしごかれた時なんて、ずっと二の腕とか太ももがカッカしてたし。アレに似たようなものなのかな……ということは、俺は意識を失ってた時にはずっと暴れまわっていた……ってことになる。つまりはイーグたちが証言したことと同じ。
無意識のうちに斬りまくってた……? 俺がそんな器用なことしてたっつーのもなんか不思議というか。
しかも斧の一振りでものすごい数の人獣どもを薙ぎ払ってたんだから……。俺自身にそんな力があったっていうのか……?
「ラッシュは家族とかいるのか?」
物思いにふけっていたら、イーグが後ろからぴょこんと俺の顔をのぞき込んできた。
「いねーよ。俺は傭兵ギルドの親方に買われたんだ。まだちっこい時にな」
だから親の顔すら知らない。もちろん生きてるかどうかもだ。まあそんなこと知ってたって俺には関係ないしな……そう、貧しさに俺を売り飛ばしたんだから。
「じゃあ、かーちゃんも見たことないんだ」
そういうこと。と俺は大きくかぶりを振った。
お前は? と聞くと、イーグのトコはとにかく大家族らしい。それに子だくさん。あいつ自身も8人きょうだいの末っ子なんだとか。そしてもちろん両親も健在。トガリの家と似たようなものなのかな……
あ、そうだ。イーグの家で思い出した!
「そういやお前、生きて帰れたらパンを毎日食べ放題にしてくれるって言ったよな?」
その言葉に、あいつの顔は焦りを浮かべたまま……
固まっていた。
「約束してくれたよな、お前。俺は忘れてないし」
「……………………」おい、俺から視線外すな。
「え、俺そんなこと言ったっけ?」言ったぞ。よかったな生き残ることができて。
「え……っと、一週間に一回じゃ……ダメ?」
「食べ放題は……ちょっと、経費が……」
「いや、その……俺もあのときは、つい気が大きくなっちまって……さ。さすがに毎日お前に来られるのは……キツくね?」
イーグ、約束したよな?
聞こえてるな? 約 束 し た よ な ?
楽しみにしてるぜ、お前の店の特製パンをな。