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聖痕

「私のもとに就く気はないかね」

俺はつい、ええっと声を上げてしまった。つーか面食らった。
ギルド剥奪宣告されたと思ったら今度は騎士団にスカウトって……
どういうことなんだ一体⁉︎
「えっと、騎士団に入れってことか……?」
しかしドールは首を左右に振り、続けた。
「君の過去の戦いの実績からして、そうしたいのも山々なんだがね……しかし家柄と礼節を重んじる我がリオネングは、ケモノビトを迎え入れることはほぼ存在しないといっていい。まあ過去に一例、あるにはあったが、ね」
非常にゆっくりとした足取りで、ドールは窓の方へと向かった。
「私はね、今とても嬉しく思ってるのだよ……ラッシュ君」
「はァ? こっちは全然嬉しくもクソも思ってねえんだが」
「ふふふ……そう腹を立てずとも。そう、まだこのリオネング城の中でも私以外数人しかそれを知る者はいない。だがそのうち一人は先日酔った挙句溺死してしまったがね」

直感した。アスティのことだ……! しかしそれとは一体?
「まだ分からないのかい……? 君の顔に刻まれたその傷のことだよ」
「俺の……この傷⁉︎」まさか、ロレンタの奴がこれを見て散々聖女だとかなんとか抜かしてたこの傷痕が⁉︎
「そう、すなわち『ディナレの聖痕』さ!」

まったく。こいつも俺のことを聖女とかなんとか信じてる奴の一人だったのか。ほんと疲れるな……
だけどいまいち分からねえ。仮にもしこの傷がディナレの証だとしてもだ、一体それになんの価値があるというんだか。そこを俺はドールに問いただしてみた。
「ふむ……そうだな、確かに君たちが知らないのも無理はない。そしてそれは当のディナレ教会ですらも把握していない最高の機密事項でもあるからね」
王と、その側近しか知らないものだと付け加えたのち、ドールはゆっくりと言葉を紡いだ。
「……ディナレの聖痕を持つ者、そして彼のものに認められし人々は、永遠の財と命を得ることができるであろう」と。
「永遠の財産と命が、俺に……?」
「ああ、君がそうさ……しかしこんな身近な所に居ようとはね。ずっと聖痕を持つ存在は人間だと信じていた我々も愚かだったがな」
どうもここの奴らは、ディナレの証を継ぐものは人間だという先入観しか持っていなかったらしい……それがいいのか悪いのかは分からないが、そこからしてもう俺たち獣人という存在は全くお偉いさん方には想われてもいないものだったってことか。なんか妙に腹立たしくなってきた。
「わかるだろ? 君を仲間にしたいことが。馴染まぬ身体を得たが故にもはや死を待つのみの私の胸の内が!」
ドールは肩で大きく呼吸し始めた。胸が侵されているのか、何度も咳込み始めた。
「ちょ、言ってる意味がよく分からねえ、つまり病気ってことか? 俺を仲間にしたらその病気が治るとか思ってンのか⁉︎」
だが馴染まぬ身体とは……それだけが俺には見当つかない。
「落ち着け、たぶんその言い伝えって……その、結構外れてるっぽい」
俺はドールの肩を支えて答えた。そうだろう? 俺の元にいる奴らが健康で金持ちになれたとしたら……だ。

……なんで親方は死んだんだ?

俺が聖痕持ちとか聖女なら、親方は若々しいまま、俺をまだまだビシビシしごいてるはずだろ? 無くした脚だって生えてくるに違いないさ。
だが現実はどうだ? 親方何年も前に、この目の前にいるドールのようにげっそりと骨と皮だけになって死んだ。
つまり……ドールの、いやリオネングの王様だかが知っているその言い伝えは嘘だ、大ウソだ!


……あ、財産だけはあってるかもな。

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