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言葉にする気持ち

鷹弥はタクシーに飛び乗った
手に持ったスマホはいつの間にか切れていて鷹弥はカケルにかけ直した。

「日向がいない。圭輔から連絡あって行ったとしたら多分…日向の家だ。今タクシー乗ったから。…ごめん、カケル…」

日向になんかあったらどうしようと思うと鷹弥は泣きそうな声で言った

『何俺に謝ってんだよ!まだそんな時間経ってないだろ?きっと大丈夫だ。とりあえず俺も向かうから!ひなんちどこ?』
カケルはカケルで、今の圭輔と日向と鷹弥、3人にする事に危険を感じていた。

鷹弥は1回行っただけで住所なんかわからない。最寄り駅と覚えてる限りの情報をカケルに伝えた。

鷹弥は日向に電話する。
コールはするけど出ない。
(やっぱり電源入れたのか…)
鷹弥は日向を一人にした事を後悔した。

その頃日向はマンションに着いていた。
覚悟を決めてエレベーターに乗った。
6階で降りるとやっぱり部屋の前に圭輔が顔を伏せて座っていた。

どれくらいここにいたんだろう。

「圭輔さん…」
と声を掛けるとパッと顔を上げて泣きそうな顔で
「ひな…」と言った。

「立てますか?」
日向が出した手に捕まって立つとギュッと日向を抱きしめる。

「圭輔さん、とりあえず入って話をしましょう…」
弱々しい圭輔の姿に日向は家の中に入れてしまった…。

玄関に入ると圭輔はすぐに日向にキスをしようとした。
「圭輔さん!まって…話をしたいんですっ」
と日向が言ってもすごい力で抵抗できない。圭輔は日向の首筋を強く吸う。
「…っ!」
日向は圭輔を家に入れたことをすぐに後悔した。

ガタンッ!簡単に押し倒されてしまう。

「話?…話したってひなは俺の事好きって言ってくんないんでしょ…」

(え…?)
日向は話が見えない。

「俺はこんなに好きなのに…ひなじゃないとダメなのに…」

(おかしい…何…言ってるの?圭輔さん…)

「だからね、身体に聞かなくちゃ…
嫌って言ってもいつもひなの身体は素直でしょー…」

無理矢理キスされて強引に舌が入る。

「ん…!」声が漏れる。

「ほら…やっぱりひなは強引にされるのが好きだよね…」

「こっちも…もうきっと濡れてるよね…」

スっと手が下に降りる
口調は緩く穏やかなのに力が強くて強引に服を剥ぐ。

(怖い…助けて!鷹弥!!)

ガチャっ!!!
勢いよくドアが空いて、鷹弥が入ってきた…と思った瞬間、圭輔を日向から引き剥がした。

「お前…っっ!!」
胸のあたりはははだけてシャツのボタンも飛んでる。スカートは下着が見えるくらいまで捲られ泣いてる日向の姿を見て鷹弥は我を忘れて圭輔に殴りかかった。
1発当たったところで次の拳は乱れた服の日向に止められた。

「ひ…なた…日向!…大丈夫か?」
日向の顔を両手で包み込んで
鷹弥も泣きそうな顔をしている。

日向はポロポロ泣きながら鷹弥にしがみついた。
鷹弥は日向を抱きしめたまま圭輔を睨みつける。

「鷹弥…また…お前か。なんでいっつもそんなに邪魔すんの?ひなは俺の事が好きなのに。そうだよねぇ?ひな…」

日向は圭輔の表情を見てゾクッとした。
圭輔とはもう話し合いなんて無理かもしれない。
(私がバカだった)日向はそう思った。

「あ…もしかしてお前ももうひなとヤッたの?ひなはどこで気持ちよく啼くか知ってる…?」
圭輔が言う。

「イヤ…っ」
日向が言うと同時に鷹弥が
「聞くな」と日向の耳を塞いで顔を自分の胸に埋めさせた。

鷹弥は圭輔の異常な様子に気付いて少し冷静になった。怒りに任せると日向が危険になるかもしれない。…もうすぐカケルが来るはずだ。

「圭輔!お前、…何言ってんだよ、結婚したんだろ!そういう事は夫婦間でやれ!日向を巻き込むな!」
鷹弥は冷静に、でも強い口調で圭輔に言った。

「結…婚…」
圭輔はそう呟くとしばらく沈黙してスっと涙を流した。
鷹弥と日向は驚いた。

「そう…茜が結婚って…俺…ひなを失うって…」

(え…涙?…どういう事?…私を失う?)
日向は混乱したがそれを聞いた鷹弥がより強く日向を抱きしめた。

そこへまた勢いよくドアが開いてそこにはカケルがいた。
3人の様子を見て悟った。

「とりあえず…落ち着こう。鷹弥、ひなを奥に連れて行って。ひな、俺がちゃんと圭輔見てるから、中に入っても大丈夫かな?もう時期に朝だ…ここだと外にも丸聞こえだから」
カケルは冷静に対処する。

