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1ー2 ここは私達の楽園だから無くすわけにいかない


「さあ、三神くん!文芸部に行こう!!」

「……は、はぁ……」

入学式が終わり、大抵の部活が活動をしていると聞き、三神を誘い文芸部へ向かおうとする咲良。元気がいい。周りの男子が騒ぐくらい可愛らしい。

しかし三神は浮かない顔をしながら咲良について行く。

抵抗なくついて行くのは元々文芸部に入る予定だったからだ。

「……あの」

「ん?」

「なんで、キミ、」

「あ、私、咲良ね、才ノ神(さいのかみ)咲良!!」

聞いてないけど、いや知りたかったけど。
話を遮られて、「この陽キャが!!」と憂鬱になりながらまた話を続ける勇気を出す。

「……なんで文芸部?キミみたいな陽キャなら、もっと他にある……でしょ?」

「……やっぱり私みたいなのが小説好きじゃ、変かな」

渡り廊下、桜が舞う。
ふわり浮いた咲良の茶色く染められた髪。
耳には痛いくらいのピアス。

遠くを眺める横顔は、寂しそうだった。

この子はもしかして、本気で文芸部に?

「……あの」

「……私、本気で文芸部入りたいの。読み専だけど小説大好きでさ。色んなジャンル読むんだぁ。それにカラオケとか行くより小説読むのが好き」

「……意外。ごめん、本気で文芸部入りたかったのに俺……」

「いいよ、慣れてるから!」

うふふ!
と笑う顔が切なくて。

何か一節浮かびそうだった。

しばらく歩いていくと文芸部部室と書かれた部屋に着く。

心の準備を……と言う前に咲良は文芸部部室の扉を勢いよく開ける。

「こんにちはー!!入部希望でーす!!」

室内は割と広く、所狭しと壁を四方ぐるり一周した本棚に小説が詰め込まれていて会議室にあるような大きなデスクで男子が1人、何かを書いていて、でんっと置かれたソファーで女子が1人、小説を読んでいた。

咲良と三神に気づいた文芸部部員達。
そして、

「ぎぃやぁぁああああああああぁぁぁ!!」

男子は顔を真っ青にしながら机に突っ伏し悲鳴をあげる。

「陽キャがぼ、僕を笑いに来たな!!負けませんぞ!?いくら陽キャだって1人だろ!?それくらいじゃ負けまげふんっ!!」

「ごめんね、陰キャが。ちょっと陽キャアレルギーなの」

「か、か、かずさ氏!!いきなり殴るのは如何なものかと!!」

「じゃあ、黙ろうね」

「ひゃい……」

中々に濃いな……特に男子の方……と思いながら、部員のメガネ女子のほう、部長で3年の南(みなみ)かずさに招き入れられる2人。
陰キャ男子のほう、副部長で3年の伊集院(いじゅういん)七世(ななせ)はまだ警戒しているようで部屋の隅で原稿を抱えこちらを睨んでいた。

「……すみません。やっぱり私みたいなのが小説好きって変ですか?」

南はふと笑う。

「いや?いいんじゃない?本気でこの部に入りたいなら私は歓迎するわよ?」

「ぼ、僕のこと、笑うくせに……」

「七世、あんたホントこじらせてるわね」

優しく微笑みながら伊集院の頭を南が撫でると伊集院は顔を真っ赤にして狼狽えた。

「か、かず、かずさ氏!!」

「あんたのせいでこの1年が逃げたら廃部になるんだからね?わかってる?」

「……ういっす」

優しく微笑んだかと思えば恐ろしい顔で伊集院を南は睨んだ。
彼らにとってこの部室は楽園なのだ。

無くすわけに行かない。
せめて自分たちが卒業するまでは。

「……あ、あの、廃部って?」

「今、うちは私とこいつしかいないの。あと2人入れなきゃ廃部だって言われてんのよ」

「じゃあ!私たちが入れば存続!!」

「つまりはそういうこと」

がっと勢いよく三神の腕を掴む咲良。
三神は「ひっ?!」と小さく悲鳴を上げ後ずさる。

「三神くん、入るよね?!」

「……い、いや、俺は元々入る予定だったけど」

「ちなみに南先輩、小説は貸出可能ですか?!」

「え?いいわよ?」

ちょっと失礼します!
と咲良は本棚を見ていく。
あ、これ読んだ!あ、これ気になってたんだよなー!あ!これ読みたかったやつ!!!

キャイキャイと小説を物色して行く様子は、ここはオシャレな服屋だったのかと錯覚するくらいだった。

その様子を見て警戒を解き始めた伊集院の隣に南。

「あの子、あんたを侮辱する系陽キャじゃないわよ」

「……うん」

その様子を見て三神はノートに何かをメモし始めた。

「キミは七世と同じ書き専?」

「!!……あ、あの、読んだりも、少し」

「じゃあ、私と同タイプか。貴方は読み専??」

南は未だ本棚を物色している咲良に問いかける。

「はい!!小説書きたくても語彙力ないから……」

「そう。まあ、いつか挑戦してみるのもいいかもね」

優しく笑う南。
伊集院は少しつまらなそうにしていた。

「あの、入部届けってどこに出せばいいですか?」

「今あるなら私が預かって顧問に渡すわよ?」

咲良も三神もカバンを漁る。
そして、取り出した入部届けには既に全てが記入されていて、南は満足気に笑うのだった。

伊集院も、警戒心を解いていった。


ーつづくー

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