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彼女からの連絡

日向はコーヒーを飲んで少し落ち着いてからbrushupへ向かった。

店の前に着いたところでまたスマホが鳴った。

『はじめまして。圭ちゃんと付き合ってる茜です。LINEのグループに入れてもらったんだけど、ひなちゃんには今日会えなかったのでご挨拶だけ…と思って直で連絡しました。今日お会いした方からひなちゃんのお話もいっぱい聞きました。また機会があったらお会いしてみたいです♡』

衝撃を通り越して放心状態になった。
しばらく固まってたら横に鷹弥が立っていた。
「入んないの?」

それにも上手く答えられずにいたら鷹弥が突然手を取って店とは逆方向に引っ張って歩き出した。
日向は戸惑いながらもついていくと途中缶コーヒーを買ってちょっと離れた公園のベンチに座って私に缶コーヒーを渡した。

鷹弥「ん。飲んだら?」

日向「えーっと…あの…」
鷹弥の行動も意味不明だけど、それを考える余裕はなかった。

鷹弥「いーよ。喋んなくて。なんかいっぱいいっぱいなんでしょ?落ち着いて頭整理したら?」

ごもっともな鷹弥の言葉に日向はひとまず冷静になれた。

あのLINEは不意打ちだった。
まさか直で連絡してくるとは思いもしなかった。そしてあの女子力高めな内容にも度肝を抜かれた。怪しんでる、とかそういうのじゃないよね?ただのご挨拶だよね?
…普通の女子はあのLINEになんて返信するんだ?
日向はゆっくり考えた。

鷹弥のくれたコーヒーを一口飲んでもう一度スマホを開いてLINEを見る。

ここで拒否はおかしいだろう。ととりあえずお友達追加ボタンを押す…

あ、既読になってしまった!

えーっと…返信は…

『はじめまして。日向と言います。私も今日行けなくて残念でした。またよろしくお願いします。』

…こんな感じか?
うーん…もういいや!“送信”

ふぅ…

♬︎~(返信)

えっ返信早ー!!!
スマホを落としそうになった。

茜からの返信は
猫がよろしくね♡と言ってる『スタンプ』だった。

…えーっと…
これはもう返信しなくていいよね?

はぁー…

ドッと疲れた…

日向が横を見ると鷹弥が笑いを堪えてこっちを見てた。
目が合うと限界の様子で吹き出した。
「ゴメンゴメン!真剣に悩んでるのに」

その事よりも私には鷹弥の笑顔の方が意外なんですけど?
日向はそう思ったけど言わなかった。

日向「いや…なんかものすごく私にはハイレベルな一件だった…ハハッ…」

鷹弥「うん、顔みてたらなんとなくわかった」
そう言うと鷹弥はまた喋らなくなった。

不思議な人。
でもこの人の無言はいつもなんだかすごく落ち着く。日向はそう思っていた。

「店、入る?」
少し経って鷹弥が言った。

日向「あ、うん、ごめん!このコーヒー代…」
言いかけるとすぐに鷹弥は
「いいよ、行こっ」
と言って歩き出した。

日向「ありがとう…あのね、」
日向「私煮詰まるといつもブラックコーヒー飲んで落ち着くの。」
そう言って鷹弥が買ってくれたブラックコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てた。

なんでこの人にはわかっちゃうんだろう?
鷹弥は何も言わず優しい顔で笑った。

鷹弥のおかげで少し落ち着いた。
今の状況は全て自業自得。
大丈夫。何があっても動じちゃダメだ。

日向はくっと顔を上げてbrushupに入った。

入るとすぐのところに圭輔がいた。
「おっ!ひな、やっと来たー」
と言って恒例のように頭を触る。

アキちゃんも奥から「ひーなー♡」と近寄ってきた。
今日は昼間っから飲んでるせいかみんなすでにかなりできあがってる。

少し遅れて鷹弥が店に入ってきていつものようにカウンターに座った。

「ひな、おつかれ。」
と言って圭輔が優しく笑う。
日向は『会いたいし』のLINEが頭をよぎって顔が熱くなる。
(茜さんからのLINEの事は私からは言わない。きっと聞くなら茜さんから聞くだろう。)
日向はそう思った。

カケル「ひな、ビールでいい?」
カケルがカウンターから声をかける。
日向「うん、お願いします!」

奥のテーブル席にみんなで座った。
当たり前のように今日のBBQの話で盛り上がる。アキはご丁寧に写真を順番に見せながら説明してくれる。
圭輔のお店の人以外は彼女に会ったのが初めての人も多く、「圭輔の彼女がさー…」なんて会話も飛び交う。
会いたくないなんて思った自分がバカだった。こんなに間接的に報告されるくらいなら堂々と会えるくらい悪女になりきればよかったんだ。
日向は人様の物を欲しがっておいていい子でいようとした自分があさましく思えた。
もし次に同じような事があったら絶対逃げないと決めた。

日向はアキが順番に見せる写真にいつ彼女が出てくるのかドキドキしながらその時が来た時の反応をぐるぐる考えてた。

その時、圭輔がみんなにバレないように隠れてギュッと日向の手を握った。

それすらもう嬉しいのか悩ましいのかわからないくらい日向は複雑な気分だった。

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