鷹弥は自分のシャツを日向の肩からかけてグッと日向を抱き上げるとそのまま寝室まで連れていった。

カケルは圭輔に話しかける。
「圭輔、お前…」
と声をかけると、呆然とただ涙を流してた圭輔がハッとした表情でカケルを見て言った
「…カケルちゃん…俺…」
と言って涙を流している自分の顔を触って
「俺…ひなに何を…」
と言ってうずくまった。

カケルはハァ…と少し優しく息を吐きながら
「正気に戻ったな…」
と言って圭輔をリビングに座らせた。

鷹弥は寝室のベッドに優しく日向を座らせると日向は鷹弥の服の裾をキュッと掴んで立っている鷹弥の顔を見た。

目からポロポロと涙を流して、ほとんど言葉にならないように
「ごめ…んなさ…い」と言った。

『ひなが罪悪感に耐えられるか…』

前にカケルが言った言葉が鷹弥の中で巡って不安になる。
圭輔が最後に言った言葉…
(日向はどこまで理解してしまった…?)

日向の首筋から胸にも…何個もある圭輔が付けたキスマークが酷く赤く痛々しくらいに見えた。

「一人にしてごめんな…」
鷹弥が言うと日向は黙ってうつむいて首を左右に振る。
鷹弥はそっと日向を抱きしめて頭を撫でた。

どれくらい時間が経っただろうか。
しばらく沈黙が続いてカケルはリビングでそっと圭輔に話しかける。

「圭輔。お前が今一番話をしなきゃいけないのは茜ちゃんじゃないのか?」

圭輔は答えないが、今は気持ちが通った顔をしている。カケルが駆けつけた時の表情を見て圭輔はいつもの圭輔じゃないとカケルはすぐ感じていた。

茜はわかってて結婚した事を知った圭輔は日向の事を考えて暴走して…
日向と会って爆発して…
鷹弥の存在でそれが頂点に達し
カケルを見て我に返った。

「茜が…ひなにあんな事…すると思わなかったんだ…茜が“わかってる”なんて俺全然…」
圭輔は苦しそうに言葉にして日向のいる寝室の扉を見た。

カケルはやっぱり…と思って少し息をつくと
「圭輔、お前はひなを怖がらせたんだ。とりあえずここは出よう…」

この部屋では日向にも聞こえてしまう。
カケルがそう言うと少し間があってから圭輔は頷いて

「ひなに謝りたい…」

と言った。

カケルはため息をついて寝室のドアをノックする。

「ひな、扉は締めたままでいい。このままで大丈夫だからちょっといいか?」

もし無理なら鷹弥がなにか言うだろうと少しカケルは反応を待った。

寝室では鷹弥は日向を抱きしめたままだった。カケルの言葉で鷹弥の腕に力が入る。
でも日向はその腕をそっとおろした。

日向は泣いた跡が残る顔でいつもの意思の強い表情に戻っていた。

そして日向は扉の前まで行くと扉越しに
「カケルちゃん…大丈夫。」
と答えた。

カケルは圭輔に頷いて扉の前から離れた。

圭輔は扉越しに
「ひな…本当にごめん…怖がらせて…本当に…」と苦しそうに言うともっと小さな声で
「もうここには来ないから…」と言った。

日向は扉に手を当てて聞いていたが、圭輔が言い終わるとドアノブに手をかけた。

カチャッ…

扉を開けて圭輔を見た。そして日向は初めて“それ”を口にした。
圭輔が日向から一番聞きたかった言葉を伝えた。

「圭輔さん…私…圭輔さんの事が本当に好きでした。大好きでした。」

日向は圭輔から目を逸らさず言った。もう泣いてもいなかった。

圭輔は泣きそうな顔ででも少し笑って
「ありがとう…」
と言った。

もう朝日が登っていた。

